第16回 採用・人事支援フリーランス すぎもとあやさん
【プロフィール】
フリーランス業務歴:4年目
業務内容:東証一部上場企業からスタートアップまで複数社での企業人事として、一連の人事業務を延べ8年間に渡り経験する。その後フリーランスとして独立し、業界や企業規模を問わず採用・人事領域の支援を行う。
具体的には採用戦略・採用広報戦略の立案、難易度の高いポジションの母集団形成、採用チームの業務効率化など採用領域から支援に入り、その中で見えてくる組織課題の解決に発展していくことが多い。
採用人事の専任がいなかったり日常業務で手一杯であったりするクライアント企業の支援を通じて、「前に進むことができた」「解決策が見つかって課題を解決できた」などの声が寄せられた時に喜びを感じる。
採用人事の担当者におすすめしたい3冊は?
◆『職場の問題地図 ~「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』
(沢渡あまね著/技術評論社)
企業内でよく発生する課題が「職場の問題地図」として整理されていて、自分の会社がどの区域にいるのかを俯瞰して見ることができます。たとえば、3丁目「報連相できていない」や10丁目「だれが何をやっているのかわからない」といった表記で、そこから派生する課題をたどっていくと4丁目「無駄な会議が多い」に辿り着くことがわかる、といったマップになっています。
特に「設立して10年以上が経った」「社員数が50人を超えた」など、一定の年月や企業規模に成長した組織にありがちな課題がまとっているので、該当フェーズにいる会社の人事担当者にとって便利な本だと思います。もう少し手前のフェーズにいる会社であれば、これから組織で起き得る課題として、反面教師のように使えるのではないでしょうか。
本書を読んだのは、人事として勤めていた企業が急拡大して取り組むべき課題が山ほどあり、優先順位づけに迷っていた頃です。また自分自身の役職が上がり、意思決定をしたりメンバーの指導をしたりする立場になった頃でもありました。メンバーが納得する判断や指示を行う必要性が増したため、全社的に課題整理をしたいタイミングだったといえます。
そこで本書のマップを指差し確認しながら、まずは自社で何が起きているのか課題の棚卸しをしました。それを当時のメンバーに共有すると、共感の嵐。さらにメンバーから見えている課題を肉付けして上司に共有したところ、現状に対する理解を深めてもらうことができました。
マップを元に「取り組むべき課題 ・そうでない課題」「取り組む場合の優先順位とゴール」などについてチーム内での目線を合わせたことでアクションが取りやすくなりましたし、人事チームが何を課題として動いているかを説明できるようになったことで、他チームからの依頼にも応えやすくなりました。
◆『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』
(宇田川元一著/NewsPicksパブリッシング)
誰かと一緒に働くことで、事業はより成長する可能性があります。しかし同時に人間関係が理由でモチベーションが低下したり、辞めていったりする人が多いのも現実です。本書は「対話(dialogue)」を切り口に、組織で起きる「わかりあえなさ」から始まる諸問題をいかに解くかを言語化しています。
印象的だったのは、第2章「ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス」です。本書では、ナラティヴ(narrative)とは立場や役割、専門性などによって生まれる「解釈の枠組み」だと言います。人間関係の課題を解決するステップとして、互いの間に「溝があることに気付く」ことから始まり、続いて「溝の向こうを眺める」「溝を渡り橋を設計する」、最後には「溝に橋を架ける」ように行動することが紹介されています。
第7章「ナラティヴの限界の先にあるもの」では、実践の難しさが語られています。ハウツー本では理想論が示されがちですが、読んだ後に実践する現場の我々と同じ目線で著書を締めくくっている点に救われた思いでした。
私は「人事=事業を前に進めるために組織のカルチャーをデザインする役割」だと考えています。メンバーが最大限のパフォーマンスを発揮する支援ができるように、診断ツール「ストレングスファインダー」の認定資格を取得しました。本書は、個々の強みを効果的にチームの成果につなげたいと思い、手に取りました。
読後は、成果を出せる組織づくりに貢献していきたい思いがますます強まりました。新規事業に取り組むスタートアップはもちろん、既存事業のブレイクスルーを狙いたい組織にとっても学びが多い本だと思います。
◆『V字回復の経営 2年で会社を変えられますか』
(三枝匡著/日本経済新聞出版)
著者の三枝匡さんは元気を失った事業を立て直しV字回復させる事業再建コンサルタントです。この本は、事業に伸び悩んだある日本企業がV字回復を果たすまでの取り組みが描かれています。
ドキュメンタリーであり小説のようでもあり、参考書の面も持ち合わせる本です。1つの事業が当たることで急成長した会社が抱えがちな「今はなんとかなっているけど、このままでは危ないかもしれない」という焦燥感を感じたことがある方には、とても刺さると同時に勇気をもらえる本だと思います。
登場人物に共感しながら、手に汗握る気分でどんどん読み進めていきました。特に印象的だったのは改革のために選抜メンバーでタスクフォースが組まれ、全員で合宿をするシーンです。経常的業務・戦略・組織の面で問題点を8時間かけて書き出し壁に貼った結果、計500枚にもなります。
- 社内の問題にばかり目がいく
- 市場の状況や競合企業についてはほとんど知らない
- 問題を個人の視点や感情をベースに捉えてしまい組織として議論できない
- 自社の事業が世の中に何をもたらしているか理解していない
上記のような課題がつまびらかにされることで覚悟を決め、改革に向き合っていくタスクフォースメンバーの姿を読み、まるで自分自身のことを指摘されているような気持ちになりました。
本書を読んだ後、当時所属していた会社の上司や他部署の責任者に本書を紹介しました。そして読んでどんな気持ちになったのかを会話の糸口に、「これから何をやりたいのか」を意見交換したところ、聞いたこともなかったそれぞれの想いを話してくれました。
この経験から、自分が「改革マインド」になれば同じ温度で反応してくれる人がいると実感できました。人事だけでは会社は変えられないので、少しずつ周りを巻き込んで改革に取り組めばいいのだと教えてくれたのもこの本です。
【成長フェーズの企業人事担当者へのメッセージ】1人で抱え込まずに視野を広げる取り組みを
事業も組織も成長フェーズにある企業では、数少ない人事メンバーが日々の業務に忙殺されて社内の課題で手一杯になってしまい、自社を俯瞰したり市場や社会情勢に目を向けたりする余裕がないことも多いのではないでしょうか。そんな日々の中で課題を正しく理解・整理するのは大変ですよね。
私自身、「フリーランス人事」という前例がない働き方で1人きりのスタートだったので、当初は相談できる人を見つけられず遠回りしたり、抱え込んだりすることが多かったです。そんな中、日々感じることをSNSで発信していたら企業人事の方が相談に乗ってくださったり、職種は違えど同じフリーランスの方がアドバイスをくださったりと、次第に助け合いのネットワークができました。
現在では同じくフリーランス人事として活躍される方や、副業人事として働く方もいて、仲間が増えて嬉しいです。働き方の垣根なく同じ人事仲間として助け合える環境に救われています。
1人で全てを解決しようと思わずに本から知見を得たり、他社の人事と情報交換をしたり、より知見を持っている専門家に相談したり、方法はたくさんあります。自分だけで抱え込まずに視野を広めることをオススメします!
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan + ノオト