第11回 三和交通株式会社 吉田建一さん
【プロフィール】
採用人事の業務歴:1年半
担当業務:グループ企業の新卒採用・中途採用、人材紹介
三和交通株式会社は、神奈川県、東京都、埼玉県でタクシー・ハイヤー営業を手掛ける。SNSを使った広報活動が話題で、TikTokには13万8,500人ものフォロワーがいる。
吉田さんは2017年5月に同社へ中途入社。ドライバーを4カ月、無線オペレーターを8カ月、渉外担当を2年間勤めた後、採用人事を担当している。
採用人事の担当者におすすめしたい3冊は?
◆『老舗の流儀 虎屋とエルメス』
(黒川光博、斎藤峰明著/新潮社)
「エルメスの真髄はものづくりにある。もしライバル企業を強いて挙げるとしたら、日本の老舗和菓子屋『虎屋』である」。エルメスのフランス本社副社長を務めた齋藤峰明さんが、ある雑誌のインタビューで答えた回答です。そこから、同書である虎屋17代目の黒川光博社長との対談集の発売が決まったようです。
馬具工房から始まり、カバンや洋服などで有名になった創業1837年のエルメスと、和菓子メーカーとして500年以上の歴史を持つ虎屋は、どちらも老舗企業です。そんな両社の考えが、話し言葉でわかりやすく書かれています。タクシー業界とは大きく異なる業界ではありますが、根底には「働く」という共通点があります。
印象的だったのは、『「会社」「働く」を突き詰める』という章にある『会社で働くことの大きな目的は社会と接点を持つこと、人々を幸せにして自分も幸せを感じること』という点です。
日々、業務に追われる中、働くことへの基本理念をふと思い出させてくれる一冊です。
◆『ペルソナ 脳に潜む闇』
(中野信子著/講談社)
脳科学者である中野信子さんの自伝です。彼女は人間関係に苦手意識を感じたことから、脳科学に興味を持ったそう。
この本を読んで、私は自分自身の「無意識の中の意識」が明確になりました。何気ない言葉や行動は、無意識から生じますが、それらをあえて意識して発するように変われば、結果的に「何か」を生み出せるのではないでしょうか。業務上のイノベーションにも、この「無意識の中の意識」が必要だと思います。
また、「頑張ってね」という言葉が無責任だと言われる理由についても考えさせられました。人には、それぞれ考え方などの背景があります。日常のコミュニケーションではそうした背景まで目が届きません。でも、相手を「気遣う」ことで見えない部分を補えるのかもしれない、と気付けました。
◆『深夜特急』
(沢木耕太郎著/新潮社)
1986年から刊行された全6巻の紀行小説シリーズです。主人公はインドのデリーからイギリスのロンドンまでを、バスを使って一人旅します。
バックパッカーへの憧れを募らせながら、あっという間に読破してしまった本です。ぜひ、若い方に読んでほしいですね。主人公の姿を通して、目標設定の大切さと達成への意義が感じられます。採用担当者の立場から、主人公のように仕事を投げ出して旅に出かけましょう! ……とは大きな声で言いにくいですが、読了後は、とにかく「世界」に出たくなるでしょう。
異文化に触れると、人間としての深みが増していくはず。そういった意味で、採用人事の担当者の皆さんにもおすすめしたい本です。新人や後輩へのアドバイスの引き出しがきっと増えると思います。
私自身が研修で新入社員に接する際は、本書を参考に、新しい「立ち位置」への順応性が大切だと伝えています。「新しい仕事に就く」ことは、「新しい文化に触れる」ことでもありますから。
【自社での取り組み紹介】一度始めたことは最後までやり続ける
当社はTikTokなどのSNSを使った「採用広報」がたびたび話題となります。そもそも、採用広報をしようと思ったきっかけは、会社の認知度向上と乗務社員の採用という間口を広げたいと思ったからです。
タクシー業界は従業員の年齢層が50〜60代と高く、10年後には人材不足に陥る可能性があります。だからこそ「採用広報」と銘打って、SNSなどを使った発信に力をいれる必要があったのです。
とはいえ、SNSを開始した2013年頃は、「遊んでいるだけでは」「何しているの?」と社内から奇異の目で見られることも多くありました。それでも試行錯誤するうちにSNSでバズり、人の目に留まる機会が増えるようになったのです。すると社内の雰囲気が一変し、「最近、観ているよ」「この間の企画、楽しかったね」と声をかけてもらえるように変わりました。
採用人事の奥深さは、常に変化する求職者の要望を見極める点にあります。SNSだけでなく、求人原稿を作成する時は、新たな切り口を見つけられるよう、求職者や現場の担当者とコミュニケーションを密に取るよう心掛けています。
読者の中にも、SNSなどを使った新しい取り組みを始めようとしている方がいるかもしれません。一度始めたことは、最後までやり続ける姿勢が大切です。
ひょっとしたら価値観の違いから、社内から否定の声が出るかもしれませんが、定期的な改善は必要です。あくまでもイノベーションと捉えることが大切なのではないでしょうか。
思ったように人が集まらない時や、予想に反して反響が少ない時はこの仕事の大変さを痛感します。そういう時の一番の解決策は、「とにかく恥を捨てて人に聞くこと」です。たとえ相手が後輩であっても、何かヒントになることが聞けるはずですから。
採用した相手が、入社後に入社前とのギャップを感じるのはある程度仕方ないこと。フォローの仕方は相手の特性を早く見極めて対応を変えつつ、積極的に声を掛けるようにしています。
TEXT:ゆきどっぐ
EDITING:Indeed Japan +ノオト