第15回 エンジニア採用・採用広報支援フリーランス 伊藤哲弥さん
【プロフィール】
業務内容:スタートアップ・ベンチャー企業向けのエンジニア採用、採用広報のコンサルティングと実務サポート
2012年に法人向けデジタルPR事業を展開する企業へ入社。副事業部長として主要事業を統括しながら、セミナー・イベントの開催や登壇、メディアへの記事寄稿を行う。その後はリクルーティングサービスを提供するスタートアップに参画。ビジネスサイドの幅広い業務に加えて広報業務を担当した。
2020年11月からフリーランスとして、エンジニア採用の手法やプロセス改善の提案、ダイレクトリクルーティング業務の代行、採用広報戦略の策定などを幅広く手がける。豊富な経験から得た知見を企業に伝えることで、ノウハウが一般化されていないエンジニアの採用活動と採用広報が前進することにやりがいを感じる。
採用人事の担当者におすすめしたい3冊は?
◆『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』
(唐木元著/インプレス)
ポップカルチャー専門のウェブメディアで実践される、文章を書く時のノウハウを紹介する書籍です。求人票や採用広報記事、スカウトメールなど、文章を書く機会が多い採用人事担当者がすぐに実践できる、具体的で細かいドキュメンテーションテクニックが満載です。
採用人事の担当者はもちろんのこと、社会人経験が浅い方や「文章がわかりにくいと指摘される」「表現に迷い時間がかかる」「書いている内に何を書いているのかわからなくなる」といった悩みを持つ方におすすめです。他の人が書いた文章について明確な理由を持ってフィードバックできるので、社内メンバーの文章改善にも役立ちます。
1章が見開き1ページにまとめられていてすぐに読み切ることができるので、時間がない人、飽き性な人にとっても非常に実践的な書籍だと思います。
私は本書を読むことで基本的な文章ルールについて「なぜそうなっているのか」を理解できて、自信につながりました。苦手意識を持たず文章執筆に向き合えるようになったことは、文章を書く機会が多い仕事をするなかで大きなメリットだと考えています。
◆『DevRel エンジニアフレンドリーになるための3C』
(職業「戸倉彩」、中津川篤司、小島英揮著/大内孝子編集/翔泳社)
本書はDevRel(Developer Relations:開発者向け共創マーケティング)と呼ばれる、自社製品・サービスと外部開発者・ユーザーとのつながりを作り上げる活動をテーマに執筆されていますが、エンジニア採用を行う人事担当者にとっても、エンジニアという職種の性質やコミュニケーション手法を知るために有用な本です。
特にエンジニア向けの採用広報に取り組もうという方には、「エンジニアとどのように接点を持っていくべきか」「エンジニア向けのコミュニティをどう作っていけばよいか」を考える助けになるでしょう。
本書で紹介される「3C」というキーワードがあります。これはContents、Community、Codeのことです。
最初の2つはどの企業もイメージしやすく、採用広報活動でも既に意識されているでしょう。一方で、3つめのCodeは、自社プロダクトの開発コードをはじめ、開発環境やシステム構成等を外部に公開する取り組みを指します。採用ターゲットとなり得るエンジニアへの情報提供は重要です。また自社の課題を公開することで、その解決スキルを持つエンジニアの興味を惹くことにも繋がります。
本書は、エンジニア採用サービスの広報を担当していた時に読み、役立ちました。またDevRelという言葉は知っていたものの、具体的に何を行うのかぼんやりとしかイメージできていなかったので、この本を読むことで答え合わせができました。
◆『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』
(エイミー・C・エドモンドソン、村瀬俊朗著/野津智子訳/英治出版)
「心理的安全性」という言葉はビジネスの現場におけるバズワードになっています。しかし本来の定義やメリットを理解している組織は多くないでしょう。心理的安全性の本質を理解し、それをどのように作り上げるかを知ることで、多くのスタートアップ・ベンチャー企業は成功確度を高められると考えます。
そうした理解の手助けとなるのが本書です。「チームの心理的安全性」という言葉を提唱したエイミー・C・エドモンドソン教授が、正しい定義とその効果について解説しています。
この本には「不確かで曖昧な環境であるスタートアップ・ベンチャーでは、プロセスと結果の関係性は単純ではない。その原因を探り、分析して成功確度を上げていく試みが大事だ」という趣旨の解説があります。イノベーティブであるためには、心理的安全性がなければいけない。心理的安全性がない企業からは、イノベーションが生まれないという事実が心に残りました。
スタートアップ・ベンチャー企業において心理的安全性という言葉がもてはやされている背景、またGoogleに代表される先進的な企業で重要視されている理由が見えた気がしました。「なぜなのか」を理解できたことは、大きな収穫です。
【採用担当者へのメッセージ】採用人事領域の専門家として経営に参画していこう
私が支援する採用広報の領域はノウハウが知られておらず、多くの企業が「採用広報を進めたい」と思っても何から手を付けていいかわからない状態です。特にエンジニア採用は、求人倍率の高まりから、自社に来てほしいスキルを持った人に効果的なアピールをするのが難しい状況になっています。
フリーランスとしてさまざまな企業の採用活動を支援するなかで、事業目標から逆算した途方もない採用目標に対して頭を悩ませる多くの採用担当者に遭遇してきました。実現不可能な採用目標が経営メンバーによって策定され、目標未達となるケースも多くあります。
こういった事態を防ぐため、経営メンバーが無茶な目標を見直すことはもちろん、現場の採用人事担当者にもできることがあるのではないでしょうか。採用人事の目線から、経営メンバーに対してフィードバックできる体制を作ってみてください。経営目標を達成するため、また場合によっては現実的な目標へ修正するために、採用人事領域の専門家として経営に参画していきましょう。
今回ご紹介した3冊はビジネスパーソンとしてはもちろんのこと、採用人事領域の専門家として有用な知識やスキルを身に着けるのに適している本です。それらの知識やスキルについて表層にとどまらず、「なぜなのか」という背景や本質を理解する助けにもなると思います。皆さんの採用活動が前進する一助になれば幸いです。
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan +ノオト