雇い止めとは
雇い止めとは、有期雇用契約において、会社が雇用期間を更新せずに契約を終了させることです。「更新拒絶」ともいいます。有期雇用契約は雇用期間を定めた契約であるため、期間の満了に伴って終了するのが原則です。
あくまでも雇い止めとは雇用期間が満了した時点での契約終了を指し、期間の途中で雇用契約を終了させる場合は「解雇」となります。
雇い止めが制限されるケース
◆法律上の制限を課す「雇止め法理」
有期雇用契約社員の雇い止めが不当に行われないように「雇止め(やといどめ)法理」が定められています(労働契約法第19条)。一定の状況下において「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は雇い止めを認めないとするものです。
「雇止め法理」に基づき、下記のいずれかに該当するようなケースで、かつ有期雇用契約社員が遅滞なく契約更新を希望する申込みをした場合は、雇い止めが制限され、同一条件で契約を更新する必要があります。
1.雇い止めが無期雇用における解雇と同視しうる場合
更新手続が形骸化していたり、長期雇用を前提とした福利厚生を適用していたりと、その雇い止めが無期労働契約社員や正社員の解雇と同視できると考えられる場合。
2.更新の期待に合理性がある場合
過去に契約更新されていたり、上司が口頭で「来期もお願いします」と告げていたりと、有期雇用契約社員が次回の更新に合理的な期待を抱くような状況であった場合。
雇い止めをする際の注意点とは?
◆契約更新をした後に、雇用の一方的終了はできるのか
契約更新後に契約期間の満了を待たず契約を終了することは、雇い止めではなく解雇となります。天災や、従業員が懲戒解雇となるようなやむを得ない事由がない限り、有期雇用契約期間中である従業員の解雇は認められていません。(労働契約法第17条)
◆更新直前に更新上限を設定した場合はどうなる?
更新直前に、更新年数や更新回数の上限を定めた上で有期雇用社員に契約を打診した場合、本人が「拒絶をしたら今回で雇用が終了してしまう」という理由から承諾し、契約をしてしまう可能性があります。この場合、本人の「真意に基づく判断」ではなかったとして、更新を制限する合意の効力に疑義が生じるケースもあります。
◆更新について慎重に検討する
有期雇用契約の更新を繰り返して通算期間が長くなるほど、有期雇用社員の更新に対する期待に合理性があると判断されやすくなります。更新上限を設けたい場合は、初回の契約時に条項に盛り込み、会社側がきちんと説明し理解を得た上で契約を結ぶのが望ましいでしょう。
◆安易な言動を控える
「これからもお願いします」「今後も働いてほしい」など、上司などからの発言によって更新に対する期待を抱かせてしまう可能性があります。更新が決定していない場合は安易な言動は避けるようにしましょう。
◆雇用契約は正確に取り交わす
有期雇用契約期間の更新の際に書面を作成していなかったり、更新後に手続を行ったりと、更新手続きが形骸化している場合、実質的に「正社員との雇用契約と同視できる状態」と見なされて雇い止めが無効になるケースがあります。普段から雇用契約についての手続きは期限内に正確に行うことが重要です。
有期雇用労働者が雇い止めに納得がいかなかったときはどうなる?
有期雇用労働者である従業員が雇い止めに納得がいかない場合は、「雇止め法理」に基づく雇い止め規制の適用を求め、会社に対して有期労働契約更新の申込みを行います。その後も会社側と話がまとまらない場合は、訴訟に発展するケースもあります。
会社は、常日頃から雇い止めに対する理解を深め、従業員と良好な関係性を築けるよう努めることが重要です。
※記事内で取り上げた法令は2022年6月時点のものです。
<取材先>
ベーカー&マッケンジー法律事務所 弁護士 パートナー 村主知久さん
コーポレート/M&Aグループに所属。18年間の実務経験を有し、国内外の依頼者の労働問題全般(労働条件整備、人員削減、労働紛争処理等)の対応に加え、多数のM&A案件(クロスボーダーを含む)を主として労働法の観点から関与。また、その他企業内不正調査、訴訟紛争に加え、労務以外の一般企業法務等にも携わる。
ベーカー&マッケンジー法律事務所 弁護士 シニア・アソシエイト 桐山大地さん
コーポレート/M&Aグループ及び労働グループに所属。国内外の人事労務案件に精通し、主に多国籍企業の日本での事業運営及び日本企業の海外での事業運営に関する人事労務上の問題について、幅広く戦略的なリーガルアドバイスを提供。近時はプラットフォームビジネスに代表される新しい働き方に伴う問題にも積極的に携わる。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト