夜勤とは
「夜勤」とは、大多数の人が寝ている深夜に労働することをいいます。労働基準法では、午後10時から午前5時までを「深夜帯」と定義し、この時間帯に働く労働者には、1時間あたり25%の「深夜労働割増賃金」を支払うよう定めています。
夜勤は、午後9時に出社して翌日の午前5時に退社するなど、勤務時間が深夜0時をまたぐケースも少なくありません。暦日ベースで考えると2日にわたって勤務している状態ですが、行政通達(1988年1月1日基発第1号)により、以下のような取り扱いとなります。
「継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の1日の労働とする」
つまり、深夜0時をまたいだ勤務でも、労働日の取り扱いは1日勤務のカウントとなります。


日勤契約の労働者に夜勤をしてもらう際の注意点
労働者と夜勤前提の労働契約を結んでいる場合は、事前に夜勤シフトを明示するだけで問題ありません。しかし、日勤契約の労働者に夜勤をさせる場合は注意が必要です。
夜勤を含め、始業時刻および終業時刻を変更して働いてもらうためには、原則として就業規則などで「業務上の都合により労働時間が変更される場合がある」旨を、前もって労働者に周知しておく必要があります。
そうすることで、企業は労働時間の変更命令を下す権利を得て、通常日勤の労働者に夜勤をさせることが可能になります。
夜勤の労務上の取り扱い
夜勤が連続するケースであれば、日勤が連続するときと同様の取り扱いで問題はありません。ただし、深夜労働割増賃金が発生します。
気をつけたいのは、夜勤後の日勤および日勤後の夜勤です。それぞれの時間帯が連続していれば1勤務となり、夜勤後の日勤時間、または日勤後の夜勤時間は残業扱いとなります。
繁忙期など、長時間勤務が見込まれる場合には、あらかじめ「1カ月変形労働時間制」を導入しておくことをおすすめします。1カ月変形労働時間制の導入には、労使協定の締結と就業規則への明記が必須です。
1カ月変形労働時間制とは、1カ月の範囲内で1週間の平均労働時間が40時間以内であれば、労働日ごとに労働時間を変更できる制度です。変形期間内の総労働時間を調整するために、休日を増やすなどの対応が必要にはなりますが、導入によって以下が可能になります。
- 1日の労働時間が8時間を超過する労働
- 特定の週に労働時間が40時間を超過する労働
夜勤と36協定の関係
労働者に時間外労働(残業)や休日労働をさせるには、企業と労働者の間で「36協定」を締結し、労働基準監督署に提出する必要があります。それは、日勤であっても夜勤であっても同様です。
日勤、夜勤ともに時間外労働が発生すれば、1時間あたり25%の割増賃金を支払わなければなりません。夜勤かつ時間外労働になると「深夜労働割増賃金25%+時間外労働割増賃金25%」で、割増賃金率は50%になります。
また休日労働の場合は、法定休日(労働基準法で定められた休日)か法定外休日(企業が任意で定めた休日)かによって割増率は変わります。
夜勤かつ法定休日労働の場合は、「深夜労働割増賃金25%+休日労働割増賃金35%」で、割増賃金率は60%です。法定外休日は法律上、休日労働ではなく時間外労働という位置づけなので、「深夜労働割増賃金25%+時間外労働割増賃金25%」となります。
夜勤にまつわるトラブルを回避するには
繰り返しますが、通常日勤の労働者に夜勤をさせる場合、労働契約書や就業規則などに「労働時間を変更する可能性がある」と記載しているなど、明確な根拠が必要です。根拠があれば、企業は労働時間変更命令を下す権利を有し、仮に労働者が拒否すれば債務不履行(業務命令違反)として、就業規則に基づいて懲戒処分も可能です。
逆に日勤以外には労働させないことが明らかであれば、労働者本人の意に反して深夜に働かせることはできません。
労働基準法第5条では、「暴行、脅迫、監禁、その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって労働者の意思に反して労働を強制してはならない」と規定しています。違反すると、労働基準法でもっとも重い罰則である「1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金」の対象となります。
労働時間の変更にともなうトラブルを回避するには、求人票に勤務時間が変更になる可能性があることを明記し、採用面接時にもきちんと説明し、入社後は就業規則を提示するなど、再三にわたって口頭や文書で労働者に伝えることが大切です。
たとえ、夜勤をさせることに問題はないとしても、日勤と夜勤が入り混じった勤務形態や、深夜帯を含めた長時間労働が続くと、労働者の体調管理は難しくなります。
日勤後の残業が多少増えたとしても夜勤を極力減らしたり、「勤務間インターバル制度」(勤務終了後、一定時間以上の休息時間を設ける制度。残業で終業時間が遅くなった場合には翌日の出勤時間を遅らせるなど)を導入したりするなど、労働者に負担の少ない働き方の検討は企業の義務といえるでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年3月時点のものです。
<取材先>
特定社会保険労務士 杉山晃浩事務所 代表 杉山晃浩さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


