定額残業代制とは
定額残業代制とは、一定時間分の労働や深夜労働、休日労働に対して支払われる手当で、「固定残業代制」や「みなし残業代制」と呼ばれることもあります。労働基準法などの法律で定められた制度ではなく、企業の判断で導入するかどうかを決められます。
1カ月あたりの時間外労働の上限は、労働基準法に基づき、原則として45時間までと定められています。この範囲内で、どこまでの残業時間を定額残業代として考えるかは企業によって様々です。社内で金額を一律にする場合もあれば、社員一人ひとりの基本給や業務内容により判断するケースもあります。
定額残業代を導入するメリットデメリット
◆導入するメリット
月に支給する金額をあらかじめ設定できるため、企業としては残業代の計算がしやすいなど労務管理が簡素化できるようになります。求人広告を出す際に、基本給に定額残業代分を上乗せした金額を記載できることもメリットの一つです。
労働者にとっても、残業時間が定額残業代制で決められた時間に満たなくても毎月決まった額を支給される利点があります。
◆デメリット
「なんとなく便利そうだから」と企業が定額残業代に関する正しい知識を持たないまま導入すると、トラブルに発展する可能性も想定されます。導入する際は、社会保険労務士または弁護士に相談して運用についてのアドバイスを受けるといいでしょう。
定額残業代に多い誤解 違法になるケースとは?
定額残業代の知識が不十分だと違法になる可能性もあります。運用にあたり、押さえておきたいポイントを見ていきましょう。
◆労働条件通知書・雇用契約書への記載方法
労働条件通知書や雇用契約書への記載もその一つ。給与について「月25万円(定額残業代を含む)」のような記載では、何時間分の残業時間につき残業代がいくら支払われるのかが不明瞭です。労働者とのトラブルを避けるためにも、労働条件通知書や雇用契約書には「基本給:月20万円、定額残業代:5万円(30時間分の時間外手当相当額)」のように通常の勤務で支払われる金額と時間外労働で支払われる金額と残業時間を明確にしましょう。
◆「定額残業代制を導入する=何時間残業をしても残業代が発生しない」わけではない
定額残業代制を導入したからといって、労働者が何時間残業をしても支払う額が固定されているわけではありません。労働基準法第37条により、労働者が定額残業代で決められた時間を超えて残業した場合、企業はその分の残業代を支払ことが義務付けられています。
支払われない場合は、労働基準監督署の調査等があれば企業へ指導が入ります。労働基準監督署から何度通達されても改善されなかった場合は、送検される可能性もあるので注意が必要です。
労働者は残業代を過去3年分までさかのぼって請求することができるため、企業はまとまった金額を支払わなくてはなりません。あるベンチャー企業で、過去2年分の従業員への残業代の不払いが発覚したため、予定していた株式上場を遅らせた事例もあります。万が一、不払いに気づいたら早めに支払うようにしましょう。
新規導入には社員全員の同意が必要
企業が定額残業代制を導入する際には、原則として社員からの同意が必要です。現状の支給額に定額残業代を上乗せするよりも基本給に定額残業代を含ませるケースの方が多く、改定後に基本給が下がってしまうことから、労働者にとって不利益になり、了承を得られない可能性もあります。導入後にトラブルに発展しないためにも、支給額が減らないようにするなど個別の対応が求められます。
参考
36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf
※記事内で取り上げた法令は2020年11月時点のものです。
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 寺島有紀さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト