残業申請制とは
残業申請制とは、残業を行う場合は、労働者が事前に「申請」を行い、上司や人事、企業が「承認」する必要があることを定める社内規則です。
たとえば「残業申請書」などの会社が定める書式を用いて、次のような内容を事前に申請します。
- 残業予定の日時
- 残業中に行う業務内容
- その際に必要な残業時間 など
労働者は承認を得られた場合のみ、残業が可能になります。
原則、企業側から残業が承認されなかった場合は、労働者は残業を行えません。ただし、労働者が企業側に無断で残業を行った場合は、働いた事実が残るため、労働時間としてカウントされます。この場合、企業は労働者(管理者・監督者を除く)に残業代を支給しなければなりません。
残業申請制のメリットとデメリット
残業申請制を導入することによって、企業と労働者には次のようなメリットとデメリットがあります。
◆メリット
- 事前申請して残業を行う場合、上司や人事、企業が残業を承認する必要があるため、長時間での時間外労働の抑制や減少につながる
- 企業側はサービス残業や不必要な残業時間を未然に防ぎ、必要な残業代のみを支払えばよいため、コスト削減につながる
- 残業時間が多い傾向にある労働者を把握し、業務の効率化や生産性の向上を図りやすい
- 適切な労働時間を管理し、労働者の心身の負担を軽減できる
◆デメリット
- 労働時間を削減する一方で業務量は変わらず、持ち帰っての残業やサービス残業などを招いてしまい、違法な残業代未払いが発生する可能性がある
- 早出残業や持ち帰り残業などで業務をカバーする方法が常態化する可能性がある。それにより実質的な長時間労働によって労働者の心身に負荷がかかり、勤労意欲が減退して離職につながる可能性がある
- 単純に「申請する」「承認する」だけの流れとなりやすいため、形骸化するケースがある
残業申請制導入の流れ
残業申請制を導入する場合は、次の2つのステップを踏んでいく必要があります。
1.「残業申請書」など会社が定める書式を用意する
残業する理由、予定時間、実際に行った時間などを説明するフォーマットを作成する
2.規定やマニュアルを整備・周知する
自社がどのようなルールで規定を行うか、部署ごとにどのようなルールを定めるかを事前に整備し、運用前に労働者に周知・連絡する
1と2はどちらが先であっても構いません。重要なのは各部署のニーズに合った規定を作成し、それを使いやすい形で運用していくことです。
また、残業する当事者である労働者が制度を知らなければ意味がありません。労働者へしっかりと周知・連絡することは企業の責任であり、最重要事項であると考えてください。
残業申請制を運用していく上でのポイント
残業申請制はほかの制度よりも比較的シンプルであり、導入コストもさほどかかりません。
しかし、導入自体は簡単な反面、適切に運用していくことが非常に難しい制度でもあります。
残業申請制のデメリットでも言及しましたが、残業申請制は「申請する」「承認する」という単純なワークフローです。それゆえに、いつの間にか形骸化してしまう企業が少なくありません。そのため、次のポイントを意識しましょう。
◆形骸化を防ぐための重要ポイント
- 申請手続きや申請書の用意はもちろん、承認までの流れや仕組みを整備する
- 労働者はタイムカードを正しく打刻し、管理側は適切に勤怠管理を行う
- マニュアルを活用して労働者に周知を徹底する一方で、管理職を対象とした教育を行う
いずれもごく当たり前のことですが、残業を「承認する側」である上司・管理職への教育が重要なことは間違いありません。
また、残業申請制に関連する仕組みを考えることは、自社の業務をどのように効率化していくべきかという視点を持つことにもつながっています。残業時間の削減だけに留まらず、併せて業務改善を検討することも念頭に置くとよいでしょう。
<取材先>
社会保険労務士法人 小林労務 大阪オフィス パートナー社会保険労務士
小松容己さん
東京都出身。明治大学経営学部卒業。2016年に株式会社小林労務に入社し、20年に「社会保険労務士」登録。22年3月、大阪オフィスの所長に就任。社会保険や労働保険手続き、給与計算実務、就業規則の作成・精査をはじめ、雇い主と従業員間のトラブル対応やセミナー講師等、多数実績あり。
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト