時差出勤とは?制度の決め方
◆時差出勤とは
時差出勤とは、1日の労働時間はそのままに、社員の始業時刻と就業時刻を早めたり、遅らせたりできる働き方です。
たとえば、1日の所定勤務時間が8時間(休憩1時間)で9時から18時まで勤務の会社が、8時から17時まで、10時から19時までになるなど、社員によって始業時刻と終業時刻を変更して時差をつけることで、満員電車によるストレスからの解放や、渋滞の回避などの手段として活用されています。
始業時刻が異なるからといって、その分勤務時間が増えたり減ったりするわけではなく、所定の労働時間分は働くことになります。
◆数パターンから選択するのが一般的
始業・終業の時間を社員が自由に決められるわけではなく、いくつかの勤務パターンの中から社員が選択するのが一般的です。
育児や介護、または夜間に学校へ通学するなど、ワークライフバランス促進の一環として取り入れている会社も少なくありません。
◆導入前に就業規則に記載する
始業時刻と終業時刻は、就業規則の絶対的必要記載事項とされているため、就業規則に記載するか、「○時間の範囲で始業および終業の時刻を繰上げまたは繰下げることができる」などと記載することが必須です。
そのため、時差出勤を取り入れ、始業時刻と終業時刻が勤務パターンによって複数存在する場合には、そのすべてを就業規則に記載しておきましょう。
時差出勤のメリット・デメリット
◆メリット
時差出勤のメリットとしてまず第一に、通勤ラッシュを避けられるため、社員の疲労度軽減とともに、コロナ禍での感染予防対策の効果が期待できることが挙げられます。次に、社員はプライベートと仕事との両立をさせやすくなることで満足度が上がり、仕事に対するモチベーションや生産性の向上にもつながる可能性があります。
また、時差のある海外との取引がある会社などでは、残業なしに早朝や夜間の打合せもできるため仕事がしやすいという利点があります。
◆デメリット
一方、デメリットとしては、職場に全員がそろっていない時間が増えるため、コミュニケーション不足に陥りやすく、チームワークが発揮しづらくなる懸念があります。
特に、朝礼や会議など全員がそろう必要があるときに不便を感じやすく、きちんと情報共有がなされているか注意が必要です。
また、代わりのきかない担当者が不在の場合、通常業務が滞ってしまうケースが生じやすくなります。
そのほかにも、朝や夕方など、誰がいて誰がいないのかがわかりにくくなるのもデメリットと考えられます。
フレックスタイム制との違い
近年、1日の労働時間が変わらない時差出勤のほか、始業時刻と終業時刻を自由に選べるフレックスタイム制度を導入している企業も増えています。
フレックスタイム制は、その自由度やルールは会社によって異なりますが、多くの会社では月間で決まっている総労働時間と、必ず出勤すべき時間帯(コアタイム)を守れば、自由に出勤する時間や退勤する時間を選ぶことができます。
今日は5時間勤務をして、翌日は9時間勤務をする、というような働き方も可能です。
それぞれの違いを理解して、どちらが自社に合っているか検討するのも良いでしょう。
時差出勤のトラブル事例と運用上のポイント
◆社員間での不公平感に注意
時差出勤を導入することで、社員間で不公平感が生まれるケースがあります。
たとえば、時差出勤の適用対象となる社員と、適用除外となる社員間で不公平感が生まれやすくなります。多忙な時間帯のシフトとなる社員が、暇な時間帯のシフトとなる社員に対して不平等と感じたりする事例もあります。
◆コミュニケーションを丁寧に取る
時差出勤によってコミュニケーションが不足し、人間関係がこじれやすくなる場合もあります。会社側はこまめに社員の意見を聞くなどしてトラブルを回避しましょう。
部署間では社員それぞれの勤務パターンを把握してもらうようにして、担当者が不在中の電話の取次ぎや対応について、あらかじめ取り決めをしておくと良いでしょう。
時差出勤における勤怠管理や残業代計算の注意点
◆社員ごとの実労働時間を把握
勤務時間が1パターンしかない場合に比べて、遅刻や早退などの勤怠の管理がわかりにくく、複雑になります。
出勤・退勤時間のパターンは会社によりさまざまですが、会社が用意した3~5パターン程度から選ぶ形式が多いようです。就業管理システムを活用するなどして、自社の勤務パターンをしっかり記録して把握しましょう。
◆時間帯による割増賃金に注意
時差出勤によって、始業時刻を繰り上げたり、終業時刻を繰り下げたりしたとしても、1日の実労働時間が8時間を超過しない場合には、残業代(時間外割増賃金)を支払う必要はありません。
ただし、22時から5時までの間に勤務する場合、深夜業の割増賃金(通常賃金の1時間あたりの25%以上)を支払う必要があります。1日8時間の勤務+休憩1時間の場合、時差出勤で13時を過ぎた時刻を始業時刻とすると、深夜業にあたる勤務が発生するので注意しましょう。
たとえば、時給2,000円の人が1日8時間働いた場合、1日の賃金は2,000円×8=1万6,000円/日となりますが、14時~23時に働いた場合、深夜業にあたる最後の1時間は、2,000円×1.25=2500円以上支払う必要があり、1万6,500円/日となります。
時給2,000円の人が1日8時間×週5日×4週働くと、月32万円です。もし、毎日14時~23時まで働くと、1万6,500円×5日×4週=月33万円となり、企業にとって3.125%の負担増となります。
数字としてはわずかかもしれませんが、時差出勤するだけで3%以上の負担増となり、他の従業員との不公平感が生じる可能性もあります。また、遅すぎる退勤時刻が続くことは、社員の健康にも影響を及ぼす可能性があるため注意しましょう。
◆休憩時間を変えるには手続きが必要
労働基準法第34条第2項では「一斉休憩の原則」が定められており、休憩は全労働者に一斉に与えるというルールがあります。出勤時刻の時間差が大きい場合、休憩時間は社員ごとバラバラになるため、一斉休憩ができない場合は、あらかじめ社員との労使協定の締結が必要です。
コロナ禍もあり、導入する企業が増えている時差出勤制度。メリットとデメリットを踏まえた上で、社員の意見を取り入れながら、上手に運用していきましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年2月時点のものです。
<取材先>
監修:うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト