残業手当の額が変わる? 法定割増賃金率の変更点

残業のイメージ

2023年4月1日以降、1カ月あたり60時間を超える時間外労働をした場合の中小企業の割増賃金率が25%から50%に引き上げられ、「残業手当」の額も変化します。引き上げ前に企業がすべきことなどを特定社会保険労務士の岡佳伸さんに伺いました。

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残業手当とは

「残業手当」は、1日8時間、1週間40時間を超える時間外労働をした従業員に対し、企業が支払わなくてはならない割増賃金を指します。

法定割増賃金率引き上げとは

法定割増賃金率の引き上げは、従業員の健康管理や長時間労働の是正を目的として行われました。大企業は2010年10月1日から適用されましたが、中小企業は2023年3月31日まで猶予期間が設けられていました。
 

◆割増賃金率の比較

月60時間を超える法定時間外労働に対し、企業は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなくてはなりません。なお、50%以上であれば、企業が独自の割合を設定できます。
 
・2023年3月31日まで

大企業は、1カ月の時間外労働(1日8時間・1週間で40時間を超える労働時間)が60時間以下の場合は25%、60時間超の場合は50%

中小企業は、1カ月の時間外労働(1日8時間・1週間で40時間を超える労働時間)が60時間以下の場合は25%、60時間超の場合も25%

・2023年4月1日から

大企業は、1カ月の時間外労働(1日8時間・1週間で40時間を超える労働時間)が60時間以下の場合は25%、60時間超の場合は50%

中小企業は、1カ月の時間外労働(1日8時間・1週間で40時間を超える労働時間)が60時間以下の場合は25%、60時間超の場合は50%参照:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます

 

◆深夜労働との関係

22:00〜翌5:00の時間帯に従業員に1カ月60時間を超える時間外労働をさせた場合、企業は深夜割増賃金率25%を支払わなくてはなりません。
 
さらに、残業手当も発生するため、割増賃金率は「25%+50%=75%」となります。

 

◆代替休暇とは

企業は従業員に引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに休暇を付与する「代替休暇」を設けることができます。
 
代替休暇を設けるには、下記の4つを過半数組合、または過半数労働者による労使協定で締結し、条文を就業規則に記載することが必要です。

  • 代替休暇の時間数の算定方法
  • 代替休暇の単位(1日、半日、1日または半日のいずれかを選択)
  • 付与期間
  • 取得日の決定日、割増賃金の支払日

代替休暇は従業員を休息させるための制度で、実際に取得するかどうかの判断は従業員に委ねられています。割増賃金や単位の計算が煩雑になることから、代替休暇を導入せず法定割増賃金率の引き上げを選択する企業がほとんどです。

残業手当の計算方法

残業手当の計算方法はいくつかありますが、年間の総休日と所定労働日数を固定して計算する方法が一般的です。
 
下記の例を元に解説します。
 
例)ある従業員が24時まで勤務した場合
年間休日:125日
所定労働日数:240日
勤務時間:8:00〜17:00
1日の労働時間:8時間
月給:20万円
 
1.1カ月あたりの労働日数を算出する
年間の所定労働日数(240日)÷月数(12カ月)=20(日)
 
2.日給を算出する
20万(円)÷20(日)=1万(円/日)
 
3.時給を算出する
1万(円)÷8(時間)=1,250(円)
 
4.割増賃金と深夜割増賃金をそれぞれ計算して残業手当を算出する
 
・1カ月60時間以下の労働をした場合
ア.17:00〜22:00 割増賃金(25%)
1,250(円)×1.25×5(時間)=7,812.5=7,813(円)
 
イ.22:00〜24:00 割増賃金(25%)+深夜割増賃金(25%)
割増賃金と深夜割増賃金を足した50%で計算します。
1,250(円)×1.5%×2(時間)=3,750(円)
 
上記の「ア」と「イ」を足すと、残業手当が算出できます。
7,813(円)+3,750(円)=1万1,563(円)
 
・1カ月60時間以上の労働をした場合
ア.17:00〜22:00 割増賃金(50%)
1,250(円)×1.5×5(時間)=9,375(円)
 
イ.22:00〜24:00 割増賃金(50%)+深夜割増賃金(25%)
割増賃金と深夜割増賃金を足した75%で計算します。
1,250(円)×1.75%×2(時間)=4,375(円)
 
残業手当は下記の通りです。
9,375(円)+4,375(円)=1万3,750(円)

引き上げまでに企業が対応すべきこと

◆企業がすべき対応

2023年4月1日からの法定割増賃金率引き上げに対応するには、事前の準備が必要です。下記を参考に対応しましょう。
 

・就業規則の変更

割増賃金に関する項目を修正します。修正後、社内周知も必要です。
 

・勤怠管理・残業代の算出方法設定変更

割増賃金率が一律でなくなるため、勤怠管理の設定や残業代の算出方法を変更しておく必要があります。
 

・業務効率化

業務の自動化や重複業務の見直しなど業務効率化を図ることで、労働時間を短縮できます。
 

・労働条件の見直し

法定割増賃金率の引き上げの本来の目的は、長時間労働の是正と従業員の健康管理です。「隠れ長時間労働」にならないように周知するなど、社内への働き方も必要です。対応に悩んだときは、窓口を設けている労働基準監督署や働き方推進支援センターなどに相談するのも方法の一つです。

 

※記事内で取り上げた法令は2022年11月時点のものです。
 
<取材先>
社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 特定社会保険労務士 岡佳伸さん
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演など。キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
 
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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