パートタイム・有期雇用労働法とは?
「パートタイム・有期雇用労働法」は、パートタイム労働者・有期雇用労働者と正社員との間に生じる不都合な待遇差を解消するための法律です。
総務省統計局が発表した「労働力調査」によると、2019年の非正規雇用者の割合は労働者全体の38%。その割合は1994年から増加しているにも関わらず、非正規雇用者は正規雇用労働者と比べて賃金の低さや待遇差があるのが現状です。
今回の法改正では、パートタイム・有期雇用労働者の生活を保障するとともに、労働者が納得して働ける環境を整備する目的があります。
企業としても、少子高齢化の影響で人手不足に悩まされるなか、パートタイム・有期雇用労働者が活躍できる環境を整えることは得策といえます。
◆パートタイム・有期雇用労働法の定義
法改正の対象者となるパートタイム労働者と有期雇用労働者の定義は以下の通りです。
- パートタイム労働者…1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される正社員の1週間の所定労働時間と比べて短い労働者
- 有期雇用労働者…事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者
雇用主に求められる対応
パートタイム・有期雇用労働法が適用される2021年4月までに、雇用主は以下のことに取り組む必要があります。
- 労働者の雇用形態を確認する
- 福利厚生をすべて洗い出し、待遇状況を確認する
- 待遇に違いがある場合、その理由を確認する
- 不合理な待遇差でないことを説明できるよう内容を文書にまとめるなどして整理する
- 法律違反が疑われる状況であれば、改善に向けて検討する
- 待遇を改善する必要がある場合は、労働者の意見を聞きながら改善計画を立てる
厚生労働省「パートタイム・有期雇用ポータルサイト」には企業の取組状況を確認できるチェックツールもあるので、活用するのも一案です。対応に困ったときは、独自に判断せずに公的機関の窓口や社会労務士などの専門家に相談しましょう。
施行日まで日にちがあるとはいえ、労働者との話し合いや検討すべきことなど、取り組むべきことはたくさんあります。できる限り早めに取り掛かることが重要です。少なくとも上記の項目1〜4までは早めに対処することをおすすめします。
法改正で変わった3つのこと
今回の「パートタイム・有期雇用労働法」の改正ポイントは、以下の3つです。
◆同一労働同一賃金
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との不合理な待遇差の解消を指します。給与や賞与、時間外労働に対する手当などに限らず、福利厚生や教育訓練なども該当します。
不都合な待遇差に関する考え方の根拠となるのが、「均等待遇」と「均衡待遇」です。
- 均等待遇…パートタイム・有期雇用労働者と正社員の間で「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」が同じ場合は、同じ賃金を支給するとともに、福利厚生なども同様にする必要がある。
- 均衡待遇…パートタイム・有期雇用労働者と正社員の間で「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」が異なる場合は、その違いに応じてバランスのとれた賃金・待遇にする必要がある。
基本給に関しては、企業が労働者の能力や経験、勤続年数などが考慮して金額を決定している場合、パートタイム・有期雇用労働者に関しても同様に規定します。待遇差の解消するといっても、正社員の賃金を引き下げることは望ましくありません。企業側は、双方に不利益が及ばないよう気をつけましょう。
◆労働者の待遇差に関する説明義務の強化
労働者から申し出があった場合、企業は「正社員との待遇差の内容や理由について」説明する義務があります。
労働者と職務内容が最も近い正社員を選んで比較し、以下の2点について資料を提示しながら口頭で説明します。
- 待遇差の内容…基本給の平均額やモデル基本給額など、待遇の具体的な内容や賃金テーブル等の支給基準について、資料とともに説明します。この場合、「賃金や個人の能力、経験等を考慮して総合的に決めている」などの曖昧な理由でなく、比較対象となり正社員の大群の水準を明確に把握できるものでなくてはいけません。
- 待遇差を設けている理由…「パートだから」などの曖昧な理由はNG。待遇の決定基準が同じ場合は、違いが生じている理由を説明します。決定基準が異なる場合は、違いを設けている理由やそれぞれの決定基準を各労働者に適用しているかを明確にしましょう。
◆雇用主と労働者との紛争の解決支援について
事業主または労働者が無料で利用できる「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」の規定が整備されました。
事業主または労働者による申立てを受けて、双方の事情聴取などを行います。助言や指導、勧告など問題解決に必要な援助をして、事業主と労働者の間の紛争を裁判以外の方法で解決できるようになったのです。行政ADRの援助では企業名は非公開となることも利用のメリットです。
待遇の洗い出しや不都合な待遇差の確認など、改正前に企業が取り組むべきことはたくさんあります。わからないことがあれば独自に判断せず、公的機関の相談窓口や社会保険労務士に相談しながら準備を整えましょう。
参考
パートタイム・有期雇用労働法の解説(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000494724.pdf
パート・有期労働ポータルサイト(厚生労働省)
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/
※記事内で取り上げた法令は2020年11月時点のものです。
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 寺島有紀さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト