従業員持ち株制度の仕組みと導入のメリット・デメリット

全国銀行協会の建物のイメージ

様々な目的で導入されている「従業員持ち株制度」ですが、そもそも同制度はどういった経緯で確立され、どのような仕組みで運用されているのでしょうか。導入のメリットやデメリット、導入する際の注意点などについて、ブレイン社会保険労務士法人代表社員の北村庄吾さんに伺いました。

 

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従業員持ち株制度とは

「従業員持ち株制度」とは、従業員が自社の株を任意で購入・保有できる制度です。
 
制度を導入する際、一般的には管理・運営する民法上の組合組織を設置します。この組織を「従業員(社員)持ち株会」(持ち株会)といいます。組合組織は社内で管理・運営するケースと、証券会社など外部に委託するケースの2種類があります。

 

従業員持ち株制度が確立した背景

従業員持ち株制度の仕組みが確立されたのは、1968年のことです。きっかけとなったのは、1964年に日本がOECD(経済協力開発機構)に加盟したことでした。資本取引の自由化により外国資本が流入し、その外国資本から日本企業の買収を防ぐ必要性が出てきました。
 
そこで、大手証券会社が提唱したのが「従業員持ち株制度」です。企業は安定株主確保や安定した企業経理、さらには福利厚生の充実などを目的に、同制度を導入しました。東京証券取引所の調査によれば、現在、上場企業の約9割が従業員持ち株制度を導入しています。

 

従業員持ち株制度の仕組み

従業員持ち株制度を導入する場合、民法上の組合組織「従業員(社員)持ち株会」(持ち株会)を設置するのが一般的です。
 
持ち株会は従業員に会員を募り、加入した従業員は定期的に一定額を拠出します(毎月、給与などから天引きするのが一般的)。その拠出金を原資として持ち株会が自社の株を購入し、従業員の拠出金額に応じて配当金を配分する仕組みになっています。

 

◆従業員持ち株制度のプロセス

  1. 「持ち株会」を作る
  2. 従業員に持ち株会への加入を募り、加入した従業員は一定額を拠出する
  3. 従業員の拠出金を原資に、持ち株会が自社の株式を共同購入し、保有する
  4. 従業員の拠出金額に応じて配当金を配分する


持ち株会方式は、従業員が直接株式を持つのではなく持ち株会が株式を保有しますが、従業員が直接株式を保有する方式もあります。ただし、議決権や株式の譲渡制限などの問題から、導入している企業はごくわずかです。持ち株会方式ではあまり問題になりませんが、直接従業員が株を保有する方式の場合、以下を留意する必要があります。

 
持株数比率と権利の図 持株数比率(※1) /権利 1株/株主代表訴訟、議事録閲覧 1%以上/株主総会での議案提出 3%以上/株主総会の開催、帳簿の閲覧 1/3以上/特別決議の否決


※1……発行済株式総数に対し、株主が保有する株式の割合

 

企業が従業員持ち株制度を導入するメリット・デメリット


企業が従業員持ち株制度を導入するメリットとデメリットは、以下のとおりです。

 

◆企業のメリット

  • 安定株主を確保し、安定した企業経営につながる
  • 福利厚生の充実につながる
  • 従業員の経営への参画意識が高まる
  • 配当金による資産形成ができるため、従業員のモチベーションが向上する

 

◆企業のデメリット

  • 配当金を出し続ける必要がある
  • 運営コストがかかる

 

従業員が持ち株会に加入するメリット、デメリット

従業員が持ち株会に加入するメリットとデメリットは、以下のとおりです。

 

◆従業員のメリット

  • 株式を少額から購入できる
  • 配当金により、中・長期的な資産形成がしやすくなる
  • 奨励金が付与される(自社株を購入する際、一定割合の金額分を企業が上乗せする仕組み)

 

◆従業員のデメリット

  • 好きなタイミングで株の購入ができず、売却もすぐにできない
  • 企業の業績が悪化するとリスクが増大する
  • 株主優待を受けられない

 

従業員持ち株制度を導入する際の注意点

従業員持ち株制度の導入を検討する際に抑えておきたいのは、同制度を導入する目的と、上場を目指しているか否かです。上場企業や上場予定の企業であれば、従業員持ち株制度を導入するメリットは大きいといえます。そうでない場合は特に次の2点を明確にしておきましょう。

 

1.配当基準などの明確化

非上場企業の場合、取得した自社株を第三者に売却して売却益を得ることができないため、従業員のメリットは配当金だけになります。そのため、配当金の支払基準を明確にしておかなければ、そもそも持ち株会に加入する従業員を得られず、目的(安定株主の確保や福利厚生の充実など)が達成できなくなります。

 

2.株式買い取り価格の明確化

従業員が退職などで持ち株会を脱退する場合、上場企業であれば個人口座に株式を振り替えて売却することが可能ですが、非上場企業は持ち株会が買い取ることになります。株式の価格の算出方法など、買い取り条件をあらかじめ規約などに明記しておかないとトラブルに発展する可能性があります。
 
非上場企業が、同制度を導入してもメッセージ性は弱いといえます。企業に十分な利益が出ている、賃金が高水準であるなど、ある程度の条件を満たさなければ、非上場企業が同制度を導入するメリットは多くはありません。導入する前に、まずは賃金をアップし、プラスαの福利厚生として同制度の導入を検討する流れが好ましいといえるでしょう。

 

※記事内で取り上げた法令は2022年8月時点のものです。
 
<取材先>
ブレイン社会保険労務士法人 代表社員 北村庄吾さん
中央大学卒業。社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー。1991年に法律系国家資格者の総合事務所Brainを設立。ワンストップサービスの総合事務所として注目を集める。1993年より起業家の育成にも力を入れ、第3次起業家ブームを牽引。
 
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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