バイリンガル人材とは? 雇用するメリット・デメリット
バイリンガルとは、一般的に2つの言語を話す人を指しますが、ビジネスにおいて求められるのは、単に語学が堪能なだけではなく、文化的な違いを理解してコミュニケーションがとれるかどうかです。つまり、バイリンガル人材は異文化を理解した上での発言やコミュニケーションのすれ違いを円滑に解決するスキルが期待されます。
近年はグローバル化により、新たに海外進出する企業や海外とのやり取りが増えるケースも多く見受けられます。そんな中でバイリンガル人材の採用を検討する企業からの相談は増えています。今後、海外事業を本格的に進めていく場合には、海外と日本を橋渡ししてくれるバイリンガル人材の存在は組織においても重要となるでしょう。
◆バイリンガル人材を雇用するメリット・デメリット
前述の通り、現地のやりとりを任せられるのは企業にとって大きなメリットです。実は、いわゆる「グローバル企業」と言われる海外進出した日本企業でも、社員の内訳を見ると日本人がほとんどというケースは珍しくありません。多くの日本企業が日本人を駐在員として、現地法人に派遣してきました。しかし、仮に駐在員が現地の言葉を最低限習得したとしても、言語も商習慣も違う異国の地ではコミュニケーションの壁にぶつかってしまう場合がほとんどです。ビジネスパーソンとの交渉はもちろん、現地でスタッフを雇ったとしても今度は社内の人材マネジメントの課題に直面するのです。そのため、現地の文化を理解したグローバル人材であるかが非常に重要になります。
ただし、単純にバイリンガル人材を雇用すれば良いわけではありません。バイリンガル人材を採用する際には、社内に受け入れ体制があるかどうかがポイントです。きちんと整備されていない状態で入社してもすぐに離職してしまったり、能力を十分に発揮できなかったりします。すなわち、ただちに採用活動を始めるのではなく、受け入れ体制を整える準備期間が欠かせません。上司をはじめ、企業が異文化を理解する必要があるので、外部研修を受けて組織をグローバル化するのも有効な手段の一つです。
また、細かい点を挙げるならば、英語の契約書面や社内資料など、手続き上の体制も徐々に整えていくことが必要です。バイリンガル人材を受け入れるには、ある程度のコストと時間を要することは念頭に置いておきましょう。
バイリンガル人材を採用する際の注意点
バイリンガル人材を採用する際に注意したいのが、以下の3点です。
◆「バイリンガル人材」と言っても個人差が大きい
「バイリンガル人材」と言っても、個人によってバックグラウンドは異なります。幼少期から海外生活を送ってきた帰国子女がいる一方、日本で生まれ育ち、大学で交換留学に行った方もバイリンガル人材に該当します。バックグラウンドや経歴によって発揮できる能力も異なるため、どのような人材が欲しいかを企業側もあらかじめ明確にするべきです。現地で活躍する社員を求めるなら、海外経験の長い人材の方がマッチしやすいですし、国内のコミュニケーションも重要視するならば留学経験のある方が最適かもしれません。選考を行う前に、求める人材像をクリアにしておきましょう。
◆採用する際は、希望する仕事の進め方をヒアリングすること
グローバル人材が日本企業に転職した際、「会議の進め方が全く違って驚いた」と感じる場合があります。国によるコミュニケーションは、「孔子型」と「ソクラテス型」に分けられるのをご存知でしょうか。孔子型の場合、たとえば上司の説明に対して、部下はメモをとりながら指示に従って仕事を進めます。一方、ソクラテス型は、立場に関係なくフラットに意見を交わしながらアイデアをブラッシュアップしていきます。
日本企業はまさに孔子型のコミュニケーションスタイルを取るケースが多いです。そのため、議論することが当たり前だったソクラテス型の人材が日本企業に入社すると、自分の強みを発揮できないと感じ、とても退屈してしまいます。企業にとっても、マネジメントしにくいと感じるでしょう。もしも欧米圏をはじめとしたソクラテス型のコミュニケーションをとる人材を採用したいなら、社内のコミュニケーションスタイルや会議の進め方などを見直さなければなりません。たとえばミャンマー、ベトナム、マレーシアなど、孔子型の国をバックボーンに持つ人材ならば、従来のやり方でもスムーズにいきやすいでしょう。
選考の際は、仕事でどのような進め方を求めているのかをヒアリングしておくと安心です。
◆人事や面接官の教育体制も必須に
そもそもバイリンガル人材は「企業から選ばれる」のではなく、「自ら働き先を選んでいく」意識があります。選考では候補者側も企業をチェックしているため、面接官をはじめとした担当者の対応も非常に重要です。人事はもちろん、選考にかかわる社員もきちんとした対応ができるような教育体制を作りましょう。グローバル人材の採用にまつわるセミナーなどに参加して勉強するのも有効です。
バイリンガル人材の採用では、語学力にばかり注視してしまいがちです。もちろん、TOEICのスコアなども重要ですが、自社にマッチした人材を採ることが肝心です。特にコミュニケーションの違いからくる業務の取り組み方は、入社後に双方が不満を感じてしまうポイントになりかねません。選考の段階で不安要素はできる限り解消するようにしましょう。
バイリンガル人材に選ばれる企業になるには
バイリンガル人材は需要が高く、自社で働いてもらうには多くの企業の中から選ばれる必要があります。バイリンガル人材は、どのような企業を魅力的だと判断するのでしょうか。
◆バイリンガル人材にとってキャリアパスが重要
正直なところ、バイリンガル人材にとって典型的な日本企業に入社するメリットはあまり多くありません。バイリンガル人材は語学力に長けているのはもちろん、文化の差によって生じるコミュニケーションのすれ違いを円滑に解決してくれる存在です。主体的に行動する彼らはやりたい仕事が明確に定まっているため、日本企業のキャリアに魅力を感じにくいのです。
日本は「メンバーシップ型」の雇用が一般的です。新卒で入社した社員が様々な部署を経験しながら定年まで一つの企業で勤め上げるケースは多いでしょう。一方、欧米では「ジョブ型」が中心です。業務の内容に基づいて必要な経験・スキルを持つ人材を採用します。最近はジョブ型を導入する日本企業も見受けられますが、反対にメンバーシップ型の採用方式をとるグローバル企業はまずありません。
日本の新卒採用では、選考の段階でどの部署に配属されるかわからないケースも少なくないでしょう。その企業でやりたいことがあったとしても、たとえば入社してしばらくは営業で現場を経験し、その後は経理部に配属されて社内の経営状況を勉強して……といったキャリアパスを辿ります。しかし、バイリンガル人材にとっては「すぐにやりたい仕事ができない」と受け取られる可能性があります。
もしも、従来のメンバーシップ型のままバイリンガル採用を成功させたいと思うならば、入社するメリットをきちんと説明できるかがポイントです。「いろいろな部署を経験することで、社員にはどのように育ってほしいか」を明確に伝えられるようにしましょう。
◆採用広告の内容から見直すべき
こうした日本と海外の違いは、採用広告にも表れています。その企業の広告を見れば、グローバル企業なのかどうかがわかるのです。たとえば、今回は会計アシスタントを募集しており、5年程度の経験者が対象で○○の計算が得意な人は大歓迎……と具体的に求めている人材のスキルがはっきりしているのがグローバル企業の特徴です。一方、日本企業は社風やカルチャーを主体にした広告が特徴です。風通しの良い職場であることをアピールしたり、「明るくて積極的に対応できる方を募集します」といった対象者の人柄に触れたりしている場合もあるでしょう。
自身のキャリアに重点を置くバイリンガル人材にとって、日本企業の広告は響きにくい可能性があります。しかし、企業文化を重要視していないわけではありません。企業のやり方に合わなくて退職するケースは少なくないためです。そこで、カルチャーとスキルの両面から伝える必要があります。なかなか応募者が集まらない場合は、自社の採用広告を見直してみるとヒントがあるかもしれません。
バイリンガル人材の採用は、キャリアを想像しやすいような工夫を
もちろん、日本的なキャリアの積み方に魅力を感じる人もいるでしょう。いずれにせよ、バイリンガル人材の採用では、キャリアをイメージしやすいような工夫が大切です。彼らにとって、入社して身につくスキルを打ち出せるかどうかが採用を成功させるポイントになります。どのような人材を求めているのか改めて整理し、ターゲットに響くような採用活動を行いましょう。
<取材先>
株式会社カルチャリア 代表取締役社長/国際人事コンサルタント 奥山 由実子さん
最大手企業研修専門会社にて企画、営業、マネージメントを担当。1993年、同社駐在員としてニューヨークに赴任。同年、米国に人事コンサルティング会社(本社・ニューヨーク)を設立。以来、2500以上にのぼる在米日本企業、日本国内の企業に社員研修や人材育成のためのプロジェクトを提言。日本企業としての独自性を尊重しながら、世界標準の人事システムの導入を推進、経営の高度化と人的資源の解決と防止などに大きく貢献してきた。成功実例から培ったノウハウ、クライアント企業からの熱い信頼と支援のもと、日本でも人事改革を行う。
TEXT:成瀬瑛理子
EDITING:Indeed Japan + ノオト