バイリンガル人材にとってキャリアパスが重要
正直なところ、バイリンガル人材にとって典型的な日本企業に入社するメリットはあまり多くありません。バイリンガル人材は語学力に長けているのはもちろん、文化の差によって生じるコミュニケーションのすれ違いを円滑に解決してくれる存在です。主体的に行動する彼らはやりたい仕事が明確に定まっているため、日本企業のキャリアに魅力を感じにくいのです。
日本は「メンバーシップ型」の雇用が一般的です。新卒で入社した社員が様々な部署を経験しながら定年まで一つの企業で勤め上げるケースは多いでしょう。一方、欧米では「ジョブ型」が中心です。業務の内容に基づいて必要な経験・スキルを持つ人材を採用します。最近はジョブ型を導入する日本企業も見受けられますが、反対にメンバーシップ型の採用方式をとるグローバル企業はまずありません。
日本の新卒採用では、選考の段階でどの部署に配属されるかわからないケースも少なくないでしょう。その企業でやりたいことがあったとしても、たとえば入社してしばらくは営業で現場を経験し、その後は経理部に配属されて社内の経営状況を勉強して……といったキャリアパスを辿ります。しかし、バイリンガル人材にとっては「すぐにやりたい仕事ができない」と受け取られる可能性があります。
もしも、従来のメンバーシップ型のままバイリンガル採用を成功させたいと思うならば、入社するメリットをきちんと説明できるかがポイントです。「いろいろな部署を経験することで、社員にはどのように育ってほしいか」を明確に伝えられるようにしましょう。
採用広告の内容から見直すべき
こうした日本と海外の違いは、採用広告にも表れています。その企業の広告を見れば、グローバル企業なのかどうかがわかるのです。たとえば、今回は会計アシスタントを募集しており、5年程度の経験者が対象で○○の計算が得意な人は大歓迎……と具体的に求めている人材のスキルがはっきりしているのがグローバル企業の特徴です。一方、日本企業は社風やカルチャーを主体にした広告が特徴です。風通しの良い職場であることをアピールしたり、「明るくて積極的に対応できる方を募集します」といった対象者の人柄に触れたりしている場合もあるでしょう。
自身のキャリアに重点を置くバイリンガル人材にとって、日本企業の広告は響きにくい可能性があります。しかし、企業文化を重要視していないわけではありません。企業のやり方に合わなくて退職するケースは少なくないためです。そこで、カルチャーとスキルの両面から伝える必要があります。なかなか応募者が集まらない場合は、自社の採用広告を見直してみるとヒントがあるかもしれません。
バイリンガル人材の採用は、キャリアを想像しやすいような工夫を
もちろん、日本的なキャリアの積み方に魅力を感じる人もいるでしょう。いずれにせよ、バイリンガル人材の採用では、キャリアをイメージしやすいような工夫が大切です。彼らにとって、入社して身につくスキルを打ち出せるかどうかが採用を成功させるポイントになります。どのような人材を求めているのか改めて整理し、ターゲットに響くような採用活動を行いましょう。
<取材先>
株式会社カルチャリア 代表取締役社長/国際人事コンサルタント 奥山 由実子さん
最大手企業研修専門会社にて企画、営業、マネージメントを担当。1993年、同社駐在員としてニューヨークに赴任。同年、米国に人事コンサルティング会社(本社・ニューヨーク)を設立。以来、2500以上にのぼる在米日本企業、日本国内の企業に社員研修や人材育成のためのプロジェクトを提言。日本企業としての独自性を尊重しながら、世界標準の人事システムの導入を推進、経営の高度化と人的資源の解決と防止などに大きく貢献してきた。成功実例から培ったノウハウ、クライアント企業からの熱い信頼と支援のもと、日本でも人事改革を行う。
TEXT:成瀬瑛理子
EDITING:Indeed Japan + ノオト