計画的偶発性理論を企業はどう活かす?

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「計画的偶発性理論」と呼ばれるキャリア論があります。これは、仕事や働き方の将来像(キャリアビジョン)の実現は「偶然」を計画的に取り込み、活かすことが重要であるという考え方です。その概要と、企業内で活かすポイントを法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴さんにお聞きしました。

 
 

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計画的偶発性理論とは

 
 

◆偶発性とキャリア形成の関係を示す理論


計画的偶発性理論(プランド・ハップンスタンス理論=Planned Happenstance Theory)は、1999年に研究者のジョン・D・クランボルツらが発表した論文で提唱されたキャリア理論です。
 
従来、自身の望むキャリアを実現するには、前もって明確なキャリアプランを描くことが必要であるという考え方が重要視されていました。それに対し、計画的偶発性理論は、これまでになかった「偶発性」と「キャリア形成」の関係を示す理論として、近年注目を集めています。

 
 

◆偶然の出来事をキャリアにつなげる


計画的偶発性理論は「人は、他者の観察や模倣などによって、自己効力感を得たり学んだりする」という社会的学習理論の考え方を、キャリア上の意思決定に拡張したものです。
 
その重要な点は、予期せぬ出来事を学びの機会へと変え、キャリアの意思決定に役立てる、というものです。理論の最終的な目的は、個人が予期せぬ出来事をキャリア開発に組み込むことができる確率を高めることができるように、それを機会と捉え、または生み出すことができるようになる、ということです。
 
たとえば、自ら積極的に職場以外の様々なイベント・勉強会などに参加すれば、自分の欲しかった情報やツテを得ることがあります。自らの計画的な行動でキャリア形成のための偶発的なチャンスは自ずと増えていきます。

 
 

◆理論が生まれた背景と現在にも適用できる理由


提唱者であるクランボルツには、キャリアカウンセラーに向けた講演を行うたびに、聴衆に「18歳のときにキャリアカウンセラーになると決意していたか?」と質問を繰り返し、その質問に該当する人はほとんどいなかったというエピソードを2009年の論文で紹介しています。
 
早い段階からキャリアプランをきっちり決めることに果たして意味があるのか、そのプレッシャーに押しつぶされてしまうのではないか、という疑問がこの理論の出発点の一つであるといわれています。
 
計画的偶発性理論は、変化の激しい時代では、行動することで発生する出会いや出来事をもとに新しいキャリアを広げていくという考え方です。早い段階で自己と職業のマッチングを行って自身の可能性を狭めるのではなく、生涯にわたり社会の中で実践的に応用できることを目指した理論といえます。

 
 

キャリアを好転させる行動特性


計画的偶発性理論は、偶発的な出来事をただ待っているよう推奨する論ではありません。自身でキャリアプランを思い描きながら、フットワークを軽くして行動することが成功へのポイントとなります。
 
具体的に、以下の5つの行動特性を持つ人は、計画的偶発性理論を実践しやすいといわれています。

 

  1. 好奇心(Curiosity):新しい学びの機会を追求する
  2. 持続性(Persistence):困難にめげずに努力する
  3. 柔軟性(Flexibility):態度と環境を変えることができる
  4. 楽観性(Optimism):新しい機会においてうまくいくと考える
  5. リスクを取る(Risk Taking):結果が不確実に見えても挑戦する


(Mitchell, Levin, & Krumboltz (1999), p118.より石山さんが翻訳)


日常から、起きた出来事に対してどう動くかを考える姿勢が重要です。成功体験だけではなく、失敗も前向きに捉えることが今後のチャンスへつながると考えられています。

 
 

企業で計画的偶発性理論を活かすためには?

 
 

◆自社の環境を見直す


・5つの行動特性が促進されるような社風であるか
計画的偶発性理論は、フットワークの軽さやチャレンジ精神によって活きるキャリア理論です。社員の失敗を成長の機会ととらえ、個々のチャレンジをサポートできるような社内環境でなければ実践が難しいでしょう。
 
・社員に対して「自社の仕事だけに集中してほしい」という過度な期待がないか
「ほかのことに目を向けると仕事がおろそかになるのでは」という固定観念を手放し、社員が自由に学べる環境作りを意識しましょう。社外のワークショップへの参加や、ボランティア活動など、業務とは直接関係のない越境学習などへの参加によって、仕事に役立つ新たなアイデアが生まれるケースも多々あります。

 
 

◆興味や関心から方向性を見出す


計画的偶発性理論において、キャリアプランは無用であると誤解されがちですが、そんなことはありません。「自身が何に関心や興味を持ち、どういった強みがあるのかを知った上で、大まかな方向性を定め、経験を通して軌道修正やアップデートをしていく」というスタンスは重要です。
 
企業内で計画的偶発性理論を活かすためには、上司が部下をサポートしながら下記のステップで進めていきます。短いサイクルで定期的に実施する「1on1(ワンオンワン)」を用いるのも効果的です。

 

  1. 上司は部下の興味や関心、自覚している強みを聞き出し、進みたい方向性を定められるようにする
  2. 部下は未来から逆算して、大まかに「5年後に自分が理想とする姿」をイメージし、その姿を実現するために必要な行動を洗い出す
  3. 計画的偶発性理論を意識しながら、予期せぬ出来事が起こったときにチャンスを作り出せるよう行動を重ねる


このとき、部下に思い描いてもらう未来の理想像は、会社内での出世や目標などに限定する必要はありません。仕事や家庭、趣味などを含めた人生全体の「ライフキャリア」について考えることで、理想の働き方や社会との関わり方など、自分が取り組みたいことを見つけ出しやすくなり、業務を行う上での自己肯定感やモチベーションの向上にもつながります。

 
 

企業内で偶発性を呼び起こすには


企業で偶発性を呼び起こすには、「心理的安全性」の確保が必要です。これは、チームのほかのメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信でき、自由にアイデアが創出できる環境を指します。
 
また、業務上でトラブルが起こったとき、犯人探しや責任追及をするのではなく、原因を見つけ出し、失敗を改善の機会だと尊ぶことができる環境であるかを見直しましょう。
 
事業内容によっては「どんな環境でも失敗が許されないのは当たり前である」という考え方もあります。しかし新しい試みを取り入れることも大切です。挑戦や試行錯誤は、人と企業が成長するにあたって必要不可欠なプロセスであることを意識しましょう。
 
<参考文献>
Krumboltz, J. D. (2009). The happenstance learning theory. Journal of career assessment, 17(2), 135-154.
 
Mitchell, K. E., Al Levin, S., & Krumboltz, J. D. (1999). Planned happenstance: Constructing unexpected career opportunities. Journal of counseling & Development, 77(2), 115-124.

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年11月時点のものです。
 
<取材先>
法政大学大学院政策創造研究科 教授 石山恒貴さん
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。大手企業の人事労務担当を経て現職に就く。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理、タレントマネジメント等が研究領域。主な著書に『日本企業のタレントマネジメント』(中央経済社)などがある。
 
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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