求めるスキルや経験は「must」と「want」で整理する
——自社の求めるスキルや経験を求職者に正しく伝えるには、まず何から取り組むべきでしょうか。
求人票を作成する前に、自社がどのような人材を必要としているか、人材要件の整理を行いましょう。応募者に伝えたい情報を整理すると、求人票の訴求ポイントが明確になり、ターゲットが絞り込みやすくなります。
——希望する条件がまとまらない場合はどうすればいいですか。
最低限必要な要件(must)と、あれば歓迎する要件(want)に分けて整理するのがおすすめです。現場にいる社員に、人材を必要としているシーンを具体的にヒアリングしてみましょう。「最近どんな場面で人手が必要だと感じましたか?」と質問すると、最低限必要な能力やスキルが明確になります。その後で、「あれば歓迎する能力やスキル」を考えるのです。
例えば、総務系の人材が欲しい企業が以下の要件を設定したとします。
- 総務経験が必ずある(=must)
- さらに経験年数が5年以上(=want)
この条件を満たす人材は、求職者の中でもかなり限定的です。そこで、実際のシーンを想定して、求める人物像の視野を広げてみましょう。仮に総務部に業務を教えてくれる上司が在籍していた場合、必ずしも総務経験が必要とは限りません。
さらに総務の仕事内容がPCを使う業務で、各部署とのコミュニケーションが求められるのであれば、一般事務やコールセンターで働いた経験がある人も活躍できる可能性があります。そうすると、人材要件はこのように再設定できます。
- PCスキルがあって人とのコミュニケーションが取れる(=must)
- 総務経験者(=want)
これで活躍できる人材の幅が広がり、採用活動がスムーズになります。また、「PCスキル」と一言で書いただけでは、タイピングができればよいのか、基本ソフトを使えればよいのか、スキルやレベル感が伝わりません。そこで、必須スキルや携わる業務内容を細かく記載すると、求職者により響きやすい求人原稿になります。
求人票は他社と差別化し、求職者とのミスマッチを防ぐ
——実際に求人票の作成に取り掛かる際、書き方のポイントはありますか。
求人票に書く募集条件や自社についての情報のうち、特にアピールするべき要素はどれになるのか検討しましょう。私たちが求人原稿のお手伝いをする場合、人事担当者には人が働き先を決める4つのポイントについてお話をして、自社が求める人材要件を照らし合わせてもらっています。
(1)企業の「目標」…どんな理念やビジョン、戦略を持つ会社か
(2)企業の「活動内容」…事業や商品(BtoBなのか、BtoCなのか)、仕事内容やミッション
(3)企業の「構成員」…職場にどんな人がいるか、風土や慣行
(4)企業の「特権」…待遇や福利厚生などの制度や施設など
例えば、保険会社が即戦力になる営業経験者を採用したいとします。他社と同じ保険商品を扱っているなら、(2)では自社の魅力は他社と差別化しにくく、求職者に響きづらいでしょう。その場合、ターゲットに響く別の訴求ポイントは何かを考えることで、求人票の方向性が定まります。
——伝えるべき求人条件の中でも、特に強調するポイントを見極めるということですね。
そうです。さらに具体的なエピソードを加えると、他社に比べて一歩リードした訴求ができます。
例えば、長期のブランクがある保育士の有資格者が、応募をためらっているとしましょう。もし企業側がブランクのある人材でも採用が可能であれば、「ブランクOK」という一言を添えるだけで、求職者は安心して応募することができます。「出産や介護などでブランクがある方も、今こんなに活躍しています」と具体例を挙げるのも、応募の後押しに繋がるでしょう。
——具体的に伝えることで、応募者とのミスマッチも防ぐことができそうです。
ほかにも、想定される業務の幅が広い職種を募集する場合は、入社後に取り組む業務内容を求人票に記載しておくとよいですね。例えば、建築・土木系の企業が二級建築士を募集する際、同じ資格保有者でも、戸建てやビル、公共事業など、過去に携わってきた現場や得意分野は人それぞれですから。
資格を必須条件(=must)にするだけでなく、「○○の建築経験が何年以上ある方は優遇します(=want)」といった具体的な経験を条件も併記するとよいでしょう。
求人票におけるNG表現、確認するべき注意点とは
——求人票を作成する上で、禁止されている表現はありますか?
性別や年齢で条件を変更したり、制限を設けたりしてはいけません。特に注意したいのが、下記の3つの法令に基づくNG表現です。
- 男女雇用機会均等法
特定の場合を除き、募集や採用時に性別を理由とする差別が禁止されている。
NG例)「男性10名、女性5名採用予定」「主婦歓迎」
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(旧雇用対策法)
雇用の基本となる法律。労働者の募集採用について、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
NG例)正当な理由を書かずに「30歳まで」と年齢制限を設ける
- 若者雇用促進法
固定残業代制を採用する場合は、募集要項求人票に給与を記載する際に、下記3つの内容を明示する必要がある。
(1)固定残業代を除いた基本給の額
(2)固定残業代に関する労働時間数とその金額
(3)固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨の説明
NG例)「基本給25万円(固定残業代を含む)」
——応募者に対して誠実な求人情報を掲載することが大切なのですね。
そのとおりです。ちなみに、年齢制限には例外事由があります。風営法で18歳未満の労働が禁止されている職業や、長期勤続によるキャリア形成の観点から若年者の採用をしたい場合は、制限の対象外になるケースもあります。
また、若者雇用促進法は、2015年に施行された法律で比較的に日が浅いため、まだ認知度が低いですが、固定残業代制など給与面の表記はトラブルに繋がりやすい条件です。いずれも事前に厚生労働省のWebサイトをしっかりと確認しましょう。
求人票を作成する際は、人材要件を整理し、ターゲットを絞ることで、より効果的な訴求が期待できます。しかし、嘘の情報を記載したり、差別的な表現をしたりすることは、会社の信頼に直結するので、十分に気をつけて作成してください。
<参考文献>
厚生労働省『労働者の募集及び採用における年齢制限禁止の義務化に係るQ&A』:
https://www.mhlw.go.jp/qa/koyou/kinshi/qa.html
厚生労働省『固定残業代について』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000184068.pdf
<取材先>
株式会社トーコンヒューマンリソース 福岡支社 長下大樹さん
TEXT:ユウミ ハイフィールド
EDITING:Indeed Japan + ノオト