自己効力は、あらゆるビジネスシーンに影響を与える力
――働く中で自己効力が関係する場面には、どのようなものがあるでしょうか?
自己効力とは、自分が持っている知識やスキルを使って「行動できる」と信じる気持ちの強さのことです。仕事に取り組むなかで、この自己効力が関わってくるケースは無数にあると思います。たとえば、企業で高い自己効力が求められるビジネスシーンを挙げてみると以下のような場面が挙げられます。
- キャリアアップや昇進の実現
- 職場の人間関係の改善
- 仕事に対する意欲、挑戦意欲の向上、業績アップ
- 欠勤率や離職の意思の低下
- 教育訓練の効果の向上
- 組織風土の改善、改革
など
これらの場面に対して、社員自らの努力で自己効力を高めようとするケースと、会社側が社員の自己効力を高めるために教育やサポートするケースがあるでしょう。
管理職や一般社員が自己効力を高める方法
――自己効力はあらゆるビジネスシーンで必要とされるということですが、自己効力を高めるにはどのようにすればよいのでしょうか?
管理職と一般社員に分けて、自己効力を高める方法を具体的に説明しましょう。
◆管理職
管理職に不可欠な能力は、リーダーシップ、コミュニケーション、時間管理、問題解決、部下管理、対人関係、自己啓発の7つの能力が不可欠だといわれています。そこに加えて最も重要なものは自己効力、とりわけリーダーシップに関する自己効力だと考えられます。自己効力を高め、管理業績を上げるためには以下の行動が必要です。
- 部下などに指示した任務を、時間内に正確にやり遂げることができるように支援する
- 会社や組織単位の業績改善に役立つ革新的なアイデアを提案する
- 職務上の様々な仕事に優先順位を付けて計画的に進めていけるように指導する
- 部下たちに、公正で首尾一貫した対応をする
など
これらを意識して行動することで、管理職のリーダーシップに対する自己効力を高めることができます。
――なぜ経営者や管理職に、より高い自己効力が必要なのでしょうか?
経営者や管理職の基本的な使命として、社員が目標に向かって自らを奮い立たせるように仕向け、組織業績を高めることを求められます。そのためには、適正な経営戦略の策定・実行、人材配置、教育訓練などの適正な人的資源の管理、社風や組織構造の改革など様々な改善が必要です。これらを企画して実行するために必要なのが、自己効力です。
上記のような職務改善やより良い職場づくりには、実行力とチャレンジ精神、積極的な行動が必要です。経営者や管理職の自己効力が弱いと、たとえ改善や改革の内容を企画できたとしても行動に移すことができず、社員に実行を促すところまでたどり着けません。経営者や管理職として重要な責務である会社の業績を高めることが難しくなる可能性があるでしょう。
◆一般社員
一般社員の職務自己効力を高めるためのステップとして、まずは大前提となる様々な知識やスキルを根気よく身に付ける努力をしましょう。行動に移す準備ができたら、達成可能な目標を設定し、最初は簡単なことから始め、次第に難しいことに挑戦していきます。実際に取り組んでみて感じた反省点を振り返ることも大切です。こうして段階的に挑戦していくことで、達成感を得られるだけでなく実力が付いてきた、向上してきたと感じられるようになっていきます。困難だと思われた問題をクリアすることで、大きな喜びと自信を得ることができ、自己効力を高めることにつながっていきます。
また、自身の自己効力をチェックする「10個の項目」があります。以下の項目に対して、社員自身が肯定的に回答できるよう意識や行動を見直すことが必要でしょう。その変革を促すような会社からの働きかけ、仕組みづくりも有効です。
- 私はこれまで様々な経験をしてきたおかげで、人間的にも成長してきたと思う
- 私は仕事でも人間的にも成長し続けられるように、いろいろな機会や方法を模索し、学び、実践している
- 私は、職場の人たちが仕事でも人間的にも成長し続けられるように、いろいろな機会や方法を利用してみんなを支援している
- 私は今まで、仕事の上でも仕事以外の場でも、多くの有意義な経験をしてきたと思う
- 私は、仕事に必要な新しい知識やスキルを積極的に身に付けるように心がけている
- 私は、「人は、仕事での行動とその成果で自己を表現できる」と信じている
- 私は、「人は、自分のキャリアは自分ひとりの力で作り上げ、またそのキャリアは自己管理できる」と信じている。つまり自分の将来は、自分ひとりで切り開くものだと考えている。
- 私は、生涯かけて自分の可能性を高め、広げたい。そのためには、様々なことや問題にチャレンジし続ける
- 私は、どんな仕事に就いても、自分らしい独創的な結果を出したいと思っている。できれば、周囲の人たちが驚くようなアイデアやコンセプト、やり方を考えだし、職場や会社に貢献したい
- 私は、職場の同僚たちの仕事目標の達成を、自分にできる限りにおいて、支援している
自己効力の低さは、業務上のトラブルにつながるケースも
――業務上、トラブルを引き起こす可能性があるなど自己効力が低い人のデメリットや特性について教えてください。
自己効力が低い人は、以下のような特徴があります。
- 何をするにせよ、最初の一歩がなかなか踏み出せない
- 失敗を恐れるため、積極的に発言や行動ができない
- 周囲の目や評価を気にしすぎる
- 周囲の批判や非難、意見の食い違いや対立に過剰に反応してしまう
- 自分の考えや意見をはっきり主張できないために、誤解・曲解される
- ネガティブな口癖や思考、さらにはマイナスイメージの発想が強い
- 愚痴や自慢話が多い
- 無理して頑張りすぎるという傾向がある
こうした特徴が原因で、職場内でのトラブルだけでなく顧客との間で業務上のトラブルを生む可能性があります。そのため、自己効力が低いということは仕事上、様々な悪影響を及ぼすと考えられます。また、働く意欲が低いため、高い生産性を求めることは難しいでしょう。
――社員の自己効力を育む取り組みに挑戦してみようと考えている企業へのメッセージをいただけますでしょうか。
会社の使命は、自社の社会的な存在意義を守ることです。そのためには自社の業績改善・向上、そして社員の幸せな生活の確保・維持が基本です。自社の業績改善・向上の根幹は、社員が強いモチベーションを持って楽しく仕事に打ち込み、生産性を上げることです。それには社員の自己効力を高めることが非常に重要なことなのです。
会社としては入社前に高い自己効力を持った人材を確保することが、まず重要です。そして入社後は、社員の自己効力をさらに高め、社員がその力を発揮できるように楽しく意欲的に働ける職場環境をつくってください。そのためにも、経営者や管理職がリーダーシップに対する自己効力を高め、健全な会社風土と組織構造を構築しましょう。
<取材先>
青山学院大学名誉教授 林伸二さん
経営学博士、青山学院大学名誉教授。専門は、組織心理学、組織変革論、戦略的人的資源管理論、リーダーシップ論。著書に『人と組織を変える自己効力」(2014年、同文舘出版)、『自立力』(2020年、風詠社)などがある。
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト