旧姓で働くのはOK? 企業の現状と対応を取材

PCで仕事をしている女性の様子

女性の社会進出を背景に、従業員が結婚した場合に旧姓の使用を認める企業の割合は増加傾向にあります。旧姓使用が認められることは、従業員にとって結婚前のキャリアが分断されない、プライベートな情報を公開せずに済むなどの様々なメリットがあります。一方で旧姓を使用できる範囲や、氏名の取り扱いなど、注意点もあります。社会保険労務士法人出口事務所代表の出口裕美さんに、職場で旧姓使用を認める際に押さえておくべきポイントを聞きました。

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女性の社会進出を背景に旧姓使用を認める企業が増加

――旧姓使用を認める企業は増加傾向にあると言います。その現状と背景を教えてください。
 
労務行政研究所が上場企業および上場企業に匹敵する非上場企業440社を対象に実施した2018年の調査によると、職場で旧姓使用を認めている企業は全体の67.5%。同研究所が2001年に実施した調査から2倍以上増加しています。私のような社会保険労務士もそうですが、戸籍名に旧姓を併記して登録し、旧姓で仕事ができる国家資格も増えてきています。
 
そもそも旧姓使用を認めなければならないという法律はありません。旧姓使用を認める企業が増加傾向にある背景には、結婚後、姓が変わる割合が圧倒的に多い女性の社会進出が進み、姓を変えることで仕事上の不利益が生じる、プライベートな情報を公開したくないといった声や、そもそも名字を変えることでアイデンティティを失ったように感じるという声の高まりがあります。

 
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――従業員が旧姓使用を希望する理由にはどんなものがありますか?
 
仕事でお客様を相手にしている場合は、結婚前に築いた信用や評価、人脈が分断されてしまうことが大きな理由の一つだと思います。具体的には、営業職などにおいて戸籍名が浸透するまで、お客様の混乱を招くことがありますし、研究職などに携わっていて論文などの過去の実績がある場合は、同一人物だと見なされないこともあります。また、氏名を反映したメールアドレスや名刺を変えてしまうと、顧客や取引先に知らせなければならず手間がかかってしまいますし、万が一離婚した場合にもそれを知らせることになり、精神的苦痛を伴います。そもそも、姓を変更することで仕事とは関係のない個人的なことを社内外に知らせることになるため、負担が大きいという声もあります。
 
ただ、旧姓を使いたいかどうかは本人の希望によります。当社でも、社内の事務作業を担当している従業員は社外のやりとりが少ないので、戸籍名を使っているケースが多いですし、旧姓よりも戸籍名を使いたいという人もいるので、本人の希望でいずれかを選択できる状況が理想ですね。
 
――旧姓使用を認める企業が増加傾向にあるとはいえ、旧姓使用を認めない企業も一定数存在します。その理由は何でしょうか?
 
認めない場合の一番の理由は、名前が2つになると企業側の管理が煩雑になり、ミスを招きやすいことです。金融機関や国が関わる公的な書類は、現在のところ戸籍名が要求されるため、経理や人事担当者は、旧姓と戸籍名の両方を把握して管理しなければなりません。ただ、近年は人事関連の情報を効率的に管理できるIT技術も発達してきているので、そうしたシステムを構築し、うまく活用していけば手間を軽減することは可能になってくると思います。
 
――旧姓使用が認められるのは具体的にどういった範囲ですか。
 
名刺やメールアドレス、社内資料などは旧姓を使うことができます。しかし、賃金台帳や源泉徴収票、社会保険の手続きなどの公的な書類は、戸籍名を使わなければなりません。社員名簿や身分証明書、出勤簿や住所録、給与明細などについては、会社によって扱いが異なるので、どこまでを認めるかについて定めておきましょう。
 
従業員がこうした範囲の線引きを理解していないと「旧姓が使えるはずなのに使えない」といった誤解を生む場合があるので、どの範囲を認めるかについて本人に説明しておくとよいでしょう。

 
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――旧姓を使う場合に必要な手続きや注意すべき点を教えてください。
 
社内で旧姓を使用するときには、企業によっては何らかの届け出が必要な場合がありますが、基本的には特別な手続きは必要ありません。ただ、一人につき旧姓と戸籍名の2つを管理しなければならないので、大切なことは書類やデータ管理、荷物や書類の渡し間違えなど名前による業務上のトラブルが発生しないようにすることです。それらの混乱を防ぐには、名前だけではなく社員番号を活用して社員の個人情報やデータを管理することも一つのやり方です。当社でもそのやり方を取り入れていますが、番号を起点にして、2つの名前を社内のシステムと紐付けて管理していくことができれば、ミスが少なくなり管理の手間も軽減されます。
 
また、2019年からマイナンバーカードや住民票、運転免許証などに旧姓を併記することができるようになったので、手続きをしておくと便利なことを従業員に伝えておくのも良いと思います。銀行口座などの契約の際にも便利ですし、「旧姓での身分証明書」としてあらゆる場面で活用できます。
 
――職場での旧姓使用について、今後の動きをどう見ていますか?
 
今後はさらに女性の社会進出が進み、法律が変わっていく可能性もありますし、旧姓使用を認める企業が増えていくのではないでしょうか。現在の民法の下では、結婚したら男性、女性のどちらか一方が、必ず姓を改めなければなりません。結婚によって姓を変えるのは女性が圧倒的に多いという現状において、旧姓使用を認めないことは、このような負担を女性に負わせていることになります。こうした不公平感を是正するためにも、旧姓を使える場面が広がることを期待しています。

 

 

※記事内で取り上げた法令は2021年8月時点のものです。
 
<取材先>
社会保険労務士事務所 代表 出口裕美さん
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト

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