第3回 就職氷河期の再来「コロナ氷河期」は中小企業の採用チャンス(後編)
前編ではかつての就職氷河期を振り返りながら、中小企業経営者が今以下に採用に臨むべきかについてFeelWorks代表・前川孝雄さんが考察しました。
後編の今回は、「この機に優秀な人材の採用に挑むべき」と話す前川さんにさらに考察を深めてもらいました。
逆張りの打ち手で優秀な人材の採用へ
就職氷河期の再来ともいえる「コロナ氷河期」は、求職活動をする個人にとっては大変厳しい時代ですが、人を採用する企業にとってはチャンスと言えます。しかし、コロナ禍による不景気と先行きの不透明感の中で、経営は萎縮傾向となり、重い固定費につながる人の採用にも消極的になりがちです。もちろん、コロナ禍によって事業存続が危ぶまれるほど深刻な業績不振に陥った企業では、まず経営の立て直しが先決でしょう。しかし、厳しい現状に足踏みし、現状の守りに汲々とするだけでは未来は開けません。あえて逆張りの打ち手で、この機に優秀な人材の採用に挑むべきではないでしょうか。
確かに人の採用は、企業にとって大きな投資です。一人あたりの新卒社員の人件費は、初年度給与を含め300~400万円程でしょう。しかし、人への投資は単年度や数年で終わるものではありません。終身雇用とは言わないまでも、数十年の継続的な雇用を見込めば、サラリーマンの平均生涯収入にあたる数億円の投資だと考えられるのです。そうなると堅実な経営者ほど、躊躇する気持ちもわかります。
しかし、ビジネスの王道は、「他社と同じことをやらないこと」です。いかに希少性を発揮しそれを顧客に認めてもらうかかが勝負。それは、採用においても同じです。多くの企業が萎縮して採用を控え、期せずして買い手市場と言える今こそ、ポテンシャルの高い優秀な人材を雇用する機会と捉えるのです。コロナ氷河期だからこそ、良い人材をしっかり選び採用することができ、将来への大きな投資効果を期待できるのです。
成長機会と社会貢献に惹かれる若手世代
中小企業にとっての大きな追い風は、コロナ氷河期の到来だけではありません。それは、今の若者の企業選択の視点の変化です。すでに終身雇用など信じていない若手世代のなかでは、優秀な人材ほど「寄らば大樹の陰」と大企業なら一生安泰とは考えていません。
いかに自分が成長できる仕事か、そしてその仕事を通じて顧客や社会への貢献が実感できるかという点に価値を置いているのです(図参照)。こうしたニーズには、大企業より中小企業のほうがしっかりと対応しやすいと私は考えています。
中小企業は経営と現場が近いため、創業経営者や理念を共有する経営陣であれば、社会貢献をめざす経営理念や方針を明確に伝えやすく、共有しやすいでしょう。人材育成の方針も徹底しやすいので、若手社員の育成内容や方法でも、社内の一貫性が保てます。
また、中小企業は地域密着型で顧客に寄り添いやすく、マーケットとの距離が近いことが多く、お客様からの感謝や貢献の手応えを得やすいはずです。仕事も大企業ほど細分化されていませんから、若手社員本人の適性や成熟度を見ながら、早い時期から責任のあるやりがいのある仕事に就かせることも可能です。大企業のように階層別研修や斜めの関係の先輩によるメンター制度の仕組みはなくても、仕事の分担と日々の報連相やOJTを通して、本人の特性に応じたきめ細かい育成がしやすいことも強みでしょう。
こうした中小企業ならではの強みや魅力を十分に伝えて、前向きなキャリアイメージをアピールすることができれば、優秀な若手人材を惹きつけることができるでしょう。
若手世代は『給与・肩書き』より『働きがい』を重視する
次の【図】は、働く人生設計であるワークライフマネジメントについての考え方の変化を表したものです。
40~50代以上の経営者・管理職層が若手時代に抱いてきた「20世紀的価値観」は、終身雇用・年功序列の職場で辛抱して「①努力」すれば、次第に成果に繋がり給料や職位も上がって経済的に「②成功」し、将来には家族を養える「③幸せ」が待っているというものでした。
これに対し、今の若者の「21世紀的価値観」は、終身雇用や年功序列が崩壊してきた現代に育まれたものです。結果、現在の会社に依存することによる将来の保障が確信できないため、日々の「①努力」が働きがいや自分の成長という「②幸せ」に繋がり、その積み重ねが「③成幸」(継続して幸せである状態)にも繋がるという考え方に変化しているのです。
この意識の変化は、若者の自分本位な考えと感じる人もいるかもしれません。しかしそれは昭和生まれ世代からの見方であり、社会・経済が大きく変動する時代に、自分自身の市場価値を頼りに生きていかざるを得ない若者たちの健全な危機感ともいえるのではないでしょうか。将来が見えないなかで、四の五の言わずに「石の上にも三年」我慢せよという、自分たちが是としてきた昭和型のスローガンは、もはや通用しないと心得るべきでしょう。
早期に顧客満足や地域貢献につながる仕事を体験させる
そこで、若手社員には早い時期から、働きがいや成長の可能性を感じられる仕事を体験させられるように組織や役割付与を変え、採用時にもこれを明示することが重要です。優秀な若者は、仕事を通して働きがいと成長の機会をどれだけ持てるかに強い関心をもっています。また、災害救援や国際貢献をはじめ多様なボランティア活動を頻繁に見て育った平成生まれの若者は、前述のとおり社会貢献への意欲が強く、給料や職位以上に仕事の意義や意味に対する意識も高いのです。
ある食品製造・販売会社では、入社間もない若手社員にはまず地道で厳しいトレーニングを課していましたが、離職が後を絶ちませんでした。経営者は悩んだ末に、仕込み補助や後片付けなどの下働きを強要してきた旧弊を改めました。まず初めに、若者の憧れである花形商品の製造と、その商品をお客様に直接提供し喜んで頂く瞬間に立ち会うという、第一線の仕事を先輩社員のサポートのもとで体験させることにしました。その結果、早期離職は徐々になくなり、若手社員は自社の仕事に働きがいと希望を感じ、日々の仕込みの仕事の意味も理解して励むようになったとのことです。
人材は、採用してからどう育成し活躍してもらうかが重要です。若手社員に裏方や下働きばかりではなく、働きがいを感じられる花形仕事を思い切って任せ体験させることです。リスクがあるなら、先輩社員のサポートをつけさせればよいでしょう。中小企業の長所を活かし、若手社員に早期に働きがいを持たせる育成体制をつくることで、優秀な人材の定着を図り、職場へのエンゲージメントを高めることができ、何より企業の将来を担う次世代リーダーを育てることができるのです。
Profile
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・バワハラ予防講座」(2021年リリース予定)等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)