「事業を子会社化する」とは
「事業を子会社化する」とは、自社で営んでいる事業の全部または一部を、自社が経営を支配する別会社に移すことを意味します。この場合、自社は「親会社」の扱いとなります。
事業単位で独立した会社(子会社)を設立する場合は、「分社化」とも呼ばれます。また、自社が営んでいる事業について、管理部門を除いた全部を子会社に移す場合、自社は子会社の株式を保有し、それを管理する持株会社となるため「持株会社化」と呼ばれたりもします。
子会社とは、ほかの会社(親会社)に経営を支配されている会社をいい、典型的な例としては以下のような場合があります。
◆子会社の典型例
- 親会社に議決権の50%超を保有されている
- 親会社に議決権の40%以上を保有されており、かつ親会社から取締役の過半数の派遣を受けている
事業を子会社化するメリット・デメリット
事業を子会社化するかしないかについて、一概にどちらがいいとはいえません。メリットとデメリットを考慮し、実情を踏まえたうえで判断します。
◆子会社化のメリット
- 事業が会社単位となることにより、事業ごとの業績の適正な評価をしやすくなる
- 事業ごとの経営判断・意思決定を迅速に行うことができる
- 事業が会社単位となることで、最適な内部組織や労働条件を構築できる
- 親会社は株主として有限責任となるため、子会社単位で事業ごとのリスクを分散できる
- 子会社の役員に対して権限を委ねることでインセンティブを付与できる
◆子会社化のデメリット
- 子会社の設立に労力と費用がかかる
- 会社を管理するための事務作業が増える
- 別会社となるため監視・監督が及びにくくなる
- 間接業務などで事業ごとの重複が生じやすく、効率性が下がることがある
- 子会社籍となる従業員のモチベーション低下の懸念がある
事業を子会社化する方法
自社の事業を子会社化する典型的な方法には、大きく分けて「事業譲渡」と「会社分割」があります。そのうち、会社分割には2つのタイプがあります。
◆子会社化の典型的な方法
- 事業譲渡……新たに設立した会社(子会社)もしくは既存の子会社に、分離したい事業に関して有する権利義務の全部もしくは一部を承継する(会社法467条)
- 吸収分割(会社分割の一類型)……新たに設立した会社(子会社)または既存の子会社に、分離したい事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後、承継させる(会社法第条29項)
- 新設分割(会社分割の一類型)……分離したい事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により設立する会社に承継させる(会社法2条30項)
いずれの方法であっても、子会社に承継させる資産の帳簿価額(※1)の合計額が、親会社の総資産額の5分の1以上である場合には、原則として親会社の株主総会の特別決議が必要です。その場合、株主の3分の2以上の賛成が必要となるので注意してください。
(※1)会計帳簿に記載または記録された資産の金額
子会社化の法的手続きと注意点
事業譲渡と会社分割では、たとえば法的手続きに以下の違いがあります。
◆事業譲渡
<必要な手続き>
- 既存の契約の相手方や従業員などから、個別に契約の承継について同意を得る手続き
- 行政の許認可を要する事業の場合、子会社において当該許認可を新たに取得する手続き(事業譲渡では、原則として許認可を承継できない)
<不要な手続き>
- 労働契約承継法に基づく労働者保護の手続き
- 会社法に基づく債権者保護手続き
承継する契約や従業員の数が少ないのであれば、吸収分割や新設分割よりも事業譲渡のほうが迅速に手続きを終えられる可能性があります。
◆会社分割(吸収分割・新設分割)
<必要な手続き>
- 労働契約承継法に基づく労働者保護の手続き
- 会社法に基づく債権者保護手続き
- 行政の許認可を要する事業の場合で、会社分割により当該許認可を承継できない許認可の場合には、子会社において当該許認可を新たに取得する手続き
<不要な手続き>
- 既存の契約の相手方や従業員などから、個別に契約の承継について同意を得る手続き(原則として個別の同意なく承継できる)
吸収分割や新設分割による許認可の承継の可否は法令によるため、事業の子会社化を進める前に許認可ごとに法令を確認しましょう。また、労働者保護の手続きや債権者保護手続きは複雑で時間がかかるため、スケジュールにも注意が必要です。
◆共通する注意点
子会社化が節税につながるといわれることもありますが、それもケースによって異なります。子会社化を進めるにあたっては、弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
事業の子会社化には多くの手続きや確認事項があります。子会社化するべきかどうかの判断は、メリットと同時にデメリットも吟味して、自社の実情に合っているかどうかを十分に検討してください。
※記事内で取り上げた法令は2022年2月時点のものです。
<取材先>
森・濱田松本法律事務所 弁護士 金村公樹さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト