カンパニー制とは
◆事業部を擬似的に「分社」化
カンパニー制とは、企業内の各事業部門をそれぞれ独立した会社のように扱う経営システムです。一般的な企業と同様、同じ事務所内に席を構えながらも、各事業部を「○○カンパニー」などと呼び、独立採算制を採って権限委譲を行ったり、責任の所在を明確化したりすることで、収益の向上や事業の効率化を目指します。このため、「社内カンパニー制」と呼ばれる場合もあります。カンパニー制において法的な定めや手続きなどはなく、各カンパニーにどの程度権限を与えるかも企業によって異なります。
◆カンパニー制を導入した企業例
1994年、ソニーが赤字転落時に取り入れ、大幅に業績改善したことで注目されました。また、2016年にはトヨタ自動車も同制度を導入し、製品ごとのカンパニーのトップが企画から生産までを一貫して指揮し、変革に取り組んでいます。
大企業に普及した社内分社制の一種ですが、今後、経営手法の見直しを図る多角経営の中小企業の間でも広がっていく可能性があります。
持株会社制(ホールディングス制)、事業部制との違いは?
◆持株会社制との違い
持株会社は、株式を有することで傘下企業や事業を支配しています。他社の支配だけを行う純粋持株会社と、事業活動を行いつつ他社支配を行う事業持株会社があります。
カンパニー制はあくまでも同じ企業内で運営されるため、法的にも同一の法人の扱いになりますが、持株会社は傘下企業とは別会社となります。
将来的に持株会社にすることを見据え、段階的にカンパニー制を導入する企業もあります。
◆事業部制との違い
事業部制とは、一般的に製品やサービスごとに分けた事業部門を設置し、事業運営に必要な権限を与える組織形態を指します。各事業部で予算を決めたり業績管理を行ったりしますが、人事や経営判断の権限は本部にあります。現在の多くの企業は事業部制に該当します。
カンパニー制ではそれぞれの事業部門を独立した会社のように扱うため、「カンパニープレジデント」などと呼ばれるカンパニーの責任者に事業部制よりも多くの権限を与え、人事権や投資といった各種判断を委ねる傾向があります。
カンパニー制のメリット
◆業績が明確化する
各カンパニーで利益を明確に数値化できるため、事業業績の明確化が図れます。本社(企業)はカンパニーごとの評価がしやすくなり、カンパニー内ではより具体的な課題の分析や目標設定などを通じて収益力の強化につながります。
◆意思決定の迅速化
各カンパニーの上層部に経営に関する裁量権や人事権が与えられるので、カンパニーに適した組織編成や顧客ニーズに対して意思決定のスピードが上がり、利益向上が期待できます。
◆人材の意欲向上
カンパニー制は、一つの会社に複数の企業(カンパニー)が存在する組織形態のため、ライバル意識が生まれ、競争力が強化されます。また、カンパニーに対する責任感や誇りが生まれ、モチベーションの向上やカンパニー内の組織力の強化につながり、生産性や売上アップが期待できます。
◆経営スキルの向上
カンパニープレジデントは、擬似的とはいえ経営者の経験を積むことで、経営資源の配分、投資の決定など、経営の視点や経営スキルを習得できます。将来の経営者育成に役立つでしょう。
カンパニー制のデメリット
◆カンパニー単体の利益に固執する
「カンパニーとして業績を上げる」という目標にとらわれて、カンパニー内や個人のパフォーマンスを重視しすぎた結果、カンパニー間での対立や、会社全体での業績の向上につながらないリスクがあります。カンパニー制であっても、会社全体でのメリットを考えられるような体制にすることが必要です。
◆「横」のつながりが弱くなる
カンパニー制では事業部門ごとに組織を作るため、ほかのカンパニーとの横のつながりが薄くなり、事業部を越えた新規事業案が生まれにくく、技術やアイデアが共有されないことがあります。
◆不正が見えにくくなる
カンパニーに対する収益性への責任が明確になると、「結果(業績)が良ければ良い」という思考に陥りやすくなります。その上カンパニーごとに経営に関する裁量権や人事権が与えられると、本社が機能として持っているコーポレートガバナンス(企業統治)がうまく働かなくなり、カンパニーに不都合な情報を隠蔽したり、不正な会計処理を行ったりと不正行為が起こりやすくなるリスクがあります。
カンパニー制を実施する際の注意点
◆数字を明確にする
収益力の強化や事業の効率化を目指すためには、各カンパニーの業績などの数字を明確にすることが重要です。損益計算書や貸借対照表などを各事業部で作成するのが理想的ですが、時間や手間がかかるため、まずは大まかでもよいので経営状況を表す数字を算出しましょう。
◆権限委譲の範囲を決める
各カンパニーにどの程度の権限を与えるかを事前に決めておく必要があります。擬似的に分社化するとはいえ、同じ会社であることには変わりないため、権限を与えずに本社が干渉しすぎると形式だけのカンパニー制になってしまう可能性があります。
◆評価基準を明確にする
評価制度が統一されていないと、各カンパニーの業績が正しく反映されず、社内全体に不満が溜まり、生産性が下がったり離職率が高まったりする危険性があります。カンパニー制の成績を適切に評価できる人事評価制度を設けましょう。
◆カンパニー制について周知する
カンパニー制を導入する際は、従業員が新しい制度の中で活躍できるよう、組織図や変更点などをわかりやすく周知することが重要です。
◆間接部門の扱い方
各カンパニーで人事・総務・経理などの間接部門を配置するのが理想的ですが、人件費や組織編成の手間などのコストが発生します。まずは間接部門を本部に置いたまま、カンパニープレジデントに人事権を与えるなどして、段階的にカンパニー制を導入していくのも手法の一つです。
カンパニー制は、生産性向上や社内意識の変革につながる制度です。メリットやデメリットなどを踏まえて、自社に合っている制度か慎重に検討しましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年3月時点のものです。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
