内部通報制度の目的は、不祥事を未然に防ぐこと
内部通報制度とは、社内に法令違反や規則違反が疑われる出来事があった際に、社員が報告や相談を行うことのできる窓口と、寄せられた相談を解決するための仕組みのことです。
ハラスメントやデータの改ざんなど、企業の不祥事が報道されるケースが後を絶ちません。内部通報制度は社員からの報告により企業内における問題の芽を早期に発見し、自ら不正を是正していくための制度です。そのためには安心して社員が問題を会社に向けて通報できることが不可欠です。「公益通報者保護法」では、企業に対して通報者を特定させる情報の守秘義務や、通報に起因する解雇等の不利益な扱いの禁止が定められています。
社内にハラスメントや人間関係などの相談窓口を設けている企業も多いと思われますが、こうした相談窓口も「内部通報」のための相談先の一つです。「ご意見箱」のように、社員が相談を書いて投函できる仕組みも内部通報制度といっていいでしょう。直属の上司や同僚には相談しづらいことを、中立的な第三者に相談できる仕組みがあることが大切です。
「内部通報制度」を形骸化させないために
社員数の少ない中小企業では、それでも「自分が通報したことが分かってしまうのではないか」と、社員が不安を感じるものです。匿名でも通報・相談ができるようにする、メールで相談ができるようにする、あるいは社外の弁護士や社会保険労務士と契約し、相談窓口を担ってもらうといった、相談者や相談内容の秘密が守られる工夫をしましょう。相談を待つばかりではなく、定期的に全社員を対象にアンケートを取り、「社内で気になる事例を発見して困ってはいないか」といった質問項目を入れておくという方法もあります。
また、せっかく制度や窓口を作っても、社員に知られていなければ活用されません。入社時に必ず窓口の存在を説明する、社内の分かりやすいところに相談先を明記したポスターを貼っておくなど、周知の工夫が必要です。
相談を受けて問題に対処した場合には、相談者や関係者が特定されないように配慮しつつ、社内に対応の経緯を公表しましょう。なかには相談の内容が通報者の勘違いである場合もあるかと思います。そうした場合も軽く受け流してしまうことなく、通報者に事実を説明し、ていねいに誤解を解いて理解してもらいましょう。「相談すれば、きちんと向き合ってもらえる」と認識されれば、社員は安心して通報・相談ができるようになります。
社内のコミュニケーション改善のきっかけにも
相談窓口には、時には耳の痛い指摘やすぐには解決できない問題も持ち込まれます。しかし、トラブルの種を知らずに問題が大きくなるよりも、社員の不満や不安に早期に対応できれば、企業の信用を落とす不祥事や社員の離職を防ぐことにもつながります。
相談事をすぐに、100%解決することはできなくても、「ここまでは対応しました」「これ以上は来期の課題として取り組むことにします」という方針を示すだけでも社員の納得感は高まります。疑問や不安を抱えたまま働き続ける、あるいは辞めてしまうよりも「声を上げれば会社は一緒に考えてくれる」と社員が実感できれば、業務にも積極的に取り組み、チームワークも改善されていくのではないでしょうか。
<取材先>
特定社会労務士 代表 出口裕美さん
社会保険労務士法人出口事務所の代表社員。企業のパートナーとして、人事労務のあらゆる業務をサポートしている。全国社会保険労務士会連合会の代議員や東京都社会保険労務士会の常任理事も務める。
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト