社内公募制度とは
人事異動制度の一つである社内公募は、新たに人材を求める部署やポストがあった場合に社内で募集をかけ、希望した社員の中から採用します。社外から採用する際と同様に、個人の実績やスキルを採用条件などに照らし合わせて選考を行います。
社内公募制度のメリット
◆社員はキャリアチェンジしやすい
社内公募制度は、企業だけでなく社員にとってもメリットが大きいです。チャレンジしたい仕事が見つかって転職活動を行なったものの、未経験であることを理由に不採用となるケースもあります。しかし、社内の異動ならば、異なる職種であってもこれまでの実績が評価されやすくなり、キャリアチェンジの可能性が高まります。
◆人材の流出防止
全く別の職種に挑戦したいと思った場合、転職を検討するのが一般的です。しかし、社内で異動の希望が出せるならば、転職活動をしなくて済みます。社風や会社の方針なども変わらないため、別会社に転職するよりも個人の負担は少ないでしょう。企業からすれば、人材の流出を防止できるのがメリットです。社内公募制度によって、社員が長く働きやすい環境を作ることができます。
◆採用コストを抑えられる
社内公募を行うことによって、新しく採用するときに発生するコストを減らせます。社外から新たに人材を採用すると、求人広告の制作費や転職エージェントの手数料など様々な外部コストが発生します。一方、社内公募は社外に求人を出さないため、採用にかかるコストを大幅に削減できます。ただし、新たに人材を補充しないケースもありますが、場合によっては欠員が出るポジションの採用を別に行う必要があります。
◆職場の環境が良くなる
別の企業に転職する場合、実際に入社するまでは上司のスキルや人柄をあらかじめ把握することは難しいものです。しかし、社内公募なら募集先の上司の評判は耳に入りやすいでしょう。つまり、社内公募は仕事内容だけでなく「どのような上司の元で働くか」という点も重視されるようになります。
たとえば、社内での印象が良くなかったり、マネジメント能力が懸念されたりする上司がいる部署の公募は敬遠されてしまいがちです。上司に問題があれば、社内公募の応募数が集まらない要因になってしまいます。社内公募制度を導入することで、管理職となるメンバーは緊張感を持って働くようになり、職場の環境が良くなるという効果も期待できます。
社内公募制度のデメリット
◆社内の人間関係に悪影響が出る恐れも
社内公募の場合、希望した社員の意思で人事異動が行われます。ポジティブな理由で応募したとしても、現在所属している部署の上司や同僚からネガティブな印象を持たれかねません。特に選考の末、異動の希望が叶わなかった場合には、引き続き一緒に働くことになります。上司としては、「何か不満があったのか」「また異動の希望を出すのでは」と考えてしまうかもしれません。その結果、双方の信頼関係が崩れる原因になります。
そういったことを考慮して、社内公募は希望者が人事側に直接申し出て、正式に採用が決定するまでは非公開にするケースが一般的です。人事は応募情報の取り扱いに注意を払いましょう。
◆組織として想定外の異動が発生する
企業側が想定していなかった社員から応募がある可能性ももちろんあります。言い換えれば、組織全体で見たときに最適な人事異動ではないケースがあります。たとえば、営業部のエース候補として期待していた社員に対し、熱心に教育を行っていたとしても、本人が別の部署を希望する場合もあります。会社の意向とは異なった人事異動が発生する可能性があることは理解しておきましょう。
そのほかの社内人事制度との違い
社内公募に限らず、社員の希望によって人事異動が行われる制度があります。
たとえば、社内FA制度を設ける企業があります。プロ野球選手のFA権と同じように、社員が自身のスキルを売り込んで異動を行う制度です。希望する部署から声がかかる場合もあれば、スキルを評価して他部署から声がかかるケースもあります。社内公募制度との大きな違いは、あくまでも社員の希望が先である点です。社内公募制度は人員の不足しているポジションがあった際に募集されますが、社内FA制度は社員本人の希望が主体になります。必ずしも希望するポジションが空いているとは限りません。社員の新たな可能性を見出す効果が期待されますが、人員を補充できる社内公募とは役割が異なります。
また、社内公募ではなく自己申告制度として面談などで社員の希望を聞く場合もあります。ただし、本人が「○○の部署に異動したい」と話したからといって、必ずしも実現するとは限りません。希望者に対して選考が行われる社内公募制度とは異なります。自己申告制度の場合は、あくまでも参考程度と考えると良いでしょう。
成果主義の企業にとっては相性の良い制度
そもそも異動を申し出る社員がいなければ、社内公募制度は成り立ちません。目標に対して積極的に挑戦する社員の資質が求められます。また、社員が自らの希望を言いやすい社風でないと、応募数も集まらないでしょう。そのため、年功序列を重視した伝統的な企業よりも、年齢や立場に左右されない成果主義の企業と相性の良い制度です。
社内公募制度のメリットとデメリットを踏まえた上で、自社にとって導入する価値があるのか検討しましょう。
<取材先>
アルドーニ株式会社・代表取締役 永見昌彦さん
外資系コンサルティングファームなどで人事コンサルタントとして勤務した後、事業会社(ラグジュアリーブランド持株会社)で人事企画担当マネージャーとして人材開発・人事システム・人事企画を兼務。事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務にたずさわっている。
TEXT:成瀬瑛理子
EDITING:Indeed Japan + ノオト