業績不振による賃金減額はできる? その法的条件とは

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業績不振に陥った場合、労働者の賃金を減額して企業の存続を図る場合があります。そもそも、業績不振による賃金減額(賃金カット)は法的に問題ないのでしょうか。賃金を減額する際の条件や注意点などについて、三浦法律事務所パートナー弁護士の大村剛史さんに伺いました。

 

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業績不振を理由にした賃金減額の法的条件


従業員の賃金の減額は、企業の存続に関わる業績不振などの事由がある場合、絶対に禁止というわけではありません。しかし、労働条件の不利益変更に該当するため、以下の条件により減額が認められます。
 
1.労働者の同意を得る(労働契約法第8条、第9条)
労働契約法第8条には、「労働者および使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」とあります。同第9条には、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と明記されています。このように、労働条件を不利益に変更する場合には、原則として労働者の同意が必要となります。
 
2.就業規則を変更する
労働者の同意を得ず、もしくは得られずに賃金の減額を実行する方法として、就業規則の変更があります。前述したように労働者の同意がない限り、原則、労働者に不利益となる労働条件の一方的な変更(不利益変更)は認められていませんが、例外として以下を満たすことによって可能になります。

 
 

◆不利益変更の条件

  • 就業規則の不利益変更の合理性(労働契約法第10条)
  • その他、就業規則の変更手続きを行う(労働者への周知等)


不利益変更の合理性は、次の4つで判断します。

 

◆不利益変更の合理性の判断基準

1.不利益変更の必要性
賃金に関する就業規則の不利益変更を行う場合には「高度の必要性」が必須です。業績不振という理由は、その程度にもよりますが、その必要性が満たされやすい状況と考えられます。そのほか、必要性が認められやすいものとして、企業同士が合併した際の就業規則の統一といった理由や、年功序列の賃金体系から成果主義的な賃金体系に変更するといった理由の場合には、比較的「高度な必要性」が認められやすいでしょう。
 
2.労働者が受ける不利益の程度
減額した金額や減額割合、減額する賃金の種類(基本給、手当、賞与など)、減額する対象者の公平性などを考慮しなければなりません。
 
3.変更後の内容の相当性
1や2を踏まえつつ判断することになります。
 
4.手続きの妥当性
不利益を被る労働者に対して、丁寧な説明を行うことは必要不可欠です。手順を踏んで、協議や交渉を行いましょう。

 
 

業績不振を理由とした賃金減額に上限はある?

労働者の同意が得られるのであれば、法的に減額する金額や割合に制限はありません。
 
ただし、同意が労働者の自由な意思に基づいているかどうかがポイントになります。説明が不十分だったことで労働者が誤解したまま同意してしまった、あるいは企業に強制されて同意せざるを得なかったというケースでは、同意自体が無効となる可能性があるので注意しましょう。
 
同意を得ずに賃金減額を行う場合は、前項であげた4つの要素を総合的に判断した上での決定になります。大きく減らさないと倒産の危険があるなど、賃金減額の必要性が高ければ高いほど大幅な賃金減額が認められやすくなり、必要性が低ければ大幅な減額は認められない方向に向います。

 
 

業績不振による賃金減額実施に必要な手順

業績不振により賃金減額の必要性に迫られた場合、手順を追って進めましょう。以下は、一般的な流れです。

 
 

◆労働者の同意を得る場合

1.具体的な賃金減額内容の検討
業績不振の程度により、減額する対象者やカットする賃金の種類、金額や割合などを検討する
 
2.労働者への説明
賃金減額を実施することになった経緯や必要性、変更後の具体的な賃金、賃金体系について丁寧に説明する
 
3.合意を得られたら賃金減額を実施

 
 

◆就業規則を変更する場合

1.就業規則の変更案を作成
不利益変更の合理性を満たす内容を検討する
 
2.労働者への説明
賃金減額を実施することになった経緯や必要性、変更後の具体的な賃金、賃金体系について丁寧に説明する
 
3.労働者代表者の意見書をもらう
労働基準法第90条第1項により、就業規則の変更は労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者の意見を聞くことが義務づけられている。ただし、同意を得る必要はない
 
4.労働基準監督署に就業規則の変更届を提出
定型の変更届はない。厚生労働省公式サイトの様式例を参照
 
5.労働者に就業規則の変更を周知
不利益変更の条件の一つなので、忘れずに行う

 
 

賃金減額に関する注意点

労働者の同意を得るにせよ、就業規則の不利益変更をするにせよ、まずは労働者に対して丁寧に説明を尽くし、理解を求めることが何よりも重要です。全体説明会は当然ですが、その後、個別面談で説明を行うとより丁寧な対応となります。
 
説明する際には、労働者が理解しやすいように、賃金減額の経緯や必要性、変更後の条件などをまとめた資料を作成しておくとよいでしょう。
 
また、労働者の合意を得ずに実施する場合、不利益変更の合理性をきちんと満たしているかどうか、慎重に検討してください。

 

 

※記事内で取り上げた法令は2022年7月時点のものです。
 
<取材先>
三浦法律事務所 パートナー弁護士 大村剛史さん
東京大学法学部を卒業後、いくつかの弁護士事務所を経て、三浦法律事務所に入所。得意分野は「人事労務」、「訴訟・紛争」など。
 
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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