新卒採用における母集団形成とは
「母集団」とは、統計学で用いられる「調べたいデータ全体」を指す言葉ですが、採用活動においては、自社に応募してくれる志望者の集団を指します。自社の求人に興味を持つ学生を集める活動が、新卒採用における母集団形成です。
母集団形成のステップ
◆AISASモデルを使った形成ステップ
母集団形成を進めていくにあたり、参考となるのが「AISASモデル」です。インターネット時代における購買行動モデルの一つですが、このステップに沿って進めていくことでスムーズに母集団形成を進められるでしょう。
AISASモデルは、「Attention(注意)」「Interest(関心)」「Search(検索)」「Action(行動)」「Share(共有)」の5つの段階に分けられ、母集団形成においては下記のような役割を担います。
- Attention
まず自社を認知してもらう活動を行います。合同説明会や就活セミナーへの参加など。 - Interest
次に、学生に対する興味喚起を行います。求人原稿、セミナーでのブース装飾、説明会での発表内容など。 - Search
興味を持って調べてくれる学生に見てもらうための自社サイトの制作や、SNSでの情報発信を行います。あわせて、口コミサイトの記載内容の確認、必要に応じたテコ入れなども。 - Action
インターン、説明会、面接といった採用活動を行います。学生が入社意欲を高められる内容の濃いインターンシップの検討、動機付けなど。面接では上から目線にならないよう注意。 - Share
企業に興味を持ってくれたり、就職してくれた人たちによるSNSでの共有や周りへの口コミ。
「Interest」で認知度を高めるために、イベントのノベルティとしてボールペンやクリアファイルを配る企業も見られますが、意外といい働きをしてくれるのがロゴ入りの置時計です。置時計という特性上、キャリアセンター内の目につく場所に置いてもらえる可能性が高く、結果として学生の目に触れる機会が高まります。
「Search」で盲点となりやすいのが、口コミサイトです。口コミに左右される学生は多いため、企業側も内容を把握しておきましょう。もし投稿日が古いなどの理由で会社の現状に即していない口コミがある場合は、既存社員に口コミ投稿を依頼して現状に即した会社の状況や魅力、仕事のやりがいを発信してもらうなど、テコ入れを検討する必要があります。
4つ目の「Action」までが母集団形成の基本的なステップですが、最後の「Share」も押さえておきましょう。これは直近の学生の母集団形成だけではなく、中長期的に見たときに利点があります。例えば、入社した学生にとって、入社した会社が思っている以上にいい会社であれば、数年後、転職を検討する友人のリファラル採用や後輩への紹介に繋がる可能性があるのです。コストをかけずに母集団形成が行えるのが「Share」の良さとなります。
◆母集団の大きさを決める方法と注意点
母集団形成を行うにあたっては、質と量、のいずれも大切な要素ですが、強いていうなら、量の確保に力を入れた方がいいでしょう。一定の量がある中から選ぶ方が、限られた中から選ぶよりも質が良い可能性が高いからです。
ヘーゲルの「良質転化の法則」は、量が質を決め、質が量を決めるといいます。採用に関しても、まずは量を増やすことで質がついてくると考えられます。
ただし、採用枠に対してあまりにも母集団が大きすぎると、採用に掛かる金銭的・時間的コストが跳ね上がってしまいます。
そこで、過去の採用活動の「歩留まり」を把握し、逆算で必要な母集団の人数を事前に想定しましょう。「歩留まり」とは、採用の各フェーズへ進んだ人数の割合のことで、例えば、1次面接を受けた人が10人、そのうち2次面接まで至った人が5人の場合は「歩留まり50%」となります。
歩留まりを見える化することは、AISASモデルのどこに自社の採用課題があるかを見出すことにも繋がります。面接までは必要人数を確保できているのに、その後に一気に人数が減ってしまう場合、面接官の態度や面接内容、動機付けに課題があるのかもしれません。各ステップの課題を明確にしてPDCAを回すことが大切です。
また、あくまでも目的は自社に合う学生を採用することであり、人を集めることはその手段でしかありません。手段と目的が逆転しないように注意しましょう。
母集団形成のメリット
適切な母集団形成を行うと、興味を持ってくれる志望者の集団を形成することになるので、学生から選ばれる立場から学生を選ぶ立場に回れます。また、何人の学生がほしいのか、どういった学生を採用したいのかが明確になるため、計画的な採用が行えるようになり、予算も見積もれるようになるでしょう。
中小企業の人事担当者には「懸命に採用活動してもあまり意味がない」と言う人もいます。確かに、中小企業は大手企業と比べるとネームバリューは劣りますし、大手志向の学生に検討してもらうことは難しいでしょう。しかし、大手にこだわらない学生もいますし、彼らに応募してもらうためには、まず自社を知ってもらわなければなりません。検討してもらえるような採用活動ができているのか、学生との接点を作れているのかを考え、母集団形成を行いましょう。
<取材先>
株式会社新経営サービス 大園羅文さん
現在は、中小企業を対象とした人材採用支援、若手人材の定着・即戦力化支援、人事制度の構築・運用支援に従事。特に、「人材採用力の強化」を得意テーマとしており、『採用活動に時間やコスト・労力を割けない』等の中小企業独自の課題に寄り添った支援を通じて、顧客とともに“勝つべくして勝つ”採用活動を展開。
TEXT:卯岡若菜
EDITING:Indeed Japan + ミノシマタカコ + ノオト