モバイルワークで業務を効率化 メリットやリスク、導入のポイントは


モバイルワークは、もともと営業職など外出が多い職種に広く浸透していた働き方です。時間や場所の制限がなく便利である一方で、企業にはリスク管理が求められます。
 
モバイルワーク導入で企業・従業員が得られるメリット、考えられるリスクとは何でしょうか。導入時に意識したいポイントも含めて、社会保険労務士の歌代将也さんに伺いました。

 
 

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在宅勤務よりも企業に浸透しているモバイルワーク


――モバイルワークとは何ですか?
 
時間や場所にとわられず柔軟に仕事をする「テレワーク」の中でも、「モバイルワーク」は施設に依存せず移動中や移動の合間に行うものを指します。電車のほか、カフェ、コワーキングスペース、公園のベンチなど、モバイルワークはいつでもどこでも仕事ができます。
 
総務省の「令和元年通信利用動向調査」によると、テレワークの導入形態は在宅勤務(50.4%)よりもモバイルワーク(63.2%)の方が多いことがわかっています。
 
電車や飛行機のなかでパソコンを操作している方もいらっしゃいますよね。私も、移動中にスマートフォンでメールを見たり、簡単な返信をしたりしているので、モバイルワークをしていると言えるかもしれません。
 
――モバイルワークが広く浸透してきた背景を教えてください。
 
社用のスマートフォンやノートパソコンが支給されるようになったことは大きな要素だと思います。私用の機器はセキュリティの観点から使用禁止にしている企業が多いですが、社用の機器があれば、移動中など、いわゆる“すきま時間”に仕事ができるようになります。
 
また、ビジネスチャットやグループウェア、SNSなどのコミュニケーションツールが普及し、スマートフォンで気軽に仕事の連絡を取れるようになりました。プライベートでそうしたツールに慣れ親しんでいる方も増えたため、仕事に導入しやすい土壌が整ってきているのではないでしょうか。

 
 

モバイルワークで業務効率アップ、一方でセキュリティリスクも


――モバイルワークのメリットはどんなところですか?
 
前述した総務省の調査によれば、「業務の効率性(生産性)の向上」「勤務者のワークライフバランスの向上」「勤務者の移動時間の短縮・混雑回避」が導入目的となっています。
 
企業側のメリットだけでなく、従業員にとってのメリットが挙げられていることは注目すべきポイントです。従業員のワークライフバランスが向上すれば、心身を健康に保って前向きに仕事に取り組め、結果的に業務の生産性も上がるでしょう。実際に、調査ではモバイルワークの導入について「非常に効果があった」「ある程度効果があった」と回答した企業の割合が87.2%を占め、メリットが大きいことがわかります。
 
――どんな職種でモバイルワークがなされているのでしょうか。
 
営業職など、移動の多い職種では出先でモバイルワークができると便利ですよね。移動時間や、出先での空き時間に、手持ちの機器で急ぎの業務を済ませられると効率的です。
 
また、経営層や管理職もモバイルワークが適していることがあります。マネジメント範囲が広くなればなるほど、ものすごい数のメールが届いたり、瞬発的な意思決定が求められたりするため、すきま時間に情報にアクセスできるメリットは大きくなります。
 
――モバイルワークの普及に伴い、考えられるリスクはありますか。
 
管理者の目の届かない場所や時間帯に業務ができてしまうため、労働時間の管理が難しくなります。仕事とプライベートの境目がなくなり、働きすぎてしまうケースも想定されます。
 
また、オフィスに集まって仕事をすることに慣れている企業では、社員間のコミュニケーションが薄れてしまうリスクもあるでしょう。モバイルワークを導入する前に、やり取りを円滑にする仕組みやルールを設けましょう。特に、上司に対して部下がコミュニケーションを取りやすくする工夫は重要ですね。
 
セキュリティリスクにも注意を払いましょう。基本的なことだと、カフェなど不特定多数の人がいる場所でパソコンやスマートフォンを使うときは、画面を見られる恐れがあります。業務に関わる電話やオンライン会議の内容が周囲の人に伝わってしまうことも避けなければなりません。さらに、通信の途中でデータを抜かれないよう、サイバー・セキュリティを考える必要もあります。

 
 

モバイルワーク導入時のルールづくり


――モバイルワークのリスクに対して、企業側の担当者にできる対策を教えてください。
 
まず覗き見などの比較的単純なリスクは、注意喚起を行い、会社の備品としてディスプレイの覗き見防止シートを配布するなどの対策を取ることができます。
 
その上で、導入の鍵となるのはルールづくりです。以下のような内容を、人事以外の部門とも協力し、検討しましょう。
 
・場所
原則的に、不特定多数の人がいる場所では、機密情報を扱ったり、通話をしたりすることを避けるよう促すのが望ましいです。モバイルワークをするのに理想的な場所をあらかじめ例示しておきましょう。最近では、オンライン通話に適した防音のブースがあるコワーキングスペースもありますし、都市部では駅の構内にモバイルワーク用のブースが設置されていることもあります。
 
また、モバイルワークとは呼べないかもしれませんが、サテライトオフィスの導入はひとつの解決策でしょう。もちろん一定以上の規模や予算がなければできませんが、営業ルートの要所や出張の多いエリアにサテライトオフィスを設置する方法があります。
 
・通信環境・端末
通信環境の整備はモバイルワークに必要不可欠と言えますが、公共の場所やカフェにあるオープンネットワーク(フリーWi-Fi)は暗号化されていない場合があるため使用しない、というルールにしておくのが良いでしょう。万全を期すためには、セキュリティの質を企業が確認したモバイルWi-Fi端末を従業員に貸与するのが望ましいと思います。
 
また、スマートフォンと同様に、私用のパソコンではなく、仕事専用のパソコンを使用することも必要です。業務内容にもよりますが、デスクワークの従業員に貸与するパソコンを最初から持ち運びできる機種にしておくことで対応できます。
 
・ソフトウェア・クラウドサービス
社内で導入しているさまざまなソフトウェアやクラウドサービスを、モバイルワークでも使用できると便利ですよね。一方で、公開範囲の設定ミスによって、社外秘情報が公開されてしまうケースも見られます。
 
モバイルワークに限った話ではありませんが、企業としては、ダウンロードしてもよいツールを指定する、新しいツールを導入する際の承認ルートを簡潔にしておくなどの対応で、対策する必要があるでしょう。
 
・その他
紛失や破損のリスクに備えて、「社用PCを持ってお酒を飲みに行かない」など、具体的な行動ルールを設けている企業もあります。目的が明確であれば、社内にも浸透しやすいでしょう。
 
――モバイルワークが普及することで、私たちの社会にどんな変化が期待できますか?
 
かつての営業職は、日中は取引先に出向き、夜にオフィスへ戻ってから資料作成や発注、経費精算などの事務処理に取り組むことが多かったと思います。それが移動中や帰宅途中にできるのなら、無駄な移動をなくし、労働時間を減らすことができますよね。
 
効率的に仕事をすることで、適切なワークライフバランスが保たれ、結果的に社員の能力が発揮されて業績アップも期待できます。企業としても、従業員としても、良い循環が生まれやすくなるでしょう。いつでもどこでも仕事ができるからこそ、働きすぎてしまったり、オン・オフの切り替えが難しくなったりする恐れもあるので、企業側のルール整備が肝心ですね。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年6月時点のものです。
 
<取材先>
監修:うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
 
TEXT:遠藤光太
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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