「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」とは
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以後、ガイドライン)とは、2021年3月に厚生労働省が発表したフリーランスを保護するための指針です。
ガイドラインの最大のポイントは、企業とフリーランスの取引に「下請法」や「独占禁止法」が適用されると明文化した点です。つまり、企業の優越的地位の濫用や下請法に抵触する行為がより厳しく判断されることになります。
これまでは、下請法対象業種(製造委託や修理委託など)でない場合、独占禁止法による救済がなされることはまれでした。しかし、今後は企業とフリーランスの間にトラブルが生じた場合、公正取引委員会などが介入する可能性があります。
フリーランスの定義と労働者との違い
ガイドラインでは、フリーランスの定義と労働者の基準を次の通り定めています。
フリーランス:実店舗がなく、雇人もいない自営業者や1人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者
労働者:実質的に発注事業者(企業)の指揮命令を受けていると判断される場合など、現行法上「雇用」に該当し、労働関係法令が適用される者
つまり、両者の区別の基準は、企業に指揮命令を受けているか否かです。契約の形式や名称がフリーランスであっても、実質的に従業員と同様の指揮監督をしているケースでは、雇用(労働者)に該当する可能性があります。その場合、残業代の支払や解雇規制の問題に抵触する恐れがあることを留意しておきましょう。
企業がフリーランスにしてはいけないこと
ガイドラインには、優越的地位の濫用になり得る類型が列挙されています。以下の行為は下請法や独占禁止法違反に該当する可能性があるので注意してください。
◆ガイドラインに明記されている問題となり得る行為類型
1.報酬の支払遅延
正当な理由なく支払いを遅らせる、もしくは支払わない
2.報酬の減額
一方的に報酬を減額する
3.著しく低い報酬の一方的な決定
「今後、仕事を依頼しない」などを脅し文句に、フリーランスに低い報酬を受け入れさせる
4.やり直しの要請
フリーランスが契約内容に合致した納品物を提供しているにもかかわらず、正当な理由もなくやり直しをさせる
5.一方的な発注取消し
フリーランスが業務の準備を整えていたにもかかわらず、キャンセル料を払わずに一方的に発注を取り消す
6.役務の成果物にかかる権利の一方的な取扱い
フリーランスが拒絶しているにもかかわらず、取引上の力関係を背景に強引に著作権譲渡などを迫る
7.役務の成果物の受領拒否
企業の一方的な都合で、フリーランスが納品しようとしている成果物を受け取らない
8.役務の成果物の返品
すでに検収まで終了しているのに、あとから瑕疵(かし)があったことを理由にフリーランスに返品する
9.不要な商品または役務の購⼊・利⽤強制
「自社製品を購入しなければ発注を打ち切る」などを脅し文句に、フリーランスに自社製品を購入させる
10.不当な経済上の利益の提供要請
長期間、一方的に自社の役務に専念させたり、契約内容に含まれていない業務までフリーランスに行わせる
11.合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の⼀⽅的な設定
合理的に必要な範囲を超えて秘密保持義務を負わせる
たとえば、著作権の譲渡は、今後権利をどのように利用するかわからない、将来的に利用範囲を広げる際に再度許諾を得るのが面倒などといった理由から、譲渡を受けることが通常の扱いとなっている企業は少なくありません。
しかし、「6.役務の成果物にかかる権利の一方的な取扱い」に示されたように、これは下請法や独占禁止法に抵触するリスクをはらむ行為なので気をつけましょう。
フリーランスとの取引で企業が注意すべきこと
下請法や独占禁止法に抵触しないためにも、企業はフリーランスに対して「優越的地位の濫用」をしていないかどうか、正しい判断が求められます。
上記の問題行為に抵触しなければいいということではありません。ガイドラインには、「12.その他取引条件の⼀⽅的な設定・変更・実施」という一文もあります。最初の契約設定や途中で契約変更の必要が出てきたら、フリーランスと話し合いの場を設け、お互いに納得のいく契約内容を検討しましょう。
企業の代表者がガイドラインをしっかりと把握するのはもちろんですが、現場を任せる担当者(従業員)への指導も必要です。担当者によるセクハラやパワハラなどで企業が訴えられるケースは少なくありません。定期的に従業員研修を実施する、不適切な言動の疑いが生じた場合は速やかに調査し、必要があれば担当者を変更するなど、トラブルに発展しないための体制づくりが不可欠です。
※記事内で取り上げた法令は2021年12月時点のものです。
<取材先>
法律事務所アルシエン 弁護士 河野冬樹さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
