取締役の善管注意義務とは? 違法となるケースや対応策を解説

取締役会のイメージ


株式会社の取締役は「善管注意義務」を負う職責ですが、そもそも善管注意義務とはどういったものなのでしょうか。また、どんなケースが善管注意義務違反となり、違反した場合、取締役はどのような責任を負うのかなどについて、三浦法律事務所パートナー弁護士の鍵﨑亮一さんに伺いました。

 
 

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善管注意義務とは


「善管注意義務」とは「善良な管理者の注意義務」の略で、他人から業務の委任を受けた者が負うべき義務の一つです。
 
業務の委任を受けた者は、それを行う際に善良な管理者としての注意義務を払い、その職業・地位において一般に要求される水準で委任事務を処理しなければいけません。

 
 
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企業(株式会社)における善管注意義務の対象となる役職


会社法330条において、企業(株式会社)と取締役は委任の関係にあると規定されていることから、取締役は善管注意義務を負う役職です。
 
つまり、取締役は法的に企業から委任を受けて会社運営を行っており、事業内容、規模などに照らし合わせて、「一般的に期待される水準の注意をもって業務を行う義務」があります。
 
そのほか、監査役、会計参与、執行役、会計監査人なども善管注意義務を負う役職です。

 
 

善管注意義務違反となり得るケース


取締役の大きな役割に「業務執行の決定」と「ほかの役職員に対する監視・監督」があります。これらを怠った場合、善管注意義務違反となる可能性があります。

 
 

◆「業務執行の決定」における善管注意義務違反


取締役は取締役会で、多額の設備投資を行う、他社を買収する、自社グループの企業再編を行う、などの適否を審議し、実行するかどうかの判断を行います。その際、多くの選択肢の中から企業にとってベストな方法を選び、迅速に実行する必要があります。その判断が誤っていたとき、問題となることがあります。
 
ただし、すべての判断の誤りを善管注意義務違反としてしまうと、取締役は思い切った経営判断ができなくなります。そこで、結果的に企業に損害が発生しても、次の2つの条件を満たす場合は善管注意義務違反にはならないという「経営判断原則」が裁判所で採用されています。

 

  1. 判断のために、十分な情報を集め、調査・検討した
  2. 判断の内容が、著しく不合理な判断ではない


したがって、取締役が善管注意義務違反を問われないためには、経営判断に際して十分な情報を集めて判断したことを証明できる証拠を残しておくことが重要です。

 
 

◆ほかの役職員に対する監視・監督における善管注意義務違反


取締役はほかの役職員の業務執行を監視・監督する義務を負っています。ほかの役職員の違法・不当な行為を知りながら放置した場合、善管注意義務違反に問われる可能性があります。
 
役職員の違法・不当な行為が発覚したら迅速に是正するのはもちろん、疑われる場合には早急に調査する必要があります。

 
 
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善管注意義務違反が発生した場合の企業の対応と取締役への責任追求


取締役の善管注意義務違反が発生した場合、企業は違反した取締役の責任を追及し、損害の填補を求めることになります。しかし、企業を経営しているのが取締役であることから、ほかの取締役が当該取締役に対して十分な責任追及をしない恐れがあります。
 
その場合、訴訟によって取締役の責任を追及するには次の方法があります。

 

  1. 監査役が企業を代表して善管注意義務を怠った取締役の責任を追及する
  2. 株主が企業に代わって取締役の責任を追及する(株主代表訴訟)


訴訟の結果、善管注意義務違反と判断された取締役は、それにより生じた損害を企業に対して賠償する責任を負います。

 
 

企業ができる善管注意義務違反の予防策


善管注意義務違反を未然に防ぐためには、以下の点に留意しましょう。
 
1.取締役に必要な情報を適切なタイミングで提供する
取締役が取締役会において適切な判断を行うためには、審議の際に必要な情報や、監視・監督義務に必要な役職員の業務執行に関する情報が与えられている必要があります。特に、リスク情報を含むネガティブな情報が提供されているかは重要です。これらの情報が適切なタイミングで取締役に提供されるよう、仕組み化することが望ましいでしょう。
 
2.十分な議論を行う
取締役会において、十分な議論が尽くされる必要があります。特に重要な案件については深く議論を交わしてください。善管注意義務違反か否かの判断の前提となる調査・審議の十分さについて監査役の意見なども確認しましょう。また、議論において反対意見を自由にいえる雰囲気づくりも重要です。
 
3.社内ルールを定め、周知・徹底する
内部統制の面では、各役職員の権限、業務、承認、記録化のプロセスをルール化することも重要です。そのルールを周知・徹底し、さらにルールに反していないかのチェック機能がしっかりしていれば、再発防止にもつながります。
 
4.社外取締役を選任する
判断の適切さを第三者的な視点で確認するために、外部の人材を取締役に選任することも有効です。
 
ただし、どんなに予防策を講じても、不幸にも善管注意義務違反が発生し、企業に損害が生じてしまうケースはゼロではありません。その際の対応策として、「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」があります。
これは、企業が保険料を負担することで、取締役が企業に支払う損害賠償金の補償を受けることができる保険です。保険金額の制限や免責事由(保険が下りない事由)が定められているので、契約を締結する前に十分に検討してください。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2022年5月時点のものです。
 
<取材先>
三浦法律事務所 パートナー弁護士 鍵﨑亮一さん
School of Law, Queen Mary University of London(LL.M.)修了。2002年弁護士登録。法律事務所や企業の法務部を経て、三浦法律事務所に入所。得意分野は「コーポレートガバナンス、商事紛争」「IT、エンターテインメント」など。
 
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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