労働者の不安を解消するための労働条件通知書
労働基準法では、労働条件で特に重要な諸条件を、労働者を雇い入れて働き始める時点までに書面で明示しなければならないことになっています。これが労働条件通知書にあたります。これは労働者を守り、保護するために決められているものです。労働者側からすれば、特に労働時間や賃金についてなど、口約束だけでは不安に感じることもあるため、書面での通知が非常に重要なものとなります。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書は、雇い主側が労働者に対して雇用の際の諸条件を「通知」するものです。法律で定められた諸条件を通知するための書式であり、「契約」の形になっている必要はありません。一方で雇用契約書は雇い主と労働者それぞれが署名捺印して、両者が同意し「契約」したことまで表す形式になっています。
労働条件通知書の発行が義務である一方、雇用契約書を結ぶのは義務ではないため、結ばなくても法律上は問題ありません。しかし、雇用に関するトラブル回避の意味もこめて、「雇用契約書兼労働条件通知書」を取り交わすケースも見られます。
労働条件通知書に記載すべき事項
必ず通知が必要な事項は「絶対的明示事項」と呼ばれます。内容は以下のとおりです。
- 無期雇用なのか有期雇用なのかを示すための契約期間
- 「契約期間」が存在する場合は、契約の更新をする際の基準
- 就業場所や従事する業務
- 休日や始業・終業時刻、休憩時間について
- 賃金の支払時期や決定方法
- 昇給に関すること
- 退職に関することや、解雇となる場合について
この中で、「昇給に関すること」以外は労働基準法施行規則第5条によって書面での明示が義務づけられています。
また、絶対的明示事項以外にも、それぞれの企業で定めがある場合に明示しなくてはならない「相対的明示事項」があります。内容は以下のとおりです。
- 退職手当や臨時的に支払われる賃金、賞与・最低賃金額
- 労働者に負担させる食費、作業用品等に関すること
- 安全衛生に関すること
- 職業訓練に関すること
- 災害補償、業務外での傷病扶助について
- 表彰、制裁について
- 休職について
義務づけられている項目を必ず記載するとともに、それ以外にも知らせておきたいことがあれば記載することで、就労後のトラブルを防ぐ効果があります。
トラブルを避けるために注意すべき点
◆労働者側にしっかりと確認をしてもらう
雇用者からすれば、労働条件通知書を労働者から「見ていませんでした」と言われてしまうことはリスクになります。2019年4月から労働条件通知書は、労働者が希望した場合には電磁的な方法(メールやLINEなど)で通知することが認められました。しかしリスクを避けるためには、紙に印刷したものを直接渡して、重要な箇所はしっかりと説明をすることが有効でしょう。
◆絶対的的明示事項の中でも特に「更新」について留意する
「契約の更新」は絶対的明示事項であるので、必ず明示しなければならないものですが、特に注意が必要な事項です。契約の更新については、特段の問題がなければ更新されるものと労働者は思っている場合があります。また、働き始めてから一定程度の時間が経過していると、どのような通知を受けていたか忘れている可能性もあります。この事項はトラブルに発展することが多いので、通知の際には、丁寧に説明をすることが必要です。
労働条件通知書の作成にあたっては、厚生労働省のサイトにひな型が掲載されていますので、参照すると良いでしょう。また不安があれば、社会保険労務士に確認を依頼することで、トラブルを回避することができると考えます。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
TEXT:大久保太郎
EDITING:Indeed Japan + 波多野友子 + ノオト
