従業員を個人事業主に転換する際の注意点は?

雇用契約書のイメージ


企業に所属する従業員を、個人事業主に転換して業務委託に切り替えた場合、具体的な労働条件や保険、年金などにおいてはどのような変化があるのでしょうか。それぞれのメリットとデメリット、注意点について、労働事件に詳しい戸舘圭之弁護士に伺いました。

 
 

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「労働者」と「個人事業主」とは


「労働者」と「個人事業主」の違いは次の通りです。

 
 

◆労働者(従業員)

 

  • 使用者との間で「雇用契約」を結び、一定の時間、決められ場所で決められた仕事を行う
  • 上記の対価として、報酬(賃金)を受け取る
  • 労働法の保護を受けられる

 
 

◆個人事業主(自営業)

 

  • 一人ひとりが独立した経営者として事業を営む
  • 労働法の保護を受けられない


正規・非正規を問わず、すべての労働者は、使用者から一定の拘束(指揮命令)を受ける立場にあります。言い換えると、一定の拘束を受けながら報酬を受け取る従属的な立場にある、ということです。そのため、使用者との力関係に圧倒的な差があり、それをカバーするために労働法(労働契約法、労働基準法、労働組合法など)が、一定の保護を与えています。
 
対して、個人事業主は八百屋さんや弁護士のように、一人ひとりが独立した経営者として事業を営む人たちのことを指します。

 
 
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労働者が「労働法」で保護を受けられる内容


労働者と個人事業主の最も大きな差異は、「労働法の保護を受けられるかどうか」です。
 
労働法によって保護を受けられる具体的内容には、残業代の請求権や有給休暇・育児休業の取得、労災、解雇規制などがあります。法人ではなく個人で生計を立てている個人事業主は、労働法の適用外とみなされているため、これらの制度の適用外です。
 
ちなみに、「フリーランス」は特定の会社や団体に属さない働き方を表す呼称です。フリーランスには個人だけでなく法人も含まれるため、税務署に開業届を出して継続的に事業を行う個人事業主とは重なる部分もありますが、厳密にはイコールではありません。

 
 

労働者を個人事業主に転換するメリット・デメリット


企業が労働者を個人事業主に転換する際、考えられるメリットとデメリットは次の通りです。

 
 

◆メリット

 

  • 人件費(賃金、賞与、退職金、法定福利費)を固定化せずに一定の売上を確保できる
  • 社会保険料の負担を削減できる
  • 個人事業主となってもらうことで業務に主体的に取り組むことが期待できる

 
 

◆デメリット

 

  • 人材が他社に流出するリスクが高まる
  • 仕事の依頼や指示を受諾するか否かは個人事業主に決定権がある
  • 仕事を進めていく上で場所や時間、進行方向を管理・指定することはできない
  • 企業と労働者の双方が業務委託契約を十分に理解していないとトラブルを招きやすい

 
 

労働者を個人事業主に転換する際の注意点


企業が何らかの事情で労働者を個人事業主に転換する際には、それが実態を伴ったものであるかが重要です。

 
 

◆形式だけの業務委託契約は偽装請負の可能性


労働者であるかどうかは、契約の名称や形式ではなく、「どのような働き方を企業との関係でしているか」の実態で決まります。正社員やパート社員として働いている人に対し、これまでと同じような働き方をさせているにも関わらず、形式だけ業務委託契約や請負契約に変更することは本来許されません。
 
正社員やパートなどの雇用労働者を強制的・形式的に業務委託契約に転換させることは「偽装請負」です。これは違法行為にあたります。
 
中小企業で社会保険料を含む人件費の抑制や、労働法が定める労働者保護のための規制を回避することを目的に、個人事業主化・フリーランス化を検討する事例が見受けられます。しかし、裁判などで労働者性(実質的な使用従属性)が認められると違法になります。
 
そのため、企業側は労働者が退職して個人事業主となることのデメリットまで含めて十分に理解してもらった上で、明確な同意を得る必要があります。説明が不十分なまま労働者を個人事業主に転換させ、指揮監督下において指示を出していることが明らかになれば、労働法に基づき、罰則や行政処分が適用される可能性もあります。

 
 
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個人事業主への転換は特例的ケースに限定される


2020年には大手広告代理店の電通が、希望する社員が退職した上で個人事業主となり、業務委託契約を結び直す「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」構想を発表しました。大手企業が社員のフリーランス化を促す取り組みに着手した事例は日本では非常にレアケースです。
 
しかし、個人事業主への転換には前述した通り注意点があります。雇用していた社員を個人事業主に切り替えることは、当人の側に「個人事業主になることで仕事の幅が広がる」「新しい挑戦ができる」などの積極的かつ明確なメリットがある特別な場合においてのみ限定されると理解したほうがよいでしょう。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2022年6月時点のものです。
 
<取材先>
戸舘圭之法律事務所
戸舘圭之さん
弁護士。ブラック企業被害対策弁護団の副代表を務めるなど、労働事件に積極的に取り組んでいる。その他、著名な冤罪事件「袴田事件」の弁護人としても活動する。
 
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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