「ホントのところ」を聞いてみたZ世代の「仕事」と企業の「採用」 01/02

仕事よりプライベート優先、社会課題への関心が高い、デジタルネイティブ…などなど、今の「若者」として様々な分析がなされるZ世代。彼らに対する、そうしたイメージはどれほど的を射ているのか。

若者は、仕事や働くことについてどのような距離感で向き合っているのか。また、就活を通じ、職業への関心や企業の志望度などに変化はあるのか。そうした価値観に対して、どのような機会や情報が、興味・意欲の喚起あるいは喪失につながり、意思決定の決め手となるのか。

今回、関西学院大学 社会学部 准教授の鈴木謙介先生のファシリテートのもと、鈴木研究室の学生6名による座談会を実施。オブザーバーに株式会社博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプラニングディレクターで若者研究に詳しいボヴェ啓吾氏を迎え、若者の働き方や就活に対する本音に迫った。

前編では、就活へのイメージから、企業の発信情報の受け取り方などについて聞きながら、若い世代が「働くこと」を人生のなかでどのように位置づけているかについて深掘りを行った。

関西学院大学 先端社会研究所 副所長 社会学部 准教授 鈴木謙介氏

関西学院大学先端社会研究所副所長 社会学部准教授
鈴木謙介氏
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。専攻は理論社会学。ソーシャルメディアやIoT、VRなど、情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論的研究を架橋させながら、独自の社会理論を展開している。現代社会の様々な問題についてマスコミでの発信も多く、若者、メディア文化から国際関係まで多様な分野をカバーしている。

株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 若者研究所 代表 イノベーションプラニングディレクター ボヴェ啓吾氏

株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 若者研究所 代表 イノベーションプラニングディレクター
ボヴェ啓吾氏
2007年株式会社博報堂に入社。マーケティング局を経て博報堂ブランドデザインに加入。様々な手法を用いたブランドコンサルティングや商品・事業開発の支援を行う。若者との共創プロジェクトを多く実施し、2019年より若者研究所代表を兼任。

関西学院大学 社会学部 鈴木ゼミのメンバー

来住さん(3年生)

来住さん(3年生)
1年生の時に友人と起業。SNS交換ツールの販売、イベントの運営、現在はデザイン事業も手掛ける。アルバイトはフィットネスジムのスタッフ。過去、ベトナムに4年間、中国に3年間在住。

田中さん(3年生)

田中さん(3年生)
アルバイトはカフェのホール兼キッチンに従事。インターンでは旅行会社でマーケティングを経験。

小谷さん(3年生)

小谷さん(3年生)
アルバイトはフードデリバリーの配達員。インターンではITベンチャーでWeb広告の運用、地方の酒屋ではWebを活用した販路の拡大やブランディング記事の制作、SNSの運用を経験。

坂本さん(3年生)

坂本さん(3年生)
アルバイトはブックカフェのホール兼キッチン、個別指導塾で小中高生を指導、中高生の体操服の刺繍など。インターンでは、中小企業向けコンサルティング会社でマーケティングなど、中小零細企業の事業承継支援団体でのプロジェクトマネジメントなどを経験。

恩田さん(4年生)

恩田さん(4年生)
アルバイトでは塾講師で高校3年生の指導、ホテルのイベントスタッフ、カフェレストランのホールスタッフを経験。

横田さん(4年生)

横田さん(4年生)
アルバイトではホテルのフロントスタッフ、家電量販店での販売スタッフ、ファミリーレストランでの店内接客やデリバリー業務を経験。

遊ぶように働ければ最高!「生活の8割を仕事に使っても、体感は4割でいたい」

左から鈴木謙介氏、ボヴェ啓吾氏、恩田さん、横田さん

鈴木:まずは4年生に質問しようかな。二人はすでに就活を経験していて、そのなかでよく「就活の軸(*1)」が話題に上ったと思うんだけど、実際のところどうだった?

*1 就活を通して企業や業界を選ぶ際に重視する基準のこと。どんな環境でどんな仕事がしたいか、どんな人間になりたいかといった価値観を言語化する。エントリーシートや面接で質問されるケースが多い

恩田・横田:面接でも毎回のように聞かれましたね。

鈴木:それぞれどう考えていたの? 僕だったら困っちゃうな。「とにかくお金です」とか言ってもいいものなのかしら(笑)?

横田:本音と建前は分けて考えていました。自分の思いや考えに正直な軸と、選考中に表に出す用の軸。

恩田:エントリーした業界によっても、使い分け方は違ってくる気がします。私は自分の考えを正直に伝えるようにしていましたね。「アイデアを形にする仕事がしたい」が軸で、その考えに至った背景やストーリーを説明できるようにしました。

鈴木:企業側はどういう反応をするの?

恩田:私は広告業界と食品メーカーのマーケティング職を中心にエントリーしていて、広告系には受けがよくても、食品だと「へえ…」っていう反応。実際に「それは広告向きですね」と言われることもありました。

鈴木:横田くんの本音軸も気になるな。就活の過程で変わっていったりするものなの?

横田:そうですね。初めの頃はメディアの就活ランキングとか、年収や知名度にとらわれていた気がします。でも自己分析と企業分析を進めるなかで、本当にそれでいいのかと考えるようになりましたね。大手志向ではありつつ、より働きがいや働き方の柔軟性を重視するマインドに移り変わった感じです。

鈴木:外からの情報に引っ張られていたところから、自分自身と向き合うことで、それこそ判断の軸が自分のなかに生まれてきたって感じかな。例えばアルバイト探しのときとの違いを感じることはある?

横田アルバイトは完全にお金目当てのものと、経験したいものと分けて掛け持ちしていましたね。ファミリーレストランの接客と、家電量販店の販売員、ホテルのフロントスタッフを掛け持ちしていましたけど、ホテルスタッフは完全に興味本位で選んでいましたね。

恩田:私は経験とお金を半々で考えていたかな。塾講師とホテル、カフェのスタッフという3つの仕事に就けたから、それで満足。

来住:僕はお金稼ぎと割り切っているかな。スポーツジムのインストラクターをやっています。でも時給だけで選んだわけじゃないな。家や大学からの通いやすさが重要だった。

坂本お金は多いに越したことはないけれど、第一条件ではないですね。1日24時間全体の満足度が高くなるように、遊びも仕事も選びたい。自分はアウトプットする機会が多い仕事がいいなと思って、ビジネス領域で長期間働けるところを探し、インターンも兼ねてオフィスワークをしています。

小谷:同じ働くなら、楽しく過ごせるほうがいいと思いますね。前に大学周辺の地理を覚えるのも兼ねてUber Eatsの配達員をしていたけど、自分には向かなかった。今はWeb広告運用の長期インターンに参加しています。

鈴木:学生のみなさんには、事前にアンケートをお願いしました。「人生における仕事の割合」を尋ねたところ、小谷くんは7割と答えていたね。

来住:おおー。けっこう仕事重視なんだね。僕は5割にした気がする。

小谷理想を言えば、仕事も遊びの延長上にある感じがいいのかなと。やりたいことを仕事にできたらいいけど、それが何かは今の時点ではわからない。なので、仕事であっても「やりたくないこと」は絶対避けたいと思っています。

左から小谷さん、来住さん、田中さん、坂本さん

田中:私は4割って回答したけど、働くのが嫌というわけではないです。むしろ、好きなことを仕事にしたいという思いが強いのかも。「時間的には8割でも体感的には4割」みたいな状態がいいですね。

全員:わかるわー。

鈴木:坂本さんは、ライフステージで割合が変わると回答していたよね。

坂本:私の人生にとって家族は大切なテーマなんです。だから、出産の前と後では仕事の割合は確実に変わると考えています。子どもができたら、家庭優先で仕事との割合は半々になるのかなって。でも、それまでは8割くらいでもいいくらい。平日の5日間はみっちり働くつもりです。

ボヴェ:ここまでの話を聞く限り、みなさんの人生は仕事がすべてではないながら、遊ぶときと近い感覚で仕事に没頭したい感覚があるのかと感じました。

働くにあたり、仕事とそれ以外の切り分けをどう考えているのでしょうか。ON/OFFのスイッチがはっきりしているほうがいいのか、それとも流動的に行き来する感じなのか。

恩田:やりがいを持って臨めているのが前提ですが、人生における仕事の割合は大きくてもいいと思っています。だから、お休みも忙しいときは週に2日取れなくてもかまわないかなと。さすがにまったく休めないというのは困りますが。

横田:僕は若いうちに働けるだけしっかり働きたい。だから時間で区切る発想はあまりないのだけど、スライドワークのように裁量のある働き方だと嬉しいですね。

坂本:私は家族がいちばんだから、土日はしっかり休みたいですね。家族からお出かけに誘われたとき、仕事で行けないのは私の精神衛生上良くない。さっき平日みっちり働くと言ったのは、土日休みを死守したいのもある。

鈴木:来住くんは1年生の時から起業していて、ゼミのみんなといるときも電話やメールが入って来るって話していたよね。経営者ともなると、仕事とプライベートも区別なく24時間過ごすことになるけど、ストレスにはならないの?

来住:苦に感じたことはないですね。ただ、今やっていることが自己成長につながっていると実感しているからであって、就職して組織に入ったら考えがまた変わる気がします。

「理念やビジョンでは区別できない」、にじみ出る情報から企業のリアルを察知

左から恩田さん、横田さん、小谷さん、来住さん、田中さん、坂本さん

鈴木:就活は情報戦とも言われるけど、実際のところはどうなんだろう。まず4年生の二人に聞こうかな。就職に関する情報は、いつごろから意識し始めた?

横田:1年の頃から気にはなっていて、「やらなきゃ」と思いつつ、あまり行動には移せなくて。本格的に情報収集したのは、結局3年になってからでした。SNSを見ることが多かったです。Twitterは就活テクニック、Instagramは企業アカウントのチェック、YouTubeは同じ23年卒の学生のチャンネルをよく見ていて、知りたい情報によって使い分けていました。

鈴木:よく見ていたYouTubeチャンネルって、どんな内容なの?

横田:模擬面接を中心にした動画で、登場した学生の振る舞いをチェックして、アドバイスを見るというより活動のペースメーカーにしていましたね。

鈴木:揃えるかどうかは置いておいて、同じ立場や状況の人が今何をしているのか、足並みが知りたかったということかな。一方、企業の発信はどう? SNSを見て志望度アップにつながったことはあった?

横田即エントリーとはならないけれど、企業サイトを訪ねるきっかけになってました。でも実際は就活サイト経由でアクションすることがほとんどだったので、SNSは全般的には「こんな会社があるんだ」くらいのライトな見方をしていましたね。

恩田:私も初めのうちは企業のSNSアカウントはよくチェックしてましたけど、結局どの会社も「めっちゃええやん!」って思ってしまうので、自分のなかで差別化にはつながっていないかも…(笑)

ボヴェ:企業のホームページや採用サイトでは、どこに注目しますか。

坂本:私はマーケティングの仕事がしたくて、都市部での勤務が希望だから、採用方針が気になりますね。ジョブ型採用なのか、転勤はあるのかとか。

横田:自分は理念やバリュー、あとプロジェクト事例や社員インタビューもよく読んでいました。会社や仕事のイメージを膨らませるだけでなく、志望動機を書くためのテクニカルな意味でもチェックしていました。

坂本:理念って基本はいいことしか書いていないし、中身も抽象的ですよね。だから中期経営計画やIR情報にも目を通します。特に成熟した業界だと、どこに成長を見出そうとしているのか。モチベーション高く働くうえでも、方向性を知りたいですね。

田中:まだ就活に本腰を入れていないからかもしれないけれど、就活サイトや企業のホームページを見ても、正直自分が会社で働く姿があまり想像できずにいます。この会社に入社したら、どういう仕事に就いて、どういう1日を過ごすのか。何にやりがいを感じていて、どこにその会社で働くことの意義を感じているのか。福利厚生面も含めて、直感的にイメージできるものがあればいいのにと思います。

恩田SNSやWebサイト、動画だけでは限界がありますよね。やっぱり説明会に参加して、その会社で働く人の雰囲気を見てからエントリーするか決めていました。面接段階でも複数の方が対応する場では、社員さん同士のやり取りも見られたりしますし。そこでの言葉使いとかから「ちょっと合わないかも…」と思ったら、辞退していました。

あと説明会などで社長や役員の方が登場し、会社の全体的な考えや今後の方針を直接聞けた会社は、自分の考えや価値観とすり合わせができて良い印象を持ちました。

「オウンドメディアリクルーティング」の考え方において、「オウンドメディア」は、広報誌やパンフレット、インターネットの自社Webサイト・ブログに限らず、会社説明会やイベントなどリアルでの場も含めたものとして捉えています。求職者のニーズと、企業として発信したい内容に合わせて、リアルとデジタルを適切に使い分けることが重要です。使い分けの企業事例については以下をご覧ください。

転職サービス機能など、求職者とつながる3つの接点を採用サイトに導入。応募数を前期比3倍に増やしたラクス

左から来住さん、田中さん、坂本さん

坂本会社側が積極的に見せようとしない部分でどうなっているかは、すごく気になる。インターン先では企業や役所とのやり取りも多く、私も担当者の言葉使いやメールの文面は見ています。

ボヴェ:働く人の素のコミュニケーションから、社風を感じ取るのかな。

横田:そうですね。企業が企画する座談会には、若手社員がメインで話しながら、中堅や管理職の方が入るケースもあって、そこで若い人の意見や力を活かそうとするところと、上下関係がはっきりして堅いと感じるところで印象が分かれた気がします。

小谷:先輩方の経験談に「最終的に人で決めました」ってあるけど、それなりの人数に会わないと危ういよなと感じます。OBに限らず、多くの社員の方に接して、その会社で働くイメージの解像度を上げていきたいですね。

鈴木:さっき横田君から同世代のYouTuberの話があったけど、就活を進めるうえでは、自分たちと同じ立場の学生から得られる情報も重視しているということだよね。

ボヴェ:確かに。例えば選考過程で一緒になった学生によって、企業への志望度が左右されたことはありましたか?

恩田:グループディスカッションのときに建設的な議論にならなくて、「この人とたちと同期になるのか…」と、エントリーを躊躇したところもありましたね。

横田:コンサルティング会社の選考では全体的に論理的な展開で、なかには他の参加者をとにかく論破しようとする人もいましたね。でも日系大手だと、一緒に協力し合って結論を出していこうとなることが多かったかな。学生の志向性が、業界や企業カラーに反映される感じはしましたね。それで自分はどちらが向いているかと検討していました。

鈴木:なるほど。カルチャーフィットの部分で、最初の判断材料になることがあるんだね。ちなみに世間的に、今どきの人たちは社会課題の解決に関心が高いと言われていたりするけど、そういったことに取り組んでいれば、企業の志望度が高まることはあるんだろうか。

小谷:企業が取り組んでいるかは特に気にしてないですかね。それよりも、そこでの仕事や業務を通じて、自分自身がどれだけ関与できるかの方が大事。

鈴木:漠然とした「社会貢献」じゃなくて、ちゃんと「人が手渡しているか」みたいな。やっぱりこっちも、人の存在とか、手触り感を想像できるかが重要なんだね。

小谷:そうですね。

高すぎる熱量は壁を生む?情報共有は、企業と求職者のテンションの一致がカギ

左から鈴木謙介氏、ボヴェ啓吾氏

鈴木:今の話から、今度は企業が人材を採用するための発信として、どんなことを意識すべきかを話していきたいと思うんだけど、そこへの補助線として、まず自分が発信する時のことから考えてみようか。

自己アピールの意味で自分から発信しようと思ったことはある? 今は就活の段階からスカウトサービス(*2)に登録するケースもあるようだし、それも広義の発信と言えると思うけど。

*2  人材紹介サービスや求人サイトに履歴書などのプロフィールを登録しておくことで、募集を行っている企業または人材紹介会社などからオファーを受けられるサービス。「逆求人」とも言われる

恩田:スカウティングは周りでも使っている人が多い印象です。私も使ってましたし、今の3年生も使ってますね。

鈴木:どういう情報を登録するんだろう。新型コロナの影響で大人数で集まれない、海外に行けない状態が少し前まで続いていたから、「ガクチカ(*3)が書けない」という学生もいるようだけど。

*3 「学生時代に力を入れたこと」の略。エントリーシートにおいて定番とされる質問の一つ

恩田:私はゼミのことを書いていましたね。

鈴木:確かにゼミではマーケティングリサーチや、大学のオープンキャンパスの広報戦略をやっていたから、実務に近い経験としてアピールしやすいよね。

情報を受け取る側としては何を決め手に情報に触れていて、発信する側に回る際にはどんなことを意識するといいんだろう?

来住:それこそオープンキャンパスでのことなんですけど、情報を届けたい相手のことをどれだけ想像できるかが大事なのかなと。夏の暑い時期の開催ということで、僕らは「うちわ」に学部の宣伝をプリントして配ることをやって好評だった。

鈴木:来場者の置かれる状況を想定して、何があれば自然と受け取ってもらえるだろう、その場にあっておかしくないだろうって考え抜くことが重要なわけだね。

来住:その意味では、相手と同じテンションで向き合うのがポイントになるのかなと。こっちの気持ちがあまり向いてないタイミングで、熱っぽく来られてしまうと引いてしまうこともあるなと思います。

僕らの会社でインスタ広告を載せるときも、最初はガチガチに作り込んだデザインでいこうと話していたんだけど、見る側の熱量を考えたら、もっとざっくりしていて、人の手や温かみが感じられるほうがいいんじゃないかという結論になりました。

ボヴェ:企業側が高い熱量でアプローチしても、求職者の温度とそろっていないとネガティブに捉えられてしまう可能性もあるってことですね。

鈴木:企業側の発想だと、最初からマックスで発信しようとしがちですよね。学生自身も高い熱量をもった状態なら「すごーい!」となるけど、現実には徐々に高まっていくもの。受け手の温度感ごとに複数の発信内容を準備しておくか、刺さりそうな求職者の熱量を見極めるか、いろいろあると思いますが、温度感のコントロールは採用広報でも考えていく必要がありそうですね。

後編では、前編で出た具体的な意見をもとに、企業が人材を採用する際に取るべきスタンスについて、鈴木先生とボヴェ氏が語ります。

この連載の記事一覧

  1. 実は仕事にフルコミット?「納得感」から見るZ世代の働き方
  2. リアルかつオープンな企業発信で、求職者との価値観の合流を模索していく