
働くことに対する考え方や就活のなかでの価値観の変化など、採用に関する若者の真のニーズを知るべく、現役大学生6名による座談会を実施した。
前編では「実は仕事に没頭したい」など働くことに対するモチベーションや、「ネガティブな面も含めてリアルを知りたい」「発信側と受信側での熱量が近しいことが望ましい」といった情報へのスタンスなど、様々な「本音」が飛び交った。
彼らの意見から浮かび上がるZ世代特有の仕事観とは。そのような若者の本音に対する採用広報の現状と課題とは。後編では関西学院大学 社会学部 准教授の鈴木謙介先生と、株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプラニングディレクターで若者研究に詳しいボヴェ啓吾が、前編で出た具体的な意見をもとに、企業が人材を採用する際に取るべきスタンスについて迫った。
関西学院大学 社会学部 鈴木ゼミのメンバー
「自分のなかに仕事をインストールする」というZ世代の感覚

鈴木:前半では学生のみなさんの話を中心に聞いてきましたが、ここからはボヴェさんと、振り返りとまとめをしていければと思います。とはいえ思うところがあれば、みなさん自由に発言してもらって大丈夫です。
いろんな話題が出ましたよね。まず働き方に対するスタンスですが、大きくは「自身が働く環境」をちゃんと把握したいのかなと感じました。特に、どんな人と働くのかという点が強い印象です。
大学広報に携わっていて、高校生からのアンケートを見る機会もあるのですが、「誰と学ぶかが大事だ」という回答をよく目にします。単に偏差値の高さやブランドだけで、進学先を決めているわけではない。同じことが就活でも言える気がするんですよね。
ボヴェ:日々過ごす社会で“人”の存在を明確に感じていて、そのなかで仕事をやっている意識が強いのでしょうね。このことは、私も若者と接するうえでもよく実感します。
鈴木:昔は就職=就社という考えが一般的で、“誰と”というより“どこに”を考える傾向にあったと思います。企業や組織という器に仕事が存在して、そこに自分を入れていく、適応させていくイメージ。
でも今は、自分自身という器がまずあって、仕事をどう収めるか。言うなれば、自分自身をコンピュータのOSだとして、そこに仕事というアプリをインストールする、そしてどうコントロールしていくかという考えなのでしょうね。
学生のみなさんはどちらに近いと思う?
(少し迷いつつ、全員が後者に手を挙げる)

鈴木:どちらかと言えば、自分のなかに仕事を取り込む感じなんだね。すると仕事以外のこととの関わりや、自分全体における仕事の位置づけも考えることも、当然の流れになってくる。「仕事」って言葉は、時にネガティブな意味合いで語られることもあるけど、そういう状況に対する抵抗感もある。なぜなら仕事は自分自身の一部だから。
ボヴェ:「仕事=つまらないもの・辛いもの」という論調はありますよね。だから「嫌だ」と言いながらも働くのは、大人なら当たり前だという。
来住:自分は海外にいた時期が長くて、中国やスペイン、イギリスの飲み屋なんかで、いわゆるおじさんと言われるような年齢の人と話す機会も多かったですが、仕事を苦にしている感じはしなかった。それにパっと会社を切り上げて、夕方の4時くらいからお酒を飲み始めるっていう。仕事のために何かを犠牲にしたり、つまらなくても我慢したりといった働き方はしたくないなあ。
ボヴェ:若い人たちは、けっして仕事そのものが嫌というわけでもないんですよね。前半で「人生における仕事の割合」を聞きましたが、それを受けて感じたのは、可能性や選択肢を残しながら、そのリソースを使って考え続けたいということなんだろうなと。
別の調査ですが、「仕事かプライベートか」という質問に対して、データ上では若い世代ほどプライベートを大事にしたいという割合が高くなっていました。世間で言われているイメージと一致するように感じますが、個別に話を聞いてみると、「ちゃんと働きたい」「仕事を通じて自分の人生を充実させたい」という意見が多かった。
これに、これまで出てきた「仕事は自分の一部である」という感覚と、まだ明確に「自分のやりたいこと」が固まりきっていないこと、そして人生において比較的長い時間「今後社会はどうなるかわからない」という風潮のなかで生きてきたこと、それらの3点を前提として考える。
すると、あらゆる状況に対応できるようにしておくため、一つの組織での仕事に全リソースを投入するのではなく、何にでも使える時間として「プライベート」を確保しておきたいという解釈ができるのではないかと感じました。
なので、仕事そのものが自分のやりたいことと一致し、やりがいや楽しさ、成長を得られるなら、人生における仕事の比率が増えていってもかまわないということなのかなと。
ネガティブなのもの含めて、オープンかつフラットな情報で判断したい

鈴木:企業側のスタンスに移っていくと、学生の「自分のなかに仕事を取り込む」という点を考えた時、就活で知りたい情報や企業側に求める情報も従来とは変わってくると思うのですが、いかがですか?
ボヴェ:会社の規模や仕事内容、社会的意義や給与、福利厚生などの制度や施策だけではなく、この仕事をしている人は、こうやって働いています、こう過ごしています。こんなやりがいや成長を感じていて、こういうときに面白さや楽しさを感じます。そんな「人がいる」感覚をなるべく直感的に感じられると、学生も働くことをぐっと自分事に近づけて、力を向けられるのかもしれません。
鈴木:学生からは、企業理念は抽象的過ぎて働くイメージが沸かない、Webサイトを見てもいいことしか書いていないので、企業が意識的に見せようとしていないところで会社の雰囲気をチェックしている、といった話も上がりました。
ボヴェ:理念のような大きいスケールの話がないと、それはそれで何のために企業活動をしているのかわからなくなりますし、多くの社員や関係者をまとめていくには、ある種のきれいごとも必要になりますよね。世の中が求めている部分もあるはずで。
でもきれいごとばかりだと、「ホントに?」って、うさんくさ映ってしまう。ネガティブな要素をどう示すか、ここのバランスも問われている気がします。
小谷:たしかに転職口コミサイトで、退職された人の退職理由や、実際の仕事や働き方、会社の雰囲気あたりをチェックしていますね。
鈴木:転職口コミサイトは個人の発信だけど、会社がネガティブな情報、例えば「部署によっては異動機会が少ない」「転勤が多い」みたいなことを開示したら、「ココはやめておこう」と思うもの? それとも「誠実で信頼できる」と感じるの?

小谷:僕は後者ですかね。
来住:ネットで買い物をするときも、ネガティブな情報もチェックして総合的に判断することが多いと思うんです。企業研究も基本同じだと思っていて。さっき小谷君が話した転職口コミサイトは、レビューをチェックする感覚に近い。「本当に選んでいいのかな」という確認。
鈴木:なるほど。普段の生活における情報への接し方が、就活にも影響を与えているんですね。
ボヴェ:彼らは膨大な情報にふれて判断することを、かつての若者に比べて活発に、かつ自然と行っていて、その延長上に就活もあるのでしょうね。だからこそ企業側は、市場の本質的な変化をつかむことが重要になってくる。
その答えの一つが、ネガティブも含めたリアリティーなんでしょうね。採用サイトにインタビューを載せたり説明会で従業員に自由に話してもらったりして、本人の仕事観やストーリーを見せるようになってきていますよね。
現時点では離れていても、企業と求職者の「価値観の交わる可能性」が感じられる発信を

鈴木:発信とは逆に、企業が学生の言葉を受け止める姿勢はどうでしょう。前半では、ガクチカ(*1)がエントリーシートの指定文字数に収まらないという意見が出ました。
私もゼミ生の選考で、近い場面に遭遇します。学生は志望動機や活動実績の背景をアピールしたいのに、字数の関係で結果しか述べられないと。そこを大人側は汲んであげたいけど、成果で評価しないと公平性に欠けるという懸念もあります。
*1 「学生時代に力を入れたこと」の略。エントリーシートにおいて定番とされる質問の一つ
ボヴェ:企業側の抱えるジレンマですよね。公平性の担保と時間の制約を考えると実績で見るほかないですが、自社との親和性を考えると、その背景から見える学生の志向性や行動特性の方こそ知りたい。
スカウトサービス(*2)にニーズがあるのは、求職者側は内定を得るチャンスを増やしたい、企業側は優秀な学生を確保したい、という単純な数の話でなく、お互いがよりマッチ度を高めたいという需要の表れなのかもしれません。学生が登録している内容は特定の会社に向けて書いたものではないので、それに企業側が魅力を感じて面接招待などのオファーを出すことは、お互いに相性の良さを感じられますよね。
ただ学生のパーソナリティを理解するには、何もガクチカに縛られる必要はなくて。幼少期も含めて、印象的な体験と培われた価値観を表現できるものがあってもいいと思います。
*2 人材紹介サービスや求人サイトに履歴書などのプロフィールを登録しておくことで、人材募集を行っている企業または人材紹介会社などからオファーを受けられるサービス。「逆求人」とも言われる
鈴木:今日は、採用を行う企業が「若者の気持ちを知る」という括りで学生に本音を語ってもらいましたが、単に彼らに寄せた採用活動をすればいいものではないと思うんですね。
社会全体の動きが活発で、価値観や生活のあり方が多様化するなかで、企業にも「変わらないもの」と「変わるもの」があるはずで。「若者に合わせないと逃げられる」と迎合するのも違うし、「今の若者は甘えている。会社に合わせろ」というのもきっと違う。
ボヴェ:20歳そこそこで「自分がどう仕事をするか」決めるのは、大変なことだと思うんです。それぞれの若者が、社会人になっても変えたくないものと、変わりたい、成長させたいと思うものを抱えている。
企業側としては、「あなたの変わらない価値観と、私たちのこの部分がこういう形で合致する」という伝え方もあれば、「あなたがうちに来たら、こんな人になれる、こんな風に変われる」というメッセージの打ち出し方も考えられますよね。
鈴木:若者はしがらみがない分、価値観や生き方を変えようと思ったら大人よりもスムーズに変えられるし、大人社会に古くから根付く慣習が奇妙に映る部分がある。「まだそんなことやってるの」って。
でも、社会の根幹や人の権利を揺るがしかねないところでは慎重になってしかるべきだし、大きな組織になるほど調整コストがかかったり、影響範囲が広くなったりして、そう簡単に変えられないところもある。
それでも、若い人たちが目指すところと、企業が向かっている方向が合致していれば、いつか両者が合流し合うタイミングが訪れる気がするのですよね。変化の速度をお互いに合わせることができればベストで、企業は進む方向性や合流できる可能性を、若者に向けてしっかり提示することが求められているのだと思います。企業において、人への投資が注目されている今こそ、そうした視点が重要になって来ると感じました。
ボヴェ:企業がなぜ若い人を採用するのかと言えば、新領域に踏み込んだり、今までやっていなかったことに挑戦したりするうえで、これまでの自分たちにない視点や感性を取り込むため、10年、20年先に新しいものを生み出すためといった側面があるはずです。
一方で、企業には長い歴史のなかで連綿と受け継がれてきた芯のようなもの、今で言うパーパスが存在していて、100年経っても変わらないものだと言えます。この部分は、カルチャーフィットにも直結するはずです。
企業は「守ろうとするもの」と「目指すもの、変えようとしているところ」の2つの観点を若者の軸にそろえる形で表現し、そのうえで「だからあなたが欲しいんだ」というメッセージを添えられたら、よりクリアな情報発信につながるのではと思いますね。
鈴木:なるほど。今日は学生たちの忖度のない意見に加え、ボヴェさんの示唆に富んだ問いかけや考察で、気付きの多い場になりました。ありがとうございました!
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