2019年の入管法の改正により、多くの職場で外国人労働者が日本で働けるようになりました。厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況(令和2年10月末現在)」によると、国内の外国人労働者数は170万人を越え、過去最高となっています。
 
コロナ禍で新たに来日する外国人の数は減っていますが、少子化により人口減の進む日本では今後さらに多くの外国人とともに働く場面が増えていくことが予想されています。異なる文化や習慣、考え方を持つ様々な国から来た人たちが働く職場では、どんなコミュニケーションが必要なのでしょうか。
 
臨床心理士・社会保険労務士・公認心理師で、『職場に外国人がやってきたら読む本 カルチュラル・インテリジェンスのすすめ』の著者・涌井美和子さんにお話を伺いました。


外国人労働者はすでになくてはならない存在


――外国から日本に働きに来ている人は、どんな目的や目標を持っていることが多いのでしょうか。
 
私がお会いした人の多くは、母国では得られない仕事や収入を得ようと来日されるケースが多いかと思います。あるいは、ITなど日本で先進の技術を身につけたいと考えている人もいらっしゃいます。様々な国の中からあえて日本を選んだ人の中には、アニメなど日本の文化に興味を持っていたからという理由を挙げられることもありますね。
 
――対して、日本の企業はどんな理由で外国人を従業員として受け入れているのでしょうか。
 
やはり一番は人材不足ではないでしょうか。特に若い従業員の採用が難しいと感じている企業が多いことが背景にあると考えられます。
 
しかし近年では「足りない人手を補う」のみならず、外国人労働者が企業に欠かせない戦力となる例も増えています。観光などのサービス業では、海外からの観光客に対応できる2~3カ国を話せる外国人が活躍しています。
 
工業や農業の現場では、ベトナムやフィリピンなどアジア出身の若者たちは粘り強く頑張ってくれる人が多いと評判です。まじめでひたむきに仕事に取り組む姿勢が日本人の社員にも刺激になると考えている企業もあります。中には、特殊な技術の後継者として期待され、「のれん分けをしてもいい」とまで言われている人もいます。

「暗黙の了解」は通じない


――外国人労働者はなくてはならない存在となりつつあるのですね。言葉も習慣も違う人たちを受け入れる側である日本の企業について、涌井さんが気になる点はありますか。
 
日本の企業では、外国人を含めたチームのマネジメント経験がない人がまだ多いです。特に、年齢の高い管理職の中には「言われたことには黙って従うように」とか「背中を見て学べ」といった、旧来の仕事の進め方を今も押し通そうとしがちな人が少なくないように思います。
 
――「言わなくても察するように」というコミュニケーションでは通じない、と。
 
「行間を読む」「暗黙の了解」といったコミュニケーションは、こうした習慣が無い国の人には分かりづらいものです。韓国や中国にも「空気を読む」コミュニケーションはありますが、日本は特に強いですね。そもそも「空気が読める」のは、相手も自分も同じ文化を理解し、共有しているという前提があるからです。
 
――ほかにも日本の職場環境で外国人が理解に苦しむ状況はありますか?
 
日本は時間に厳しいことが他国でも知られていますし、始業時間に遅刻したら上司に注意されますよね。その反面、終業時間にはルーズな面があり、少し時間が過ぎてから退勤させたり、気軽に残業を頼んだりすることもあるのではないでしょうか。すると外国から来た従業員は「時間を守るのか、守らないのか、どちらなのか?」と混乱するわけです。
 
また、従業員が自主的に始業より早く来て、掃除など仕事の準備をしている職場もあります。時間外の労働を強要することはどんな従業員に対しても許されないことですし、早めに来て掃除をしない外国人労働者を「感じが悪い」と他の社員がとがめてしまうことも、トラブルになります。

ルールは明文化して分かりやすく


――日本では「常識だ」「これくらい分かるだろう」と思われがちなことが、グローバルな「常識」ではないのですね。
 
諸外国と日本では言語だけではなく、「常識」の感覚が違います。他国から来た人とうまくコミュニケーションするには、まずその人を理解する必要があります。他国の文化や習慣、文脈やタブーを理解し、状況や相手に合わせて適切な行動をとる能力を「カルチュラル・インテリジェンス」といいます。
 
今後、外国人の部下や同僚と一緒に働く人はますます増えていくでしょうし、顧客や取引先に外国人がいることもすでに珍しくなくなっています。私たちの思っている「当たり前」とは違う文化や慣習を理解し、それに合わせて言動を調整するカルチュラル・インテリジェンスは、今や誰にでも求められているんです。
 
――カルチュラル・インテリジェンスを高めて、外国人労働者と円滑なコミュニケーションをとるためには、職場でどんなことに取り組むべきでしょうか。
 
マネジメント層にカルチュラル・インテリジェンスの視点を取り入れる研修をおすすめします。従来のビジネスコミュニケーションの研修に加え、外国の文化をいかに理解していくかを学ぶプログラムを実施してみてください。日本に来て働く人たちが生活の中で何に困っているかを聞き、サポートすることがこれからの管理職には求められていくはずです。
 
一方で、安全や衛生に関するルールなど、文化の違いにかかわらず厳守するべきこともあります。それらについては、短い文章で簡潔に説明するマニュアルの作成をおすすめします。マニュアルには図やイラスト、写真を多く取り入れるとなお理解しやすくなるでしょう。従来のマニュアルを改善すると、社内から「日本人の従業員にとっても分かりやすくなり、助かった」といった反応もあると聞きます。
 
――コミュニケーションの工夫は、外国人労働者だけではなく会社全体に良い影響を及ぼすのですね。
 
日本人同士でも、世代や出身地の違いで常識が違うことはありますよね。相手を傷つけない言い方に気をつけつつ、分かりやすく、明確に伝えたい情報を表現することは誰にとってもコミュニケーションの行き違いを防ぐことになります。
 
大切なのは、文化や習慣が違うからといって心を閉ざさないこと。最初から上手くいくことばかりではないでしょうが、従来の自社のやり方を押しつけず、少しずつでもその違いを理解しようと努力し続けていきましょう。

 
 

<取材先>
合同会社オフィスプリズム 臨床心理士・社会保険労務士・公認心理師
涌井美和子さん
 
大手企業の人事総務職や公的機関の相談員などを経て合同会社オフィスプリズムを設立。日本で初めて臨床心理士と社会保険労務士の両方の視点からメンタル対策を提唱・実践。企業の人事コンサルタント、カウンセラー、セミナー講師などを務める
 
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト