
少子高齢化や働き方に対する価値観の多様化により、企業にとって採用の難易度が上がり、「欲しい人材が他社にとられてしまう」「どうしても内定辞退者が出てしまう」などの課題があらためて指摘されている。
こうした背景を踏まえ、株式会社Legaseed の代表取締役 兼 採用コンサルタントの近藤悦康氏は、『99%の会社が知らない「超・デジタル採用術」オンラインでも求職者の心は「見える化」できる!』(徳間書店)を上梓。採用の全プロセスをデジタル化(採用DX)し、採用の一連のプロセスを求職者のカスタマージャーニーとして捉えること(採用CX)で、求職者の態度変容をより正確に把握し、自社を選んでもらうために的確なアプローチを選択できるため、内定辞退者数の削減が可能となると述べている。
どうすれば採用プロセスのデジタル化ができるのか、デメリットはないのか、近藤氏に伺った。前編は、そもそも「採用デジタル化」とは何を意味するのか、採用のデジタル化はどんな効果をもたらすかについて掘り下げる。
採用活動をデジタル化することで、企業の採用力が向上する
――レガシードは2020年に「採用の全プロセスのデジタル化」に取り組んだとお聞きしています。
近藤:弊社では以前より採用DX(*1)に取り組み、様々な求人媒体から来た応募をデジタル化して一元管理するなど、一定の業務効率化を行なってきました。それに加えて2020年には、会社説明会からインターンシップやグループワーク、さらに内定通知のセレモニーまで、すべてのプロセスでオンライン化を行いました。現在は対面・オンラインを選考フローに応じてそれぞれの良さを活かしながら使い分けていますが、オンラインのメリットを最大限活用することで、企業の採用力は高められることが分かっています。
*1 採用デジタル・トランスフォーメーション。従来の採用に関する業務にテクノロジーを活用し、採用力の向上を目指すこと
コロナ以前は「対面でないと企業の魅力を伝えられないのでは?」と感じていましたが、オンラインでも工夫次第で対面と遜色のない成果をつくることができると分かりました。
例えば、これまで1人ずつ会社に呼んで行っていた内定通知も、コロナ禍においてはサプライズ形式のオンラインセレモニーに変更しました。あらかじめ候補者の自宅に内定通知書や社員からのメッセージ・花束が入った段ボールを送り、オンラインで中継をつなげながら中身を開封をしてもらうようにしました。オンライン開催により全社員が参加しやすくなっただけでなく、候補者にとって「仲間として受け入れてもらった感」を醸成できる機会となりました。
――単に対面で内定通知を渡すよりも、求職者の入社へのモチベーションも揺るぎないものになりそうです。
近藤:そうですね。後でお話しますが、このセレモニーも今注目されている採用CX(*2)の一環なのです。
*2 採用CX(カスタマー・エクスペリエンス)。候補者体験。求職者が企業を認知してから入社するまでの一連の体験のこと
採用デジタル化は、応募者を「判断」し、「魅了」するためのプロセス強化

――採用のデジタル化とは、どんなことを行うのでしょうか。そして、それを実践することで、企業にどのような変革をもたらすと思われますか。
近藤:採用活動のプロセスで、一番大事なことは「判断」と「魅了」だと考えています。
まず採用活動をデジタル化しておくことで、求める人材を選考するうえでの「判断」を合理化できます。例えばエントリーシートの管理、面接日時の調整、AIなどで履歴書や職務経歴書を読みこむことで、業務を効率化し、肝心の「人間による判断」に重点を置くことができます。
また、従来の採用活動は、採用担当者の経験と勘によるところが大きく、採用基準もあいまいでした。そのため、採用のミスマッチも多く発生していました。しかし、最近はAIによる面接を行う企業も出てきましたし、求職者の言動を数値化し、企業が求める人材かどうかを客観的に判断する方法も広まっていくと思います。
――ただ、「本当にAIに任せて大丈夫なのか」、特に面接のプロセスにおいては、社長や役員が直接やらなければダメだという声も聞こえてきそうです。
近藤:そうですね。けれど面接は、「ハロー効果」などと言われるように、自分と似たような経歴の人への評価が高くなったり、有名大学卒業や野球部のキャプテン経験があるというだけですごいと思ってしまったりと、採用側も色メガネで判断しやすいんです。これは書類選考にも言えると思います。
その意味でも、求職者の言動を数値化し、客観的な基準を設けておけば、より的確な判断ができるのです。
――具体的に、どのプロセスでどんなことを実践されていますか。
近藤:当社では会社説明会の後に、面接の代わりに求職者に20の質問に回答してもらっています。一つの問いを2~3分、合計で約1時間で回答するものです。その一部を紹介すると、以下のようなものがあります。
- 自分の人生において最高年収はいくらで、それは何歳のときだと思うか
- あなたの最大の恐れは何か
- 親から言われた言葉で一番印象に残っている言葉は
- 社長と会食できるとしたら、どういうお店をセッティングするか
- 死んだら墓石に何と刻むか
- 各社のサイトを見て1社選んで、サイトのなかで改善したほうがいいことを5つ述べよ
各質問に対する回答の評価ポイントが細かく設定してあり、この段階で通過者を20%くらいに絞り込むようにしています。「採用試験でよくある質問」に対する模範解答の情報は世にあふれているので、質問を工夫し、個人の価値観が表出するようにしています。。また、質問に対する評価に明確な基準が設けられているので、社長や役員が関わらなくても、例えば入社3年目の社員でも合否を判断できる点もメリットです。
ただ、大手上場企業は会社のブランドがあるので、自社にとって最適な応募者は誰かを「判断」さえできればいいのですが、まだ知名度の低い中小ベンチャー企業などは、最終的に自社を選んでもらうためにも、求職者を「魅了」することが大切になってきます。簡単に言えば、「ウチの会社を好きになってもらう」ということです。
そのためレガシードでは、採用の全プロセスに採用CXの考え方を導入し、求職者に価値ある体験をしてもらうことを追求してきました。その結果、内定を出した求職者には、ほぼ自社を選んでもらえるようになりました。大手企業の内定を辞退して、レガシードに来てくれるケースもあります。これは欲しい人材を確実に「魅了」するプロセスを作っているからだと思います。
オンライン採用だからこそ、「どんな社員がいるのか」を伝えることが大事
――オンラインで採用活動することのメリットやデメリットについては、どうお考えでしょうか。
近藤:オンラインではWeb会議ツールを利用することになると思いますが、同じ画面上に採用担当者と求職者がいるため、お互いの心理的な距離が縮まり、むしろコミュニケーションしやすいという声もあります。不安があれば、臨機応変に二次選考や最終選考など、採用活動の後半では対面形式にしてもいいと思います。
とはいえ会社説明会などのプロセスでは、今まで対面でやっていたものをそのままオンライン化するだけでは、「魅了」するのが難しいですね。
そこで弊社のオンライン会社説明会では、オフィスの雰囲気や働く人を紹介することを重視しています。ここで一番大切にしているのは、「ウチの会社では、どんな人が、どんな想いで働いているのか」を伝えること。オンラインだとどうしても伝わりづらい、「どんな社員がいるのか」「どんな雰囲気の人なのか」を、求職者目線でしっかりと見せていくことが大事なのです。大きな企業理念を掲げて、「一緒にメジャーリーグを目指そうぜ!」といくら言ったところで、そもそも一緒に目指す人たちの人物像が見えなければ、目標を達成できるイメージも沸きませんからね。
オンライン化により、欲しい人材を採用できる確率が上がる

――レガシードの会社説明会は100%オンラインでの動画配信に切り替えたそうですが、参加者数の増減はありましたか。
近藤:完全オンライン化したことにより、対面開催だった前年と比較して、年間参加者数が6,726人から8,923人と2,000人以上も増えました。首都圏のみならず、地方都市や海外からの参加者の割合も増え、今まで地理的な原因によって出会えなかった参加者と接点が持てたのもメリットですね。
グループワークやディスカッション、座談会では、Web会議ツールのZoomをフル活用しています。これまでの対面開催だと、どの求職者がどんな発言をしたか、企業側が会場を回って見なければなりませんでした。しかし、Zoomではそれぞれの参加者の表情が常時表示され一人ひとりの顔が見えるので、むしろモニタリングしやすくなります。
――業務効率の面ではいかがでしょうか。
近藤:会社説明会の際に印刷して配布していたエントリーシートやアンケート、選考のワークの際に記入するシートはGoogleフォームに切り替えて一元管理するようにし、印刷費などの経費、実務工数の大幅削減にもつながりました。また、会社説明会や合同説明会をオンラインの動画配信に切り替えたことにより、会場費用、会場に配置するスタッフの人件費や交通費、宿泊費なども削減できました。
面接も、オンラインならばどこにいても実施できますから、さきほどの座談会同様に時間調整もスムーズになりました。優秀な人材がいたら、早急に日程を押さえることが肝心です。時間調整がうまくいかずに面接と面接の日程が空いてしまうと、求職者の気持ちが揺れてしまうこともあります。その点からも、オンライン化により欲しい人材を採用できる確率が上がるのではないでしょうか。
各採用プロセスで、求職者の心は刻々と変化するものです。昨日まで第一志望だったけど、やっぱり他の企業がよくなったということもよくあります。こういった求職者の動向や心境を把握し、必要なタイミングで的確な行動を取っていくことが大切です。例えば、採用したい求職者が他社と迷っていたら電話をかけて相談に乗るといった、密なコミュニケーションをすることが必要です。オンラインならば社員がどこにいても業務の合間に面接に参加できるので、その点もスムーズです。
オンライン化により、書類整理や面接調整などの業務に膨大な時間を割くのではなく、求職者と密なコミュニケーションを取るなど、人事担当者が本来行うべき業務に集中できるようになることも大きなメリットと言えるのでしょう。
後編では、近藤氏が採用プロセスにおいて重視する採用CXの考え方において、企業がどのような情報発信をすれば求職者から選ばれるのかを考えていく。
この連載の記事一覧
- 採用活動のデジタル化で企業の採用力向上
- 社員と求職者のエンゲージメントを高めるための採用CX実践法