連載 「求職者から選ばれる会社」になるための採用DXとCX 02/02/株式会社Legaseed(レガシード)代表取締役CEO 近藤悦康氏

少子高齢化や働き方に対する価値観の多様化により、企業にとって採用の難易度が上がり、「欲しい人材とが他社にとられてしまう」「どうしても内定辞退者が出てしまう」などの課題があらためて指摘されている。

こうした背景を踏まえ、株式会社Legaseed の代表取締役 兼 採用コンサルタントの近藤悦康氏は、『99%の会社が知らない「超・デジタル採用術」オンラインでも求職者の心は「見える化」できる!』(徳間書店)を上梓。採用の全プロセスをデジタル化(採用DX)し、採用の一連のプロセスを求職者のカスタマージャーニーとして捉えること(採用CX)で、オフラインでの採用よりも求職者の態度変容を正確に把握し、自社を選んでもらうための的確なアプローチを選択することで、内定辞退者数の削減にも寄与すると述べている。

本当に欲しい人材を採用できる「選ばれる企業」になるには、従来の採用手法を見直し、より求職者のニーズに合ったプロセスを構築する必要がある。後編では、近藤氏が採用プロセスにおいて重視する採用CX(カスタマー・エクスペリエンス)の考え方において、企業がどのような情報発信をすれば求職者から選ばれるのかを考えていく。

株式会社Legaseed(レガシード)代表取締役CEO 近藤悦康氏

株式会社Legaseed(レガシード)代表取締役CEO
近藤悦康氏
新卒で人材教育コンサルティング会社に入社。数々の新規事業を立ち上げながらクチコミで集まる人材採用の仕組みを構築する。2013年、株式会社Legaseedを設立。「はたらくを、しあわせに」を企業理念に、600社の企業に新卒採用、人材育成、人事制度設計などの組織変革コンサルティングを実施。『日本一学生が集まる中小企業の秘密』(徳間書店)ほか著書多数。

従来の採用は異常事態!? 求職者が採用プロセスに満足していない

――そもそも採用CXとは、どのような方法論なのでしょうか。

近藤:私自身、たまたま知り合った社長に声をかけてもらって前の会社に就職したため、いわゆる一般的な就職活動というものを経験したことがありませんでした。

その会社で採用担当を任されたことから、就活を経験した友人にヒアリングしてみました。すると、「会社説明会も座談会も、まったく楽しいものじゃない」、「筆記テストや面接を受けて落ちても、落ちた理由がわからないし、不採用の連絡すらこないこともある」、「入社を決めた会社でどんな仕事をするのか、入ってみないと具体的なことがわからない」など、想定外の回答ばかりでした。

就活は「就職するためにやらなければならないもの」で、「やりたくてやるものではない」という状況でした。企業側も、相当な時間とお金を投資して出会いの場をせっかくつくっているのに、就職活動に来た求職者が満足していないし、喜んでいないのは異常事態だと感じました。

ただ、これはチャンスかもしれないと考えたんです。そこで、説明会も、面接も、自分が求職者の立場だったら、「この会社を受けてよかった」、「他の人にも伝えてあげたい」と思える採用プロセスをきちんとつくろうと決意しました。そして、「企業を知る(認知)〜興味〜応募〜選考〜内定〜入社」までを、“点”のコミュニケーションではなく、“ジャーニー”として素晴らしい求職者体験を感じてもらえるような、独自の採用CX体験プロセスを構築したのです。

求職者としっかり向き合ってコミュニケーションしたり、面接後のフォローを丁寧に行うようにしたりすることは、日本の採用市場においても今後は最も重要になる観点であり、多くの採用担当者が着手すべき手法だと思っています。

「採用プロセスを重視すること」で内定辞退を劇的に減らせる

インタビューを受ける 近藤悦康氏

――御社は採用CXを行うことで、内定辞退がほとんど起こらないと伺いました。内定辞退を減らすために、各CXのプロセスにどのような体験を盛り込んでいるのでしょう。

近藤:まず、求職者のファーストインプレッションは会社説明会で決まり、ここで多くの求職者が選考に進むかどうか決めると思います。ここでほとんどの会社は「会社の説明」をしてしまいますが、「会社説明会」ではなく「会社共感会」にすることが大切だと思います。

もちろん会社の事業内容やビジョン、社員の声などは見せ方を工夫しながら盛り込みますが、企業サイトに書いてあるような話を一方的にしても、共感にはつながりません。それであれば、参加者に資料を配布し、「なぜこの会社は社会に必要とされているのか」を発表してもらう方がよほど理解が進みます。採用活動とは自分の会社の存在意義を改めて定義する場なので、求職者に深く理解してもらい、共感できる工夫を施しています。

――ただ説明を聞くだけではなく、求職者に自分たちの頭を使って考え、発表してもらうことで共感を深めるのですね。

近藤:そうですね。また、レガシードでは、いわゆる面接ではなく、現職の社員によるキャリア面談を行っています。面接となると合否を判定されるため緊張も生まれますが、面談をお互いの情報交換の場とし、求職者に対しても「疑問点や不安があれば、なんでも聞いて下さい」と伝えています。

人生で大切にしたいこと、選社基準、現在受けている会社や選考状況、自社以外で志望度の高い企業3社などについて聞き取ります。「今、内定が出たとして、絶対入社するかどうか」の志望度を100点として、その点数を理由と併せて書いてもらいます。そのような過程のなかで、求職者の本音を引き出すことができます。

この結果をもとに、求職者の志望レベル、会社が採用したいレベルを数値化しています。そして、会社が採用したいけれど、志望度が上がっていない求職者のレベルを上げられるように動きます。例えば、求職者と入社後にやりたいことや入社時の志望動機が似ている社員をアサインして、ランチを一緒に食べる場を設定するといったことを行い、欲しい人材を確実に「魅了」していくのです。

応募者の9割が見ている企業の採用ページで、ビジョンを伝える

――求職者はどのような情報を見て、入社したい会社を決めているのでしょうか。

近藤:企業研究の際、以前の求職者は主に就職サイトや合同説明会から情報を得ていました。近年では、YouTubeの会社紹介動画や、InstagramやTwitter、TikTokなどのSNS経由で応募する方もいて、求職者が活用する媒体が多様化しています。

ただ、最近の傾向として、企業のホームページや採用ページを見る方が増え、8割以上の応募者が「企業のホームページや採用ページを見た」とIndeed Japanの調査で回答しています。そのため、採用ページの作り込みが非常に大切になってきます。レガシードでは、内定者と一緒に採用ページを作成することで、求職者視点に合った情報を提供するよう心がけています。

(※)Indeed Japan調査(2018年12月)

レガシードの採用ページのキャプチャ
レガシードの採用ページでは、「求職者目線」でメッセージを伝えることを重視している

――発信する内容やメッセージについてはいかがですか。

近藤:多くの中小ベンチャー企業では、「うちの会社は今、こういうところがすごい」と、自社のいいところをPRしようとします。同時に、うちは不人気業界だから、とか、無名だから、規模が小さいから、いい人材は来ないと思われている採用担当者も多いようです。そうした思い込みを外すことが重要です。

今は会社の規模が小さくても、問題があっても、それが将来どうなるか、どういう会社にしていきたいのか、会社としてビジョンを固められていることが重要です。ビジョンがはっきりと定まっていないなら、会社のことをあらためて分析して、これから何をやりたいのかを明確にすることが必要です。

そのうえで、この会社に入ることでどんなキャリアや人生が待っているのかをイメージしてもらえるように情報発信することが大切だと思います。

――採用のミスマッチを起こさないために、情報発信ではどんな点に気をつければいいでしょうか。

近藤:企業側で「求める人材」を定義することが重要です。実際、中小ベンチャー企業の7割くらいは求める人物像が曖昧です。自社のどんな点に惹かれてほしいのか明確にし、情報発信することが重要です。

求める人材を、「リーダーシップがあって事業を作れるような人、バリバリ働きたい人」と定義したとします。それに対して、「休日が多くて残業が少ないこと」をPRしても欲しい人材は来ないですし、求職者にも休日が多くて残業が少ないから選びましたとは言われたくないですよね。

また、報酬や勤務地、福利厚生などの条件は、市場や企業の状況によって変化するので、条件が変わった場合、離職の原因となることがあります。情報発信の際は、条件よりも、会社の価値観や将来どういう社会づくりに貢献したいのかなど、「会社の軸」をしっかり伝えることが重要です。

具体的には、以下の5つの部分に共鳴・共感して入社してもらえば、内定辞退を防げると同時に、入社後の定着率を高められると考えています。

  • 会社のミッション・ビジョンに込められた思いの根底
  • 経営者が大切にしている経営観と人生観
  • 今の事業を世の中に広げる必要性
  • 会社の商品における他社に負けない強み
  • 社員が大切にしている「仕事観」、会社が大切にしている「文化」

人材定着の最後の決め手は、オンラインでなくリアルでつくっていく

近藤悦康氏のインタビューカット

――入社後の定着率も重要ですね。

近藤採用の成功とは、人材が活躍して定着することです。そのためには、カルチャーフィットとスキルフィットの2つを満たし、採用のミスマッチが起こらないようにすることが重要です。

まずスキルに関してですが、求める職種で期待する役割を果たしてくれる能力を持っているか、グループワークや課題の提出などのアウトプットを見て判断します。例えば、経験者採用では、前職での実績や勤務状況に偽りはないか、本人の同意を得てからリファレンスチェックをを行います。具体的には、以前の職場で一緒に働いていた人に、前職でどのような活躍をしていたのか、どのような態度で仕事をしてきたのかを確認しています。

続いてカルチャーフィットに関しては、求職者の考えが、会社の価値観や方針と合うかどうかです。会社において、既存社員との相性を重視する方は多いと思います。価値観や考え方が合わない人が一緒にいると、周りの社員が違和感を覚え、信頼関係が築けなくなってしまうからです。本人も会社になじめず、思うような結果も出せないため、離職にもつながります。

カルチャーフィットを判断するためには、少なくとも4人以上の社員の目を活用して、面接や面談をしたり、ワークに取り組んでもらいます。高いスキルや立派な職務経歴があれば、採用したくなりますが、一人でも違和感を覚える社員がいたら、採用しないほうが賢明だと考えています。そのためにも、さきほど伝えたように自社の価値観や企業カルチャーをしっかり情報発信しておくことが大切です。

――最後に、欲しい人材を採用するために特に重視しているポイントを教えてください。

近藤採用CXの考え方を採り入れることで求職者の本音や志望度レベルを把握し、求職者を魅了することです。また、欲しい求職者の心境や動向をつかみ、アプローチするタイミングを逃さないことも重要です。

内定後、欲しい求職者が入社を迷っているようだったら1対1でヒアリングし、不安な点や疑問点をきめ細かく洗い出します。仕事面で不安があるなら、希望の職種で働く社員の姿を見せる、インターンシップで一緒に働く機会を作るなど、最後の決め手はオンラインでなくリアルで作っていくことも大事だと思っています。

これからの企業の採用手法では、採用活動の各タッチポイントできめ細かい対応が求められる時代になると思います。欲しい求職者に確実に選んでもらう企業になるために、採用CXの視点を採り入れてみてはいかがでしょうか。

この連載の記事一覧

  1.  採用活動のデジタル化で企業の採用力向上
  2.  社員と求職者のエンゲージメントを高めるための採用CX実践法