
2000年に「湘南美容外科」を開院し、創業21年目の2021年12月現在、国内外に111院のクリニックを展開するSBCメディカルグループ(以下、SBC)。美容医療だけでなく、歯科や眼科、整形外科など10以上の診療科目を展開し、2035年にはクリニック1200院の達成、医科大学の設立、2050年には10000院の達成、総合大学の設立を目標に躍進を続けるリーディングカンパニーだ。
採用サイトではマッチングと求職者の共感を高めるため、企業理念に基づいた「理念採用」を展開。豊富なコンテンツとアプローチで求職者に寄り添った「透明性」の高い情報発信が評価され、「Owned Media Recruiting AWARD 2021」(以下、アワード)に入賞した。
SBC 経営戦略本部 採用部 部長の時田志保氏、採用部 採用広報グループ グループ長の城田唯氏に、アワードの審査員であるIndeed Japan株式会社 代表取締役/ゼネラルマネジャーの大八木紘之が、同社が「理念採用」を推進する背景や考え、今後の展開などについて聞いた。

城田唯氏(右)。SBCメディカルグループ 採用部 採用広報グループ グループ長。2009年に出版取次会社へ新卒で入社し、営業やデータ分析業務を経験した後、2017年にSBCメディカルグループに人事アナリストとして入社。採用にまつわる数値分析や、オウンドメディア・求人媒体の運用に従事し、現在は採用広報担当としてオウンドメディアを中心に、社内外に向けた企業ブランディングや広報活動をメインに担当している。
人材の活躍と定着を「理念採用」で促進する
大八木:SBCさんは、企業理念の浸透を推進し、理念を取り入れた採用に真摯に取り組んでおられます。アワードの審査でも高く評価された「理念採用」についてお聞かせください。
時田:ありがとうございます。まず前提として、採用の成功とは入社後の「定着と活躍」だと考えています。そのために大切なことは、採用におけるミスマッチをなくすことです。
弊社は「究極の三方良し(お客様良し・スタッフ良し・社会良し)」を企業理念とし、全社員の物心両面の幸福を追求するとともに、お客様に最高・最良の美容・健康・医療サービスを提供し、世界一社会に貢献できるメディカルグループを目指しています。この目標を実現するためにも、社員一人ひとりが楽しく仕事をして、幸せを感じてもらいたい。これは、創業者で代表の相川佳之が常日頃言葉にしていることでもあります。
城田:その「三方良し」の理念を実現することで、お客様も社員も幸せを感じられるのではないかと。ゆえに、しっかりと企業理念をお伝えして共感いただく「理念採用」を大切にしています。
大八木:理念には、相川代表のお気持ちが表されているのですね。一方で、「三方良し」だけではわかりにくいといった声はないのでしょうか。
時田:はい、「三方良しに共感できない」という応募者はいらっしゃいませんが、自分ごとに捉えていただいたり入社後の業務に活かすには、言葉の定義が大きすぎると考えております。そこで、日々の業務などに活かせるよう「15箇条の行動指針」を定めています。
15箇条には、たとえば、「改善」「ゴールからの逆算」といった指針があります。お客様に施術をご提案するときに、「ゴールからの逆算はできているのか」「改善につながるのか」と考えてみる。そのように、社員が同じ判断軸を共有できることで、判断が難しいケースにおいても「三方良し」につながる適切な行動を取ることができます。
大八木:面接など採用の過程においても、15箇条に言及されることはあるのでしょうか。
城田:はい。指針は採用サイトにも明示していますし、会社説明会や面接でも理念とともにお伝えしています。企業理念や行動指針に紐づくコミュニケーションを取ることで、求職者の方とより有意義なお話ができると考えています。
大八木:なるほど。私たちIndeedにも「We help people get jobs.」というミッションがありまして、採用の過程も含めて様々な場で表現しています。ミッションを念頭に事業を進めているため、それが自分の考え方とあまりフィットしないとか、しっくりこないとかいう方だと、おそらく入社しても活躍することは難しいでしょう。その点をきちんと理解・実践されているSBCさんの「理念採用」にはとても共感できます。
それぞれの職種に丁寧にアプローチするための採用サイト
大八木:採用サイトは、スタッフ紹介コンテンツや「面接マニュアル」などの豊富な情報で求職者に寄り添い、求職者の「知りたい」という気持ちに応えていますね。さらに、職種ごとのランディングページやコンテンツもあります。こうしたアプローチに至った背景をお聞かせください。
城田:弊社は、医師や看護師などの国家資格が必要な職種から、受付カウンセラーやビューティーオペレーターなど資格を伴わない職種まで、幅広く採用を行っています。求職者が求める情報は職種ごとに異なるため、それぞれにコンテンツを用意した方が親切だと考えています。たとえば、看護師と医師ではキャリアのイメージもまったく違い、そこを一括りにすることはできませんよね。
時田:まず、資格が伴う職種に関しては、ほかの職種と並行して検討される方はほぼいらっしゃいません。一方、資格を伴わない職種であれば、複数の職種を検討される方もいらっしゃいます。たとえば、お客様へ対面でご提案する「受付カウンセラー」と、電話でご提案する「ビューティーオペレーター」であれば、「私はどちらに向いていますか」と悩まれる方などです。とはいえ、まったく異なる職種間で悩まれるわけではありません。

大八木:なるほど。職種ごとへアプローチをする方が、メッセージも伝わりやすいということですね。
次に、具体的なコンテンツについてお聞かせください。「リアルボイス」は、全国のクリニックでインタビューを実施され記事化されたと伺っています。インタビューされた職種は、医師や看護師、受付カウンセラーなど様々で、テキストだけでなく動画もあります。ご苦労やご努力があったと推察いたしますが、その点はいかがでしょうか。
城田:採用サイトには、全部で約100本のインタビュー記事が掲載されています。2021年12月に実施したリニューアルでも、20本ほど追加しました。今後も月に1~2本はリリースしていくつもりです。
時田:特に動画などは、社外の方にご協力いただくこともありますが、基本的には撮影から執筆まで、取材のほとんどを城田が担っています。
城田:一番苦労するのは、約5000人の社員からの取材対象者の人選です。現場責任者に「こういう人を探している」という希望を細かく伝えて、実際に会い、業務や理念に対する考え方を聞いたうえで決めています。
大八木:実際にインタビュー候補者と会ってみたら、「考えていた方とちょっと違った」ということはないのでしょうか。
城田:「SBCが好き」という社員が選ばれやすいこともあり、「採用に関わる記事に取り上げてもらえるのは嬉しい」といった反応で協力いただけることが多いです。一方で、記事で伝えたいと考えていたキーワードを引き出せなかったことも、当然あります。ただ、それが仮に理念の浸透不足による結果だとしても「事実は事実」です。100%はない、まだまだやるべきことがあるというイメージを持って、記事へきちんと反映しています。
「透明性」への信念は採用サイトにも反映
大八木:そのお考えが反映されているのでしょう。とても「透明性の高い」採用サイトだと敬服いたしました。また、この「透明性」に関しては、アワードでも注目・評価の対象になっています。
城田:採用活動は、候補者の母集団形成から入社までがゴールになりがちです。しかし、時田が申しましたとおり、「入社後の定着」を重視すると、一人でも多くの社員が活躍するために採用時のマッチングが大切になります。であるなら、「入社しない」という選択をいただくこともあってしかるべきではないでしょうか。良いところだけをお伝えしてマッチングに支障が出るのであれば、ありのまま伝えるほうがお互いにとって最良の結果になるはずです。
時田:美容医療には従来、「良いところだけ見せる」という風潮があったことは否定できません。ですが、施術の途中経過や美しくなるまでには苦労もあるということを、初めてお客様に広くお伝えしたのは弊社だと認識しています。すべて把握いただいたうえで、お客様に判断いただく。これと採用も同様で、判断材料を誠実にお伝えすることを大切にしています。
大八木:日本と米国のキャリア採用求職者のデータを比較すると、日本は「求人に応募する」という行動のハードルが高いように思います。その背景の一端として、応募という形でその企業にコミットすることは、ある意味で「あなたが好きです」と企業に告白するような感覚があり、そこへの慎重さがあると思います。
そうなると企業側としては、「まずは応募ありき」「求職者の判断を引っ張りたい」と捉え、情報の透明性やマッチングの向上については、面接など採用工程の途中からでもいいと考えることもあるわけです。しかし、御社はそれを入口となる採用サイトで実施されています。美容業界での慣習を打ち破る姿勢が、採用活動にもきちんと反映されていると感じました。
サイトリニューアルでSEO対策とブランディングをさらに強化
大八木:さきほども少しふれていただきましたが、2021年12月に採用サイトをリニューアルされたと伺っています。リニューアルのポイントなどをお聞かせください。
城田:情報量や「透明性」などはもちろん、SEO対策にもあらためて注力しました。テレビCMもあり、世間的に「湘南美容クリニック」の認知度は高いと言われますが、CMを放映していないエリアもあります。また、2050年の10000院開院という目標に向けて、全国的にも認知度を高めていかなければなりません。そのためにランディングページも充実させ、SEO対策を強めました。
時田:大きな視点では、SBCの可能性やビジョンも伝えていきたいと考えています。美容医療だけでなく総合メディカルグループとして日本一、世界一となっていく企業であるということを、しっかりとお伝えしていきたいですね。

大八木:採用サイトのリニューアルを受けて、社内の反応はいかがですか。
城田:新しい社員インタビュー記事もあるため、多くの反響をいただいています。おかげさまで誤字脱字のご連絡までいただいていますが、読み込んでいただいた結果のご意見ですからありがたいです。(笑)
大八木:SBCとしてのブランディングを促進したいとのことですが、具体策や展望についてお話いただけますか。
時田:今検討しているのは、職種ごとに異なる課題の解決です。たとえば、受付カウンセラーであれば、美容が好きな女性はたくさんいらっしゃるので、母集団は集まりやすくなっています。ただし、「なぜSBCで働きたいのか」といった意識の醸成は図る必要があるでしょう。
看護師であれば、資格者という一定の枠組みのなかで採用数を増やしていく必要があります。つまり、母集団を集めるところが課題となります。SBCを就職の選択肢に加えていただけるよう、ブランディングが重要になってくるでしょう。
城田:弊社は美容医療のイメージが強いと思いますが、実際には歯科や眼科などもあります。美容医療は躊躇するけれど、メディカル要素の強い科目であれば興味があるという方に対しては、採用サイトを通じて、美容医療とは強みもやりがいもまったく違う魅力を伝えていけると考えています。
12月のサイトリニューアルにおいても、サイトの色調を湘南美容クリニックのカラーであるピンクから、SBCのコーポレートカラーであるグレー・シルバーに刷新し、メディカルグループとしてのブランディングを意識しました。その意識は、今後も大切にしていくつもりです。
大八木:採用とブランディング、両方に貢献できるサイトということですね。
私たちIndeedが調査を行なった結果をみると、様々なタスクがある採用プロセスにおいて、採用を担う皆さんが一番大切にされているのが「面接」です。ただ、求職者を正しく評価・判断し、ミスマッチを防ぐために重視している反面、実際に面接に割ける時間は、採用活動に割く時間の16%くらいとなっており、面接以外のタスクに多くの時間が取られていることが伺えます。その時間を縮小する後押しとして、採用サイトを通じた求職者の企業理解、入社意思の醸成などは有効な手段になるはずです。
SBCさんが実施された12月のサイトリニューアルでは、そこがさらに強化されていると感じました。今後のお取り組みも期待しております、貴重なお話をありがとうございました。
※ 所属部門・役職などは2021年9月当時のもので、現在と異なる場合がございます。