
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受ける店舗が多いなか、2020年6月の営業再開以降、8月まで3カ月連続で前年実績を上回る回復を見せているブックオフコーポレーション。
同社が採用において最も重視する要素は「人間性」だと言うが、それは情報発信にも明確に現れており、社員・アルバイト採用いずれも社内外の「人」にフォーカスしたコンテンツが並ぶ。
今後ますます注目を集めることが予想されるリユース業界において、リーディングカンパニーであるブックオフコーポレーションが考える“良い人”の採用が必要な理由とは。同社グループ人財開発部長の野村 進一氏と、グループ人財開発部 採用担当マネージャー浅枝 聡氏に聞いた。

浅枝聡氏(右)。グループ人財開発部 採用担当マネージャー。2007年玉川大学芸術学部卒業。オシャレな店舗を作りたいという動機で、ブックオフコーポレーション株式会社に入社、カフェ併設店(現在カフェは閉店)の運営に携わる。大型店舗を含む6店舗で店長を経験し、現場改善チームやソフト主任としても経験を積む。2018年に採用担当へ就任。
“人間性”を重視する採用のため、独自のバランス感を持った発信を意識

――ブックオフと言えば誰もが知る企業であり、店舗には多くの方が足を運んだことがあると思います。2020年にはCMも話題になりました。後ほど伺うオウンドメディアの内容も含め、親しみの感じられるコミュニケーションを意識されているように感じますが、情報発信についてどうお考えでしょうか。
浅枝:ブックオフの企業としてのコミュニケーションについては、店舗と人を大事にするという創業当初からの文化がベースにあります。経営理念の一つに「全従業員の物心両面の幸福の追求」があり、ミッションとしては「多くの人に楽しく豊かな生活を提供する」を掲げています。この「多くの人」のなかにはお客様だけでなく従業員も含まれます。
社内外問わず、「人」を大事にするミッションや文化が浸透していて、発信の際に自然と表れているのだと思いますね。キャリア採用サイトの「お仕事図鑑」でも、紹介している社員の職種は様々ですが、すべて人に関わる話やコミュニケーションの話をしています。
――「人」を大事するという理念が社内で浸透しているということですが、そこへの共感は求める人材を考える際に意識されるのでしょうか。
野村:そうですね。キャリア採用の募集職種は、大きく分けると「本部職」と「店舗職」の2つです。本部職は、募集職種の経験があって、かつ小売に携わったことがある方を求めています。店舗職では、主に服やブランド品の中古を扱う同業他社を何年か経験されてから「ブックオフに入りたい」という方の応募が多くありがたいと感じつつ、最も重視しているのは人間性です。これは本部職も同じですね。なので2つに分かれてはいますが、発信の内容を特に区別しているわけではありません。

――「人が好き」という人間性をベースとしたうえで、本部職において特に力を入れている分野はありますか。
野村:今一番ホットなのはデジタル分野です。当社のECサイト「ブックオフオンライン」は売り上げがかなり伸長しています。その周辺の人材が必要ですし、販促に関しても従来はテレビCMや新聞広告がメインだったところ、動画配信も積極的に行うようになりました。加えて自社アプリもあるので、そのユーザーを100万単位で増やして、もっと積極的に利用してもらう方法を考えてもらえればと思っています。
――そうしたDX人材の応募を増やすには、採用手法そのものをDX化する必要があると言われるケースもありますが、施策は考えていますか。
野村:いろいろ注文してしまいましたが、実はそこまで先端のスキルやノウハウを持っている方でなくてもいいと思っています。ポイントはやはり「人間性」の部分で、面白いと思う感覚や価値観がお客様と近しいことが重要ですね。そのうえでデジタル分野において知見や経験がある、くらいのバランスかと思っています。
アルバイト採用強化から始まった、情報発信のリニューアル

――採用サイトではブログなどを積極的に活用し、充実した内容で社風や仕事内容を伝えていますが、いつから始めたのでしょうか。
野村:4年ほど前に、「パート・アルバイトの採用サイトを強化する」動きから始まりました。当社は社員が約1000人、アルバイトが約1万人。アルバイトは年間2000〜3000人採用する規模感です。そのうち10%でも自社サイトから採用できれば大きなコスト減になるので、パート・アルバイト採用サイトのリニューアルを行いました。
浅枝:以前からアルバイトは指名検索が多く、自社サイト経由の応募が約5割と他社と比べて高くなっていました。そこで採用を担当する各店舗の店長に「応募要項をわかりやすく書いてください」と案内を出し、細かいところまで手を入れるようになりました。学生の方、主婦・主夫の方へのメッセージなども店長自身が書いています。
野村:発信する情報量が増えましたね。たとえば週何日から可能か、どんな仕事をするのか、昇給はどういう仕組みになっているか、1日のタイムスケジュールの例を出してどういう働き方ができるかなど、かなり具体的になったと思います。
浅枝:働いている姿が見えるとイメージがわきやすいだろうと考え、2020年から動画も入れています。
野村:その後、キャリア採用についても「せっかくコーポレートサイトにそれなりのアクセス数があるから力を入れよう」となり、2019年夏にキャリア採用サイトは今の形になりました。

――キャリア採用とアルバイト採用において発信するメッセージに違いはありますか。
浅枝:アルバイトは気軽な気持ちで応募いただきたいと思っています。「本が好き」「ブックオフを昔から利用していた」という方も大歓迎です。キャリア採用の場合は、それだけではやっていけないところはあるので、社員インタビューなどでその雰囲気を出しています。
野村:社員は様々な仕事を担当するので、アルバイトのように具体的にどんな仕事をするかよりも、どんなメンバーと仕事をするのかなどについてイメージしやすい発信を意識しています。
浅枝:ただ、採用施策やコンテンツ作りにおいて、パート・アルバイト採用サイトとキャリア採用サイトは連携しています。というのも、アルバイトからの店舗職社員登用も多いんです。当社の全社員のうち新卒入社は約3割、キャリア採用が約2割、パート・アルバイトからの登用は約5割です。そのため、アルバイト面接の段階で「社員登用の道もある」と説明する、あるいは社員登用に意欲的な人へ会社の魅力を伝えていくといったことを、連携させながら店舗で情報発信しています。
――アルバイトからの社員登用であれば、確実にカルチャーマッチしていますね。
浅枝:文字通り即戦力ですね。とはいえ、ブックオフの文化に馴染んでいるからこそ、既存概念を壊すような新しい発想は生まれにくい面もあるので、その点は新卒やキャリア採用に期待しています。
特にキャリア採用では、常識や既存の概念にとらわれず、周りを巻き込みながら様々なことにチャレンジしたい方にぜひ応募いただきたいと思っています。ただ、そうした情報発信が現状あまりできていないのは課題です。
――オウンドメディアによる情報発信に力を入れ始めてから、採用状況にはどんな変化がありましたか。
浅枝:数字の面では、アルバイトの応募者数は4年前と比べて2倍に増えました。キャリア採用は、もともとの応募数が月3〜4人だったのもありますが、今はその5倍、十数人になります。
質的な面でも、求める人物像に近い方の応募が増えている感覚があります。社員インタビューなどで本以外にも様々な商材を扱っていることや、人とのコミュニケーションの大切さをメッセージを発信することで、ただ単に「ブックオフが好き」「本が好き」というよりも、より本質的なところでブックオフの文化や理念に共感していただけている方に来ていただいていると感じます。
業界のトレンドを織り混ぜ、幅広いタッチポイントとなるオウンドメディアに

――御社のオウンドメディアでは、ブックオフのファンが内外に多いことを積極的に発信しています。それは意図的なものですか。
野村:その点は「ブックオフをたちよみ!」というメディアに顕著ですね。これは創業30周年の記念事業の一つとして2020年にスタートしました。採用に関係する記事は「採用公式ブログ」でもリンクを張って掲載しています。
浅枝:「たちよみ!」は、外部に向けての認知向上のほか、従業員に対して「ブックオフ愛を高めよう」という目的があります。ファンの方がブックオフへの愛を語っている記事を従業員が読むことで、エンゲージメントの向上につながっています。

――採用公式ブログはいつ始まったのでしょうか。
野村:2019年夏に、採用サイトをリニューアルするタイミングでブログもスタートしました。記事のテーマは大きく分けると2つ。社内の様子を伝えること。もう1つは業界全体の動きと、それに対する当社の動きを伝えることです。
浅枝:ブログ内で一番読まれている記事は「リユース業界が将来性が高いといわれる理由」。検索エンジンで業界について調べていて、たまたま飛んできた方が多いようです。そこから採用サイトに飛んでブックオフのことを知ってもらう流れができています。
――リユース業界は社会的にも注目されていますね。業界をリードする企業として採用に関し意識していることはありますか。
浅枝:中期経営計画で「『ひとつのBOOKOFF』構想」を掲げています。自社アプリを含む会員サービスを中心に「オンラインと店舗」「買取と販売」などブックオフグループのあらゆるサービスをつなげる取り組みです。
今後はブックオフ単体だけでなく、リユース業界としてどんどん新しいことにチャレンジしていきたいですね。リユース市場は2025年には3兆円規模に拡大すると言われています。ただ、環境省の調査(※1)によると、「1年以内に中古品を買ったことがある人」はまだ3割ほど。もっと身近にリユースを感じてもらえるよう、お客様にとってよりよいサービスを届けていきたいです。
(※1)環境省「平成30年度 リユース市場規模調査報告書」
野村:そうしたなかで、他社で培った経験をもとに新しい視点を取り入れてくれる方に来ていただきたい。当社は中古本の領域では業界のリーダーとなっておりますが、そこで「自分たちはすごい」という意識があると、成功体験にしがみついてしまい新しい提案に対して素直に受け入れづらい空気感ができてしまう。そこを打破してこそ、ブックオフは次のステージに進めると考えています。
そこにつけても、大切なのはやはり人間力なんです。「この人はいい人だな」と思えていると、提案も素直に受け入れられます。そこがクリアできていると、社内外のあらゆる場面で物事がスムーズになると思っています。
“今後の方向性”と“持たれるイメージ”の一致を、積極的な情報発信で狙う

――コロナ禍で面接はどう進めていますか。また採用に関して新しく始めた取り組みや施策はありますか。
野村:1次面接はリモート、2次3次は対面で進めています。度々になってしまいますが、同じ空間で仕事をしていて気持ちのいい人を採用したい気持ちがあるので、対面での面接も行っています。
浅枝:たまたまコロナ禍と重なった制度としては全国転勤の廃止です。2021年4月から全国を5つの地域に分けて地域ごとの配属にしました。全国転勤のハードルがなくなることで人材獲得の競争力強化と、採用から育成まで一貫体制を作るのが目的です。面接も地域ごとにエリアマネージャーが担当するので、応募しやすくなります。
――今後、オウンドメディアリクルーティングを実施していくなかで積極的に取り組んでいきたいことは。
浅枝:一般的にはまだまだ「ブックオフは中古本屋さん」という意識が強いと感じています。今後の事業の方向性的にも、ここをもっと総合的なイメージに変えていくべく、様々な商材があることを発信していきたいですね。
野村:そうですね。どの分野に注力しているかは一言では言いにくいのですが、伸びているのは、フィギュアやトレーディングカードなどのホビー用品です。ですが、ブランド品や家電、スポーツ用品など競合が強い商材については常に良い人材を必要としています。オウンドメディアでその点を積極的に発信して、「あ、こういう商品も扱っているんだ」とお客様にも求職者にも知っていただきたいですね。