「SDGs(持続可能な開発目標)」が注目を集め、達成に向けて取り組む企業が増えています。一方で「忙しくて取り組む余裕がない」「何から始めていいか分からない」と考えている企業も多いのではないでしょうか。愛知県豊川市の加山興業株式会社では、国連サミットでSDGsが採択されるずっと以前から、環境問題や地域貢献、労働環境の改善などに積極的に取り組み、今ではこれからSDGsに取り組もうとする企業のコンサルティングも手がけています。同社のSDGsに対する思いと具体的な取り組み内容について、企画部の井上智博さんと中嶋あゆみさんにお聞きしました。
SDGsで事業の成長を促し、社会からの信頼を得る
――SDGsの取り組みを始めたきっかけを教えてください。
井上:当社は1961年の創業以来、60年以上にわたり時代のニーズに合わせながら産業廃棄物の適正処理とリサイクルに取り組み、法令を遵守しながら事業を拡大してきた歴史があります。特に、日本政府による環境基本計画の中で変化していくニーズに対応してきました。
一方で、せっかく環境にいい事業を実施していても環境負荷や周辺汚染が発生してはいけません。自社の廃棄物処理事業において周辺の汚染を発生させていないかを確認するために会社の敷地内に巣箱を設置し、ミツバチを飼い始めました。空気のきれいな場所でしか生息できないミツバチが飛び回っていれば、焼却場が大気を汚染していないことは一目瞭然です。地域の皆さんを招いて蜂蜜を採取するイベントをしながら、当社の取り組みを説明したりもしました。使用する電力についても再生可能エネルギー由来の電力を積極的に導入しました。
当時、それらの取り組みをSDGsとは呼んでいませんでしたが、様々なステークホルダーと対話しつつ、社会に求められる事業を進めていくという姿勢は当時から変わっていません。
そのような中で、60周年を迎えた2020年に自社として今後の目指すべき姿ととるべき行動を示した企業遺伝子を策定した上で、SDGsを考慮した中長期的な事業戦略を立てるに至りました。
――加山興業がSDGsの取り組む意義はどんなことだと考えられていますか。
中嶋:大きく分けて次の三つに大きな価値を感じています。一つ目は、ビジネスチャンスの源泉になることです。
SDGsの17の目標は、今まさに「社会が求めていること」です。それに対して当社ができることは何か?と考えることが、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大につながります。
たとえば「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」という目標達成のために、太陽光発電の導入が推進されています。一方で、SDGsの中には、持続可能な消費と生産のパターンを確保する「つくる責任 つかう責任」という目標もあります。実際に現在寿命を迎えた太陽光パネルの廃棄は数千トンであるのに対し、2030年には製品寿命を迎えた太陽光パネルが数十万トンにも上ることが分かりました。そこで、SDGsのゴールを両方成立することに貢献しようと考え、当社の廃棄物処理の知見を生かした太陽光パネルの処理施設を先んじて立ち上げ、2022年4月から稼働させる予定です。
二つ目は、企業価値の向上につながることです。工場見学の受け入れや、市内外にある小中学校での環境問題の授業を積極的に行っています。また、工場の敷地内を地域の防災拠点として、防災訓練なども行っています。常にステークホルダーの声を反映させることで、真に求められている活動ができると感じます。このような活動を通じて、多くのファンを獲得することができています。
三つ目は、長期的に事業継続するための手段である点です。SDGsの取り組みは、将来のあるべき姿、なりたい姿を考え、そのために「今」何をするかを判断する、というプロセスで進めます。長期的な視野を持って事業を考えられますし、「将来のビジョンをしっかり持っている」という姿勢を示すことは、今働いている社員はもちろんのこと、顧客、投資家、当社への就職を考えている学生からの信頼を得ることにもつながっています。
現状を把握し、目的地に向かって一歩ずつ進む
――社員が前向きにSDGsに取り組むために、工夫していることはありますか?
中嶋:当社のSDGsの取り組みは、社長や経営陣が強くその重要性を呼びかけて推進するトップダウン型の部分と、社員が様々なアイデアを出せるボトムアップ型の部分の両方があると感じています。
環境授業の内容も社員が自ら考えますし、地元のスポーツチームの応援、地域の清掃活動や収穫したハチミツの商品化といった活動も社員の発案からスタートしています。「こんなことができないか」と社員が遠慮なく提案でき、そのアイデアを会社が応援する環境があります。
井上:社内で定期的に開催しているISO委員会の中で、SDGsの取り組みに関する話し合いも行っています。各部署からメンバーが集まる機会に話題にしているので、取り組みの意義が社内に浸透しやすくなっているのではないでしょうか。
他にも全社員にSDGsを学ぶセミナーを受けてもらったり、普段の業務とSDGsのつながりを分かりやすく表したポスターを作って掲示したりして啓発に努めています。
――これからSDGsに取り組みたいと考えている中小企業は、まずは何から始めると良いでしょうか。
井上:SDGsの取り組みは、自社の事業活動の中で社会や自然環境によい影響を与えている部分は伸ばし、逆にリスクを生じさせている部分は抑制する、という方針で進めることが基本です。
そのためにはまず、自社として貢献できることと貢献しなければならないことを洗い出し、自社の「現在地点」を把握することが大切です。
たとえば「脱炭素」が戦略的に重要課題であればCO2をどれくらい排出しているか? 「働き方」が重要課題であれば、従業員の有給休暇の取得率は? などと一つずつ確認し、目標としたい姿や外部が期待している目標値を考慮して目標を設定していきます。
実際に目標を立てた時、それを実現するために具体的にはどんな取り組みをするかを、社内で話し合って決めていくと進めやすいのではないでしょうか。
顧客や地域住民といったステークホルダーの意見を聞き、社会から求められていることに基づいて取り組む内容を決めるとなおよいと思います。
このように課題をもとに目標を設定し、自社の事業の中で実践して、取り組みの成果を検証します。さらに顧客や社員、地域住民に報告して対話を重ね、達成できれば新しい目標を設定する……というサイクルは業種や企業の大小を問わず行っていることですし、中小企業でも実践できることではないでしょうか。
<取材先>
加山興業株式会社 企画部 井上智博さん 中嶋あゆみさん
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト