
地方を中心に堅調な活動をしている企業や、立ち上げたばかりだが業績の好調なスタートアップなど、採用への意欲は高いものの、都市部の人気企業に比べて知名度の点で劣るため、自社が求める条件を備えた求職者を確保することが難しいと考えている人事担当者は少なくないだろう。
どのような採用施策を行えば、企業の認知度を高め、欲しい人材を採用できるのだろうか。『小さな会社こそが絶対にほしい! 「化ける人材」採用の成功戦略』の著者であり、「採用ニッチ戦略」を提唱する中小企業診断士の窪田司氏に、知名度の低い企業が求職者の認知度を高めるための採用戦略について聞いた。
前編では、有名企業と差別化を図るための「採用ニッチ戦略」について掘り下げていく。
知名度の低い企業が知名度の高い企業の採用方法を真似しても成功しない

――窪田さんは、地方にある中小企業の中途・新卒採用のアドバイスを500社以上行ってきました。現在の中小企業の採用環境はどういった状況でしょうか。
窪田:少子高齢化により生産年齢人口が減少しているなか、中小企業側の求人数に対して求職者の数が少ないという「売り手市場」の状態が続いています。さらに、知名度の高い都市部の大企業に求職者が集まりがちという傾向も相変わらず続いています。経営者の方からも、「イベントに出ても、そもそも求職者が来ない」「お金をかけて採用サービスを使っても思ったような応募がない」「内定を出しても辞退される」といった声が聞こえてきます。
また、採用活動にしても、知名度が低い会社や規模の小さい企業は、費用やマンパワーが限られているケースも多いです。私もかつて社員600名規模の地方の金融機関で採用担当をしていましたが、この規模の会社でも採用と研修などの育成業務が兼務でした。中小企業になると、人事と総務が兼務であるようなパターンも多いですね。
一方、首都圏の大手有名企業では採用専門のメンバーが10人以上いるケースもあります。そういった点からも、大手有名企業のほうが圧倒的に有利だと感じることは多いです。ただ、大手企業がやっていることを真似すれば成果が出るかといえば、それはまったく違います。「思い切ってお金や人を集めて、成功例をそのまま真似たのに人が来なかった」という話も中小企業の経営者の方からよく聞かれます。
ではどうすればいいのかといえば、大手とは違うことをすればいいのです。それが私の提唱している「採用ニッチ戦略」です。
――そもそも「採用ニッチ戦略」とはどんな施策なのでしょうか。
窪田:「ニッチ=隙間」の言葉どおり、隙間を狙うという考え方ですね。ニッチなニーズを狙って、ニッチな方法で採用活動をしていく戦略です。
まず採用する人材については、大手企業や大多数の企業が狙っているような、様々な観点で優秀と評価される人材ではなく、大手企業があまり狙わないラインを狙います。大手企業や人気企業が欲しい人材と重なれば、負けてしまう可能性が高いからです。とはいえ、採用基準を下げるのではなく、採用に求める要素を絞り込むことが大事です。必須要件以外で入社後に獲得可能なスキルや経験は、入社後に育成すればカバーできるものと考え、最初の採用要件から外しておくのです。
自社のハイパフォーマーを分析し、どんなタイプの人材が欲しいのかペルソナ化する
――「採用に求める要素を絞り込む」とは具体的にどんな方法でしょうか。
窪田:企業の経営者や採用担当者さんとお話していると、「とりあえずいい人を採用したい」とおっしゃる方が多くいますが、採用ニッチ戦略では、「自社にとっていい人」ってどんな人だろうと要素を絞り込み、欲しい人材のペルソナを設定することから始めます。
自社にとっていい人材を設定するためには、「自社で働いている人で、生産性の高い人材、いわゆるエース社員はどんな要素を持っているのか?」を軸に、インタビューや行動観察、アンケートや適性検査などを通じて、要素を抽出します。
ただ、規模の小さい会社では従業員数が限られているため、十分なデータが取れず、欲しい人材のペルソナ化が進まないことも多いようです。そういう場合は、「今うちの会社で活躍している人って、どんな特徴があるのだろう?」と考えることから始めて、仮説を立ててみればいいのです。
――ペルソナ化に関するエピソードはありますか。
窪田:先日、「50代で活躍している人はいるけど、若手ではあまり思いつかない」という相談を受けました。そこで、「50代で活躍している方は、20代の頃から特別に“できる社員”だったのですか?」と聞くと、「そうではない」とのことでした。「では、なぜその後に伸びることができたのでしょうか?」と、本人や周りにいた人たちに聞いてみたのです。
すると、「そういえば若い頃からしつこいタイプだった。執着心みたいなものを持っていた」、「PDCAサイクルを回す頻度が、ほかの社員の5倍くらいあった」などの回答がありました。この回答から、その会社が求めている人材像のペルソナは、以下のようなものだとわかります。
- 執着心が強い人
- PDCAサイクルをガンガン回せる人
このように自社で活躍するエース社員から、「化ける素質」や「化ける種」を探せば、会社として求めている人物像、すなわち欲しい人材のペルソナを導き出すことができます。
自社にとって欲しい人材のペルソナが定まったら、そこから「どんな求職者に(誰に)、どんな自社の魅力を(何を)、どうやって伝えていくか」というプロセスが見えてきます。例えば、「バリバリ働いて、いろんな経験を経て成長したい」という人を「自社にとって欲しい人材」と定義した場合、求職者に対してPDCAをいっぱい回しながらどんどん成長できる職場環境についてジョブスクリプション(以下、JD)で言語化し、それをアピールすればいいのです。
ここで注意したいポイントは、アピールするためのJDを「届けたい人材に響くもの」にすること。例えば残業が少なく福利厚生もしっかりしている職場で働きたいと考えている人に、資格が取得できてどんどんキャリアアップできる職場であることをアピールしても、魅力を感じてもらえないはずです。
知名度の低い会社は、まず「目立つ」ことで自社を知ってもらう

――求める人物像がわかったら、次はターゲットに自社の魅力を伝えていくプロセスに入るということでした。求職者に自社の魅力を伝えて認知を高め、採用へつなげるステップについて教えて下さい。
窪田:採用活動は、「候補者集団の形成(集める)→選考(選ぶ)→内定フォロー(動機づける)」という3ステップで表現されることが多いと思います。
採用戦略で遅れを取りがちな会社の担当者は、最初の「求職者集団の形成」で頭を悩ませているのが現状です。このステップでやるべきことは、以下のように二つに分かれています。
- 自社のことを知らない求職者に対して興味・関心を持ってもらう
- 自社に興味、関心を持ち始めた求職者に、入社したいと思ってもらう。そのために、お互いのニーズや価値観が合っているか判断するための情報を提供する
まずは、求職者に「こんな会社があるのか」と知ってもらうことです。自社を知ってもらう方法は、オンラインでは求人サイトや求人検索エンジン、SNS、オフラインでは合同企業説明会や転職フェア、転職エージェントなどがあります。ただ、ここで有名企業と同じ土俵で戦っても勝てないことは明白です。とにかく「目立つ」ために、求職者に「この会社、面白そう」と思ってもらえる取り組みをして、最初の認知を上げていきましょう。
例えば10年くらい前だと、PowerPointのプレゼンテーションで会社説明をきっちり行うことが重要だと思われていましたが、今は求職者も求人サイトなどを見ておけばよく、事前の情報収集が容易です。そういう時代ですから、「どんな会社なのか説明をする」という形式にとらわれる必要はありません。むしろ、「今日は会社説明をしません。今日は、あなた方にとって意味のある話をします」と言って、あえて求職者の知りたいことだけに答える場にすることだってできるのです。
とある金融系企業は「金融系企業の合同企業説明会は、パンツスーツで行かなければならないのか?」など、就活に関する噂の真偽を解説していました。会社説明会で自社について説明することをしないことで、むしろ断然目立っていました。必要なのは、奇抜なことをして目立つというより、発想の転換です。
応募人数を確保するためにエントリーシートを省略してもいい
――とはいえ、せっかく会社の名前を知ってもらっても、資料請求や会社説明会に応募してもらうなど、次の段階に進んでもらうのは簡単ではなさそうです。
窪田:そうですね。もともと会社名が知られていないなかで、どうしたら説明会に応募してもらえるか。
例えばIndeedには、履歴書不要の「Indeedカンタン応募」というシンプルな応募方法があります。これは履歴書不要で、メールアドレスだけを入力するもの。応募者を増やす意味では、応募書類を作成する時間があまりない中途採用志望者などにも好まれる方式でしょう。
また、ある企業では会社説明会へのエントリーシートの持参をなくしました。その代わり、説明会当日に「説明会参加シート」を配布し、短時間で志望動機や知りたいこと、他社の選考状況や志望度などを書いてもらいます。その結果、会社説明会の参加率が高くなり、説明会参加シートに記入してもらうことで求職者の本音も引き出せるようになり、その後の細かい個別フォローも可能になったそうです。
――会社説明会といえば、「応募が多数来ても、欠席が目立つ」という採用担当者の悩みもよく聞かれます。
窪田:そうですね。ある会社では、合同説明会から単独の会社説明会応募へ進む人が少なく、せっかく応募があっても当日の欠席が多いことに悩んでいました。
そのため、会社説明会の参加申し込みをLINEからできるようにしました。さらに、返信は個別に名前を入れたメッセージを送り、「当日はAかBの内容について社員に説明してもらう予定ですが、〇〇さんはどちらを聞きたいですか?」など、説明会の内容もリクエストできるようにしました。事前に当日参加する若手社員の動画を送るといった工夫なども盛り込み、期待値を上げてから説明会に来てもらうようにしたのです。
その結果、当日キャンセルがゼロという成果を得たそうです。事前に個別のニーズに合わせた情報を提供した結果だと言えます。これは応募数の多い大手だったらできないこと。採用ニッチ戦略を行って、求職者を惹きつけられた好例です。
後編では、採用ニッチ戦略におけるJDの書き方、SNSを使った情報発信の仕方、動画による自社の伝え方など、具体的な方法論について紹介します。
この連載の記事一覧
- 知名度が高くない企業が求職者の認知を得るために行うべき発想の転換
- 他社にはない「自社らしさ」「自社だけの魅力」を発信せよ