
知名度のある大手企業と比べて、スタートアップや地方企業は、どうしても求職者からの認知が得られにくく、採用活動では不利なスタートラインに立っていると言えるだろう。
どのような採用施策を行えば、企業の認知度を高め、欲しい人材を採用できるのだろうか。『小さな会社こそが絶対にほしい! 「化ける人材」採用の成功戦略』の著者であり、「採用ニッチ戦略」を提唱する中小企業診断士の窪田司氏に、知名度の低い企業が求職者の認知度を高めるための採用戦略について聞いた。
地方を中心に堅調な活動をしている企業や、立ち上げたばかりだが業績の好調なスタートアップなど、採用への意欲は高いものの、都市部の人気企業に比べて知名度の点で劣るため、自社が求める条件を備えた求職者を確保することが難しいと考えている人事担当者は少なくないだろう。
前編では、知名度で劣るスタートアップや地方企業が、認知を高めて質の高い採用へとつなげる「採用ニッチ戦略」について紹介した。後編では、「採用ニッチ戦略」において企業が情報発信をする際のポイントについて、オウンドメディアリクルーティングの観点も含めて掘り下げていく。
ジョブディスクリプションでは「自社らしさ」を言語化する

――採用サイトを通して求職者とマッチングをするうえで効果的なジョブディスクリプション(以下、JD)の書き方を、採用ニッチ戦略の観点から教えてください。
窪田:従来、JDといえば大手有名企業の書いていることをそのまま真似するようなケースが多かったように思います。他社のJDを参考に、会社名や業務内容だけ自社のキーワードに入れ替えて使うような方法ですね。
ただ、これがまったく通用しないのが採用の世界。JDは本来、他社が打ち出していない「自社らしさ」「自社だけの魅力」とは何かを考え、それを言語化してアピールするもの。そこで大事なことは、とことん自社研究をして、それを的確に言語化するプロセスです。そして、言語化したJDが、会社が求めている人物像として設定したペルソナに響くものになっているかどうかを検討する必要があります。
例えばある企業で自社研究を進めたところ、自社の魅力とは「多くの子育て中の社員が働いていること」だとわかりました。そして「自社にとって欲しい人材」のペルソナを「育児と仕事のバランスが取れている社員」と設定し、女性も活躍できる会社である点を積極的にアピールしました。
そう決めたら、JDには子育て支援制度に関する言葉をたくさん盛り込むのです。また、子育て中の求職者が気になることとして、例えば「子どもが発熱したときにどうするか」などがありますよね。それに対して、自社では子育て中の社員が他にも大勢いて、そうしたことにも理解があること、万が一の際にはシフト制のため助け合って必ず休めることも書きます。さらに、子どもの参観日や行事には必ず出て欲しいので、優先して休暇が取れる制度、家族の誕生日には定時退社できる制度があることなどを書いてもいいですね。
――JDの書き方一つで、この会社なら家族を大切にしてもらえそうだ、と伝えることができる。
窪田:はい。ちょっとした見せ方の工夫ですよね。年間休日110日と120日比較すれば120日のほうが有利でしょう。ただ、年間休日をいきなり10日増やすことが難しくても、家族の誕生日に定時帰社できる社内制度を作ることであればハードルが低いはずです。
ほかにも給与面で大手に比べて見劣りしたり、年間休日もあまり多くなかったりする中小企業が、JDの書き方を変えただけで、応募人数が従来の年の25倍に増え、採用コストも60%に抑えられたケースがあります。
その会社は費用をかけて多くの求人広告を出してきたのですが、効果がありませんでした。そこで、「自社らしさ」「自社の魅力」について考えてみたところ、取引先に安定性の高い企業が多いこと、同業他社に比べて時間外労働が少ない会社であることがわかったのです。そこで、「安定」「ワークライフバランス」をJDとして前面にうち出したところ、働き方改革が注目を集めたタイミングだったこともあり、採用で大きな成果を上げられたのです。
SNSで社風や社員の人柄を伝える
――採用戦略におけるSNSの活用についても教えてください。知名度の点で劣る会社は、どのようなコンテンツを発信すべきでしょうか。
窪田:現在、情報発信の主戦場はおそらくSNSなので、SNSをきっちりやっているかどうかが会社の信頼にもつながります。社風や社員の人柄を求職者に伝え、興味関心を持ってもらうために、ちょっとした会社での出来事や日記のようなことでもいいので、TwitterなどのSNSや、noteを活用してほしいですね。
ただ、いろいろなことを雑多に発信しても求職者にきちんと企業の魅力が伝わりません。どんな人を狙うのかターゲットを絞り、その人に向けて響く情報を徹底的に発信していきます。やみくもにいろいろな情報発信するのではなく、伝えたいターゲットに向けて特化したコンテンツにする方が効果的です。
SNS活用において、「いかに目立つか」も大事です。SNSで目立てば、自社のことを知らない求職者に対して興味・関心を持ってもらえますし、その後の情報提供もしやすくなります。あるIT企業は、「モンスターハンターの発売日は業務に集中することが難しいため、全社員休みといたします」とSNSで発信したところ、「こんな会社で働きたい」という声が続出しました。「あのモンハン休暇の会社ね」と認知度がアップし、好感度も上がったのです。
これは全国的なレベルでの成功事例でしたが、地方での就職を希望している人に地方企業が発信するコンテンツであれば、「地元ネタ」で勝負してもいいと思います。例えばある地方企業で、採用担当社員がTwitterやInstagramなどを使って好きなご当地グルメなどの「地元ネタ」を積極的にツイートしていたそうです。すると、「地元ネタのツイートを読んだことで親近感が生まれ、この会社の説明会に来てみました」と言われたというケースもありました。
「社内の生の空気」「現場の雰囲気」は動画で伝えるのが最適
――会社説明会などのリアルな採用イベントに関しては、ニッチ採用戦略観点ではどのように考えればいいでしょうか。
窪田:知名度の高い企業の採用イベントだと、求職者は興味を持った状態で来ることが多いでしょう。一方、知名度の低い会社の場合、9割くらいがたまたま目について来たと考えた方が良いでしょう。だからこそ、「この会社、知らなかったけど面白いかも」と思ってもらい、「入社したい」という気持ちを育てていくことが肝心です。
具体的に、求職者は採用イベントでどんな情報が得たいと思っているのでしょうか。参加者は、採用イベントに参加しないと得られない情報を得たいわけです。会社の採用サイトを読めばわかることを延々と採用イベントで説明しても、求職者にとっては苦痛でしかありません。私は、1つ目に会社の雰囲気が知りたい。2つ目に、社長や人事担当者の話ではなく、現場で働いている社員の声を聴きたいという求職者が多いと考えています。
「社内の生の空気」「現場の雰囲気」を伝えるには、動画の形で見せることが最適です。YouTubeの利用率は、20代のみならず30代から40代までを通じて90%の利用率を超えています。動画で情報を得ることが当たり前の世代に対して、社員が自ら出演する「〇〇をやってみた」などの動画のチャレンジ連動型企画は強い訴求力を持ちえますし、企業の認知度向上にも十分役立ちます。
動画コンテンツを使用することで、複数の社員が採用イベントで直接説明するときに起こりがちな「プレゼン力のバラツキ」も避けられます。その社員のプレゼンが上手か否かで、説明会の満足度が変わってしまうのは問題でしょう。
SNSでの情報発信と同じように、会社紹介の動画コンテンツも多くの人をターゲットにせず、採りたい人材のペルソナを設定したうえで伝えたい内容を絞って考えることが大切です。例えば、ある地方企業はペルソナを「地元で就職したい人」と設定し、社員の持ち家比率や地域のイベント参加率の高さなどを動画でアピールすることで、その地域で生活することのメリットを紹介しています。
最後に、求職者が若手社員にざっくばらんに質問できるような、座談会などの場を設けることも有効な方法です。
ニッチな採用戦略を取ることで、内定辞退者を減らす効果も

――採用ニッチ戦略を取ることで、認知を上げたり、選考プロセスへの参加率を上げたりすることにつながるわけですね。それ以外には、どのような効果があるのでしょうか。
窪田:一つは内定辞退を減らせます。内定を辞退する理由として多いものは、まず条件面です。次に「社風が合わない」ことです。そのため、内定を出すときは、「○○さんに来てほしい」と単純に伝えるのではなく、「○○さんの求めている働き方に合う制度が、弊社にあります」「○○さんの○○の能力が、弊社であれば活かせます」など、求職者の特性やニーズに寄り添ったメッセージを伝えることが効果的です。
採用ニッチ戦略のコアな考え方は、「他の会社にはない自社ならではの魅力を研究」し、「自社独自のペルソナを設定する」こと。それをしておけば、内定を伝える際に「弊社としてこういう人に来てほしかったから、○○さんが選ばれた」と明確に伝えられるのです。
このプロセスをきちんと踏むことで、採用する側にも大きな変化が現れます。例えば、もともと知名度のある大手企業の採用担当者は、会社への帰属意識も高く、会社のブランドも理解しているので、自社の魅力をはっきりと求職者に伝えられます。一方、知名度の高くない会社で働いている採用担当者は、その点が苦手という方が多いのです。世の中に必要とされている会社なのに、自社の魅力を端的に伝えられないケースが少なくありません。しかし、自社ならではの魅力を言語化し、求職者のペルソナを設定していく作業をしていくなかで、自社の個性や価値にあらためて気付くことができます。その瞬間、経営者や採用担当者の語り口調がガラリと変わってくるのです。
――求職者に、自社の魅力をはっきりと伝えることができるようになる。
窪田:はい。就職活動において求職者は、新卒でも中途でも複数の会社を受けます。数社から内定が出て、どの会社を選ぼうかと迷ったとき、一番重要なのは「人による惹きつけ」だと考えています。人事担当者や経営者に、「あなたには絶対、うちの会社が合っています」と自信を持って言われるのと、「有名じゃないけど、よかったらどうぞ」と言われるのと、求職者の気持ちは大きく変わってきます。
採用活動においてニッチ戦略を取るのは、小さな改善を重ねる方法のように見えますが、実は王道の方法です。地道に「自社の魅力の掘り下げ」を行うことにより、会社で働く方々の意識変革が起きて自社に誇りを持てるようになる。そうしたマインドが求職者を惹きつけ、内定辞退率も下がる。そんな好循環を生み出す成果を期待できるのです。
この連載の記事一覧
- 知名度が高くない企業が求職者の認知を得るために行うべき発想の転換
- 他社にはない「自社らしさ」「自社だけの魅力」を発信せよ