働く意欲のあるシニア世代が能力を十分に発揮して活躍できるよう、政府主導による環境整備が進められてきました。施策が功を奏し、多くの企業では65歳までの再雇用が行われています。コロナ禍を機にテレワークを導入する企業が増えるなかで、シニア世代とうまく働くためにはどのようなポイントに注意すればよいのでしょうか。
シニア市場に関するアドバイスやコンサルタント、シニア世代の取材・執筆活動を行うシニアライフアドバイザーの松本すみ子さんに話を伺いました。
テレワーク導入による、企業とシニア世代それぞれのメリット
――企業とシニア世代双方の観点から、テレワークにはどのようなメリットがあるのかを教えてください。
シニア世代にとってテレワークは、とてもいい働き方です。通勤が必要ないので体力的な負担は軽減されますし、時間をうまく活用して勉強もできます。働く場所や時間を選ぶことで仕事とプライベートのバランスを取り、気分転換をしたり趣味を楽しんだりすれば、日々をより充実させることもできるでしょう。自分の人生を楽しむことは、シニア世代にとって特に大事なこと。テレワークがいい人生を送るための後押しをしてくれると思います。
企業側にとってもメリットがあります。オフィスのあり方や通勤手当の見直しを行うことで、コスト削減が見込めます。ITツール活用と業務フローの再検討により、生産性向上や効率化も期待できるでしょう。柔軟な働き方が実現すれば、シニア世代を含めた有能な人材の確保や流出の防止にもなります。
――テレワークは、双方にとってメリットがありますね。松本さんから見たシニア世代のテレワークの現状はどのようなものでしょうか。
ITツールの操作という点では、年配の方も問題なくテレワークに対応できています。今の70歳くらいまでのデスクワーカーはIT化が進んだオフィス業務を体験している世代です。仕事はもちろん、趣味の仲間や友人との交流で、ZoomやLINE、Facebookを楽々と使いこなす人は少なくありません。私が知っている80歳は、Zoomで俳句の会を開催しています。
――「シニア世代だからITに疎いのではないか」という勝手な思い込みを持つべきではない、と。
その通りです。ただし40代以下の世代と違って、シニア世代は大人になってからネットの利用を始めています。直感的な操作は苦手な傾向があるので、その背景を理解してテレワークで必要なシステムやツールの使い方は説明を省かずに、きちんとサポートしてあげることが大切です。
またテレワークで生産性を向上させるためには、これまでとは違った企業側の取り組みが必要になります。
――それはどういった内容でしょうか。
個人の役割・タスクの見える化です。これを実現するにはスキルに焦点を絞り、担当職務を明確にする「ジョブ型」の雇用が適しています。
これまでの日本企業は、職務を明確にせず組織の一員として採用するメンバーシップ型雇用を行ってきました。広い範囲で平均的に業務を行うゼネラリストを育成することが目的です。そのためシニア世代は、部署異動を繰り返して様々な業務を経験し、定年を迎えた人が多いのが特徴です。
一方、欧米ではスペシャリストを育成する目的で、担当職務を明確にして採用を行うジョブ型雇用が浸透しています。グローバルな視点を持たなければ、日本はこのまま置いていかれる懸念があります。
危機感を抱く企業はジョブ型に注目し始めていますが、長年メンバーシップ型で働いてきたシニア世代はジョブ型の考えを理解しきれていない傾向があります。まずは企業側がジョブ型の視点を業務に取り込んでみましょう。具体的にはまず、個々のスキルに焦点を絞り、適した職務を割り振ります。その上でテレワークを進め、生産性の高い組織づくりにつなげていくのです。
――企業側はシニア世代の背景を理解し、個々のスキルに注目することが求められるのですね。
そうです。シニア世代は「会社に行くことが働くことである」という固定概念を持ちがちです。それは長年の労働慣習によるもの。シニア世代も考え方を変えなければなりませんが、まずは企業側からの働きかけが必要です。
意欲のあるシニア人材は、長年の経験を生かして、会社に忠誠心を持って仕事に取り組むことができます。スキルに合った業務範囲をきちんと決めて期日と共に明確に指示すれば、きっと想像以上の能力を発揮するでしょう。

シニア世代と働くなら、ルールの明確化とコミュニケーションの促進を
――シニア世代とのテレワークをスムーズに進めるための工夫はありますか。
社会人になってからネットを利用し始めた世代なので、初めてのITツールを直感的に動かせる人は多くありません。慣れていないことを怖がる傾向があるので、40代以下との違いを認識してきちんと教える仕組みを作ることが大事です。次に挙げる方法は取り入れやすいでしょう。
- 業務に必要なシステムやツール類の操作方法をマニュアル化するか、既存の参照先を提示する。
- テレワークにおけるルールを明確にして文書化する。
これらをクラウドに共有しておけば、いつでも確認できるのでおすすめです。
――曖昧さをなくし、業務内容や進め方を具体的に示すことは大事ですね。では、シニア世代とのコミュニケーションにおいて、注意すべきポイントを教えてください。
周囲の社員が年上であるシニア世代に遠慮してしまう、シニア世代は自身のプライドからわからないことを年下に質問しづらいなど、年齢差が原因で問題が生じることがあります。しかし、これは業務を通して相互理解が進めば解消できるでしょう。
それ以上に行き違いの原因になるのが、「アンコンシャス・バイアス」です。
――アンコンシャス・バイアスとは何ですか?
「無意識の偏ったものの見方」を指します。たとえば「普通は◯◯だ」「たいてい◯◯だ」という言葉を振りかざす、事務的な仕事を女性にばかり依頼するといったケースは、アンコンシャス・バイアスの影響を受けている可能性があります。
一方、シニア世代を相手にした場合、若手は「シニアだからこういった能力がない」「態度が偉そう」と決めつけて、見方が厳しくなるアンコンシャス・バイアスが起こり得ます。この問題の最善の解消策は、実際に知り合ってコミュニケーションを取りながら、自分の言動を都度振り返ることです。
たとえば、「子どもはうるさくて迷惑だ」と感じている人がいます。自分に子どもができて理解が進めば、泣き声も元気な証拠と受け止めて、今までの認識を改めるきっかけになることもあります。それと同じで、相手を知り、決めつけをせずにコミュニケーションが取れるようになると、「世代」ではなく「個人」として相手を見ることができるはずです。
――アンコンシャス・バイアスの解消のために、人事担当者ができる工夫を教えてください。
直接顔を合わせての会話がベストです。しかし、人との接触を減らすことが求められているコロナ禍では、社員同士の交流はなかなか大変ですよね。そこでビデオ通話を使った対話をおすすめします。画面越しでも大人数でなければ、表情がよく見えます。少人数でカジュアルな会話ができる場を設けたり、雑談を促したりしてみてはいかがでしょうか。
そうして若手とシニア世代が知り合った状態をつくってから、仕事上で互いに助け合う「バディ(仲間)」として組み合わせてみてください。その場合、若手側が仕事上で指示する立場だったとしても、きちんと敬語を使うことがとても大事です。人事担当者からは若手に対して、人生の先輩として敬意を持って接するようにアドバイスするとよいでしょう。
シニア世代とのテレワークをうまく進めるために、企業側ができる工夫はたくさんあります。シニア世代の全体的な傾向を把握した上で、個々のスキルに注目し、それぞれの会社に合わせた取り組みをしてみてください。
<取材先>
松本すみ子さん
有限会社アリア代表、NPO法人シニアわーくすRyoma21理事長、シニアライフアドバイザー、キャリアコンサルタント。シニア市場に関するアドバイスやコンサル、行政などのシニア向け講座の企画・運営・講師、シニア世代の取材や執筆活動を行う。著書に『55歳からのリアル仕事ガイド』(朝日新聞出版)、『定年後も働きたい。人生100年時代の仕事の考え方と見つけ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan + ノオト