
株式会社gumi(以下、gumi)は、創業以来モバイルオンラインゲームの開発・運営に加え、先進技術を活用したサービス開発にも注力してきた。事業規模の拡大や新規事業への取り組みを進めるなかで、「新たな企業文化の形成と浸透」という課題にどのように向き合い、対処しているのか。また、採用活動においても自社の理念やカルチャーを発信することがより重要性を増すなか、gumiならではの企業文化をどう発信しているのか。
この経営課題に関して、今回は同社が実践しているオウンドメディアリクルーティングにフォーカスを当て、企業広報を管掌しているBusiness PromotionのDirector寺村康氏と採用業務を担当しているHuman ResourcesのManager橋本正志氏に聞いた。

(右)橋本正志氏。Human Resources Manager。不動産ベンチャー企業での営業経験を経て、同社の人事部門にて採用業務などに従事。2012年8月に株式会社gumiに入社し、採用、評価、教育、労務等の人事業務全般に携わる。現在は主に採用領域及び労務領域を中心に担当。
Mission、Mind、Valueの理解と浸透でgumi像を描き出す

――gumiのコーポレイトサイトでは、「Mission、Mind、Value」がきちんと定義され、非常にわかりやすいものになっています。Mission、Mind、Valueを大切にするのは、どのような理由からなのでしょうか。
寺村:2019年5月に企業理念の見直しを行い、Mission、Mind、Valueを再定義しました。当時、gumiは創業13年目を迎え、企業規模が急拡大していて、社員もおよそ850人にまで増えていました。また、主業のモバイルオンラインゲーム事業だけでなく、新規事業にも参入していくなかで、企業が目指すべき方向が曖昧になっていることが組織課題として浮き彫りにもなっていました。ちょうど社長が交代したタイミングでもあったので、あらためて企業理念であるMissionを再定義し、社員に浸透させようということになったわけです。理念BOOK「Corporate Philosophy」も従業員に配布して、Mission、Mind、Valueに対する理解と浸透を図ってきました。
――「Corporate Philosophy」は企業理念をまとめた冊子ですね。そのなかではMission、Mind、Valueはどのように位置付けられているのでしょうか。
寺村:Missionである「Wow the World!」は、企業として目指すべき方向性を示しています。Mindの「One Step Beyond」は、Missionを実現するために社員一人ひとりが忘れてはならない基本精神です。そして、Valueの「Keep on Trying」「Stay Positive」「Unite as One」は、Mindを体現するために社員が果たすべき行動指針です。
MissionとValueだけでも成り立たせることはできるのですが、創業者の國光宏尚がこだわり続けている「One Step Beyond」をMindとして企業理念に入れ込むことにより、創業時から大事にしている企業精神を言葉に残しました。常に一歩先を目指して新しいことに挑戦しない限り、多くの人に感動を与える作品や製品を生み出すことは難しいため、大切にしたいこだわりです。
――とはいえ、Mindというものを、いざ社員に実装させるとなると簡単ではないですよね。
寺村:Mindを浸透させるというより、社員みんなでValueを追求することに重きを置いております。Valueで定めた、明るく元気よく(Stay Positive)、社員同士が団結して(Unite as One)、果敢に挑戦する(Keep on Trying)ことを、みんなが実践していけば、Mindは自ずとついてくるものと考えています。
もっとも、企業理念を再定義してから1~2年なので、Valueの浸透にもまだ時間がかかるでしょう。
――カルチャー形成もこれからということですね。
寺村:誰もが思い浮かべることができる「gumi像」といったものはまだ描けていません。gumiでは、カルチャー形成を促しやすい新卒社員の割合がまだまだ低く、90%以上が中途採用で構成されています。加えて、業界的な特徴でもありますが、人の入れ替わりが激しいという実情もあります。多様な背景を持った人材が集まり、多様な業務に就いているので、それぞれが描く「gumi像」も多様になってしまいやすいのです。
「ばんぐみ」を通じた企業広報でカルチャーを社員に根付かせる

――企業広報において、オウンドメディアの位置付けや役割は、どのようなものになっていますか。
寺村:Missionの再定義に取り組んでいたとき、同時に課題になっていたのが、企業広報が十分ではないということでした。「gumi像」を描けていないのは、対外的なブランドを構築できていないということでもあり、つまりは戦略的な企業広報が機能していないことを示しています。ブランドが曖昧では、せっかくgumiに就職したいと応募してきた人に対して、gumiとして何を求めるのかをきちんと説明できないことになります。ゲームの開発・運営に当たっては人材こそが重要な経営資源であり、私たちも採用活動に力も入れているのに、これでは非常に困るわけです。
そこで企業広報では、ブランドイメージを構築したり、高めたりすることに力点を置き、独自のカルチャーを伝えることに取り組んでいます。特に採用メディアの「ばんぐみ」は、gumiらしさやgumiが目指すものなどを社員インタビューのほか様々な企画を通じて「社外」向けに発信しているものにはなりますが、実は「社内」向けとしても成り立つように、実態を赤裸々に明かす形で記事コンテンツを作っています。「ばんぐみ」の記事を読んで、gumiらしさとはどのようなものか、社員がより具体性を持って理解してくれれば、カルチャー形成にもつながっていくものと考えています。
本来は、社員がValueを実践して、それがカルチャーとなって外の社会に伝わるのが一般的なのでしょうが、gumiでは先にオウンドメディアで外部に対してカルチャーを示し、そこから社員に浸透させる形でもかまわないと考えています。外堀から埋める作戦ですね(笑)。
――「ばんぐみ」には、「安定など存在しない」や「組織崩壊の危機」といった、採用活動には似合わない刺激的な表現が目立ちますね。
寺村:やはりエンターテインメントの会社ですから、コンテンツへのこだわりはあります。ありきたりなコンテンツでは社員にすら読んでもらえないですし、読者を楽しませるというのはゲーム制作にも通ずるものがあると思っています。特にオウンドメディアを立ち上げたばかりの時期においては、サイトに訪れた方にまずは興味、関心を持ってもらうことが大切ですから、あえて踏み込んだ表現や内容にしていることもあります。
社長をはじめ経営管理層は金融出身者が多いので、堅いとか強面と思われがちな印象を少しでも柔らかいイメージになるようにしたいとも考えていました。内心ヒヤヒヤでしたが、社長の頭にタワシを乗せたりした記事も作ったわけです(笑)。もっとも、社長にも現場との距離を縮めて社内の風通しをよくしたいという強い想いがあるからこそ実現した記事だったと言えます。ちなみに、記事の内容はけっしておふざけなどではなく、gumiの歴史上きわめて重要な出来事を、背景も含めて真面目に伝えています。
「ばんぐみ」の企画は、Business Promotionがイニシアチブを取っていますが、ゲーム開発現場の力も借りています。コンテンツ制作の主目的がゲーム開発現場の採用ですし、現場の統括責任者をはじめゲームプロデューサーなども非常に協力的で、いろいろなアイデアをいただいています。なお、一部のコンテンツで外部のライターの協力を得ているほかは、内部制作を基本にしています。
――「ばんぐみ」などを通した情報発信によって、採用活動にはどのような効果があったのでしょうか。
寺村:新たに入社した社員へのアンケート調査では、ねらい通り一定の認知度はあります。しかしながら「ばんぐみ」をスタートさせて日が浅いので、母集団形成につながるような効果はこれからというのが正直なところです。制作体制による限界はありますが、伝えたい情報は多いですし、コンテンツの積み上げも大事なので、現在月に1本から2本にとどまっている記事の作成を、質を落とさずに増やすことが足許の目標です。エンターテインメント感を大切にしながら、「人」、「事業」、「カルチャー」にフォーカスした記事を届けたいと考えています。
橋本:求人への応募経路は、エージェントをはじめ、自社採用HP、リファラルや媒体などがあります。今後はオウンドメディアを通じて社内外に正しく情報発信することによって自社採用HP経由での応募の割合を高めたいと考えています。
長期的に運営を行っているタイトルに加えて、新規タイトル開発のために新しいポジションが増えており、採用を今まで以上に強化する必要があります。最近は毎月10名前後の採用を行ってはいるものの、それでも現場の要求を充足するまでには至っていません。
寺村:就職希望の潜在層にアプローチしgumiに対する理解を深めてもらうオウンドメディア「ばんぐみ」のリリースができたので、次は就職希望の顕在層を対象にした採用サイトのリニューアルに取り組んでいるところです。そのうえで面接という3段構成にする予定です。採用ツールの構造化により、採用活動がスムーズに行えることや、オウンドメディア経由の採用の比重が高まることを目指しています。
スキルに加えて、Valueを体現できる人材を採用する

――採用に当たって、人材には何を求めているのでしょうか。
橋本:これまでの採用活動では、業務の拡大に合わせて必要なスキルを持っている人の採用が優先されがちでしたが、最近ではValueを踏まえた面接を行い、スキルだけでなく人物像も評価する事を重要視しています。
スキルだけを重視して選考すると、事業の変化によって求められるスキルや役割が変わった際に活躍の場が徐々に限定的になってしまう事態が生じかねません。Valueを体現できる人であれば、事業が変化しても柔軟に対応してくれることを期待できます。将来にわたってミスマッチを生まないために、現在のスキルだけでなく、長期的な視点から人物像を見るように注意しなければなりません。そのための面接官トレーニングも取り入れました。
また、コロナ禍で会社を直接見てもらうことが難しくなっているので、求職者にはオウンドメディアを紹介し、gumiのいいところも、そうでないところも知ってもらうようにしています。
寺村:ゲームの開発は本当にストレスフルな仕事で、あまりほめられたことではありませんが、過酷と言ってもいい環境で働くことになるので、「覚悟」を持った人に応募してほしいと思います。
また、IT業界全般に言えることですが、変化が早くかつ大きい世界で、よく言えば成長環境があるので、現状にアジャストできるだけでなく、常に先を見て現状を追い越せる人や、変化に柔軟に対応できる人を求めています。
橋本:今のゲームは5年前のものと比べ全く別物と言っていいほど進化しています。現状がベストと思った瞬間に成長が止まってしまう世界なのです。その点はゲームの開発部門だけでなく、管理部門で働く従業員も理解する必要があります。
同じゲーム業界やIT業界から移ってくる人は、ゲーム作りという修羅の道について(笑)ある程度は理解できるようで、「まあ、そうでしょうね」という反応が少なくありません。しかし、全く別の業界から管理部門などに入ってくる人にはなかなか理解されないので、入社後に戸惑わないように面接などでは特に気を付けて伝えるようにしています。
リファラル採用の強化へ向けて、社員に評価される会社を目指す

――コロナ禍の影響もあって採用を取り巻く環境の変化が加速しているなか、今後どのように採用活動へ取り組んでいくお考えでしょうか。
寺村:これから強化したいのはリファラル採用です。社員からの推薦や紹介による採用ですから、社員がgumiを評価していないと、知人を紹介したいとは思ってくれないでしょう。社員が働き続けたい、良い仲間を誘いたいと思える環境にしていくことに、これまでにも増して積極的に取り組んでいきたいと考えています。
橋本:これまでの採用活動における成功事例を整理して、状況に応じた選択ができるようにしたいと思います。今後は採用活動にAIを導入するなどの動きが活発になると思うので、このような新しいテクノロジーを検討するうえでも、現状分析や過去の施策に対する効果検証が重要です。採用ニーズに合わせて様々な手法を融合し、より効果的な施策を迅速に実行できるように取り組んでいきたいと考えています。
寺村:新たな採用手法の導入も検討しつつ、一方で多種多様な人材を必要とする状況は今後も変わらないでしょうから、企業としてはしっかり情報提供を行い、人をきちんと見て採用する、いわば採用活動のローテクの部分はいつまでも大事にしたいと考えています。