
100を超えるサービスを運営し、約7000人規模の社員が活躍しているヤフー株式会社(以下、ヤフー)。オウンドメディアリクルーティングとして推奨されているコンテンツ群を網羅性高く運用し、その施策は「Owned Media Recruiting AWARD 2020」においても高く評価されている。
オウンドメディア「linotice(リノティス)」では、採用ブランディングのためのコンテンツを継続的に発信しているほか、採用サイトに掲載されているジョブディスクリプションはlinoticeと連携し、関連する社員の声がリンクされるなど様々な工夫が見られる。
本稿では、同社コーポレートグループ PD統括本部 コーポレートPD本部 本部長の金谷俊樹氏と、コーポレートPD本部で採用ブランディングを担当している干場未来子氏に、デジタル先進企業としていかにオウンドメディアリクルーティングに取り組んでいるか語ってもらった。

干場未来子氏(左)。ヤフー株式会社 コーポレートグループPD統括本部コーポレートPD本部 採用企画部 採用ブランディング担当。2007年にオーバーチュア株式会社へ中途入社し、ヤフーの買収に伴い転籍。広告事業の営業やエデュケーション、プロダクトマーケティング、マーケティングなどを経て、2016年に人事へ異動。採用ブランディング担当として採用オウンドメディアlinoticeの立ち上げを行う。現在はlinoticeだけでなく、採用ホームページや採用動画、SNSなど採用関連のデジタルコンテンツすべての企画運用を行い、採用戦略や母集団形成に活かしている。
訴求したいコンテンツをわかりやすく配置した採用サイト

——採用サイトに「びっくりさせよう、日本も、あなたも。」と掲げられ、「びっくり」をキーワードとして企業価値を訴求している点が印象的です。ここに込められた思いについてお聞かせください。
干場:「びっくり」という言葉の根底には、「情報技術のチカラで、日本をもっと便利に」といった企業ミッションやビジョン・ステートメント(企業が将来に向け実現を目指す目標など)を実現するため、「びっくりするようなユーザー体験を提供したい」という思いがあります。
採用サイト自体は、2020年2月にリニューアルしていますが、その際にこのキーワードを用いました。リニューアル前はトップページから訴求したいコンテンツまでを最短距離でつなぐことを優先していたこともあり、ヤフーらしさがあまり出ていなかったと思います。リニューアルを機にヤフーらしさを全面に出せるようにと考えたのです。
金谷:傾向として企業ミッションやビジョン・ステートメントに共感を持って応募いただける方が多いので、そこを中心として応募者が気になるポイントを最も訴求できる設計にしています。
——ヤフーらしさに加えて、採用サイトの高い質を保つために心がけていること、実践していることを教えてください。
金谷:弊社の採用サイトの大きな特徴は、学生向け、キャリア向けと分かれていないことです。私自身もキャリア入社なのですが、当時は学生向け・キャリア向け・障がい者向けとサイトが3つに分かれていて、私が応募した人事部門で働いている社員のインタビューは、障がい者向けのサイトにしか載っていませんでした。でも、問題なく人事の仕事はイメージできた。新卒もキャリアも障がい者も、基本的に欲しい情報は同じではないでしょうか。であれば、ドメインが違うところにぶらさがっている必要はないと考え、情報をすべて統合しています。
干場:そのうえで導線を工夫しています。リニューアルに際し、アクセス解析を参考に課題を拾い上げたところ、導線が悪く訴求したいのに届いていないコンテンツがあることがわかったんです。
たとえば、弊社CEOの川邊健太郎やCTOの藤門千明のインタビューです。彼らのインタビューは、私たちがどういう未来を作っていきたいのか、どういう方を求めているのかなど、メッセージ性が強く、カルチャーやスキルのミスマッチを防ぐために必ず見ていただきたいコンテンツです。また、「映像で見るヤフー社員」という動画があるのですが、「動画があることに気付かなかった」というご意見もいただいていました。
そこで、求職者に訴求したいコンテンツを優先順位をつけて配置し、かつトップページからすべてのコンテンツに対しての導線を用意しました。また、新しい事業などがスタートした場合、それを紹介するコンテンツを後から追加しても導線を作れるように入念に設計しています。
オウンドメディア「linotice」を採用サイトに統合し、採用戦略と連携

——2016年からはオウンドメディア「linotice」をスタートしていますね。以前はTumblr(タンブラー)上で運営されていましたが、現在は採用サイトの配下で運営されています。
金谷:linoticeを立ち上げる際、費用対効果が見えないという大きな課題があったので、まずは費用が抑えられる外部のブログ媒体を利用して運営していました。その後、一定以上の効果が見えてきたので、2020年2月のリニューアルで自社採用サイトの配下に変更し、一体感を持ったコンテンツとして提供できるようになりました。
——「一定以上の効果」というのは具体的にはどのような効果が見られたのでしょうか。
金谷:どれぐらいアクセスされているのか、そこからどれくらいの応募につながっているのかが数値でしっかり示せたこと。また、社外だけでなく社内に対するブランディングも確立できたということです。
社内に対するブランディングというのは——たとえば、「こんないい制度を作りました」と担当部門から社内に向けて発信するだけだと手前味噌に見えてしまう可能性があります。そこで併せて外部に向けて発信し、客観的に見た時にどんな評価をいただけるのかを知る環境を作る。その効果が見えてきたので、社内から「ぜひlinoticeを活用したい」という声が大きくなりましたね。
干場:自社ドメインに統合してからは、デザイン的にも統一感を持たせることができ、より密接に採用戦略と連携しながらコンテンツを作れていると思います。採用人数が多いポジションであればその業務を担当している社員の記事を掲載して募集ページにつなげたり、業務理解が難しいポジションについては業務内容を解説する記事を公開して求職者に理解してもらいやすくしたりといったことです。
——採用サイトとlinotice、それぞれ情報発信においてどのように使い分けていますか。また、求職者からはどのような反応はいかがでしょうか。
金谷:採用サイトでは普遍的な情報、たとえば社員のインタビューや仕事内容、制度などに関する一般的な内容を掲載しています。一方で、社員が仕事を通じてどう感じたか、制度を利用してキャリアがどうなったかなど具体性がありエッジの効いたインタビューや、旬のネタはlinoticeで扱っています。
干場:採用サイトは情報を網羅的に伝えて、linoticeではそこから醸成される企業カルチャーや社員の活躍をリアルタイムに伝えていきたいと考えています。
linoticeは自社ドメインになったことで、回遊率が大幅に上がっています。2020年は副業人材を募集する「ギグパートナー」という社会的にインパクトの強い制度をスタートさせた相乗効果もありましたが、PVがかなり増え、訪問母数が圧倒的に増えましたね。現場の取材協力も得やすくなり、「自分もlinoticeでインタビューされるようになりたい」という声もいただけるようになりました。
多岐にわたるジョブディスクリプションはまとめてわかりやすく

——採用エントリーは、主に「ポテンシャル採用」と「キャリア採用」に分かれていますね。
金谷:はい。年齢が条件に当てはまれば、新卒、第二新卒、キャリアに限らず「ポテンシャル採用」を選んでいただくことができます。その際の職種は、エンジニア、デザイナー、ビジネスの3つのみ。一方で、「自分が持っているこのスキルを活用したい」という具体的な方向性が定まっている方は「キャリア採用」として、各ジョブディスクリプションを参考に自身に当てはまる職種へ応募していただく形になります。
——ジョブディスクリプションは、業務内容や必要なスキルだけでなく「社員の声」もあり、わかりやすい内容となっています。ジョブディスクリプションを書くときに気を付けていることはどんなことでしょうか。
干場:弊社は常時、何十職種、それも多岐にわたるポジションを募集しているので、ジョブディスクリプションは部門側とよくすり合わせをして、業務内容がわかりにくいものはわかりやすく、募集ポジションの名称も誰にでもわかるようにすることを心がけています。「社員の声」は2020年から取り入れましたが、直帰率が目に見えて下がり、他の様々なコンテンツを閲覧してくださったり、エントリーにつながりやすくなったりしたことが数値で明らかになりました。
金谷:採用サイト上では50ポジションほどの募集であっても、実際の求人は100ポジションくらいある場合が多いです。というのも、求めるスキルは同じ、業務内容もほとんど同じ、でも担当するサービスや媒体が違うというポジションがあるからです。募集要項をまとめないと情報の洪水になってしまうし、メジャーなサービスへの希望が集中することを避ける意図もあります。
「オンラインで働く」ことをポジティブに想起させる発信を行う
——ニューノーマルにおける採用施策と情報発信について、以前と比べてどのような変化がありましたか。
金谷:採用選考はすべてオンラインに切り替えました。2021年4月に新卒として入社いただく皆さんの約3割は1度も会社に来たことがありません。こうしたなかでこれからの課題は2つあると捉えています。
1つ目は、採用に関わるすべてのことを本当の意味でオンラインに最適化すること。今はオフラインが前提——オフラインでやっていたことをオンラインという手段に乗せているだけです。この慌ただしい局面では致し方がないことではありますが、これからはオンラインだからできること、オンラインに最適化した選考設計をしっかり考えていかなければなりません。
2つ目はオフラインの活用です。採用だけでなく社員の働き方を含め今後はオンラインがベースになることは間違いありません。オフラインの良かったことを振り返り、いかに効果的にオフラインを織り交ぜて活用していくのか考えていかなければいけないと思っています。
——オンラインでの採用選考における課題などを教えてください。
金谷:細かい話ですが、とある部門の面接官は「面接の順番を待つ姿、面接会場に入ってくる、出ていく所作といった前後の部分がオンライン面接では見えないから気になる」と言っていました。従来は直接話す時間以外の情報も一つの選考要素だったかもしれませんが、そのようなことに関しては「採用のポイントとして軸をなすような本質的な部分ではないので、オンラインでは諦めてください」と伝えています。
むしろそういう部分に左右されなくなり、人事部門としてお願いしている選考基準に真正面から向き合ってもらえるようになることが、オンラインに最適化していくための一つのポイントになるのではないでしょうか。
また、会社説明会やウェビナーは採用行程の必須コンテンツとして設計していないので、あくまでサポート的な役割の訴求コンテンツと考えています。私たちとしては、口コミや評判などを聞いて応募意欲を持って来てくださることが一番望ましいので、そのために採用サイトやオウンドメディアで積極的に情報を発信していきたいですね。
——「オウンドメディアリクルーティングアワード2020」を受賞し、オウンドメディアリクルーティングという視点から見て今後力を入れていきたいことを教えてください。
干場:オンラインに移行したことで、ヤフーでどんな仕事ができるのか、どんな人が働いているのか、どんなカルチャーなのかを、会社に来ることなくいかに伝えられるか考えなければならなくなりました。そのためにオウンドメディアのコンテンツの数や質を高めていくことが重要だと考えています。
linoticeや採用サイトだけなく、他にもデジタルの力を駆使することで候補者にとって必要な情報を届けていきます。特に、オンライン採用にあってもさらに理解を深めていただける手段として、動画も積極的に活用していくつもりです。
<Yahoo! JAPAN 採用ムービー 「当たり前を創る」って挑戦だ>
金谷:そうですね。これまで私たちは、働くことを誇りに思えるオフィスを作ってきましたが、それが武器として使えなくなってしまった。つまり、また入社される方に「こんなオフィスで働きたいな」と思ってもらうことができないんです。
メディアという手段のみで「ヤフーで働くこと」のイメージを伝えることは難しいですよね。今、採用サイトに掲載されている働くイメージ写真のほとんどはオフィス内での写真です。今後の実態に合った働くイメージをいかにポジティブに伝えていけるかが課題だと感じています。linoticeのインタビュー記事では実験的にZoomのスクリーンショットを掲載していますが、そればかりというわけにはいかないのでチャレンジしてくしかないですね。
干場:その点については、現時点で明確な答えがあるわけではありません。とはいえこれまでも質の高い採用を実践するために様々な工夫をしてきました。オンラインが主体になった業務環境におけるリアルな働き方や、今のヤフーで働くよさを伝えられる方法が必ずあるはずだと思います。方法論も含め、ポジティブな発信をしていきたいです。
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