
「経済情報で、世界を変える」をミッションに掲げ、2008年に設立。経済情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」などの事業を展開している株式会社ユーザベース。
オウンドメディアリクルーティング施策に関して、同社は採用サイト、さらには採用を目的としたオウンドメディア「UB Journal」と「UB note」を運営している。両メディアでは同社で進行中のプロジェクトや、各部署で活躍する社員の魅力を深堀りしたコンテンツを制作。成長し続けるユーザベースの“今”を求職者に向けて発信している。
この度、質の高いテキストとクリエイティブが評価され、「Owned Media Recruiting AWARD 2020」のグランプリを受賞した。そこで、UB JournalとUB noteの運営を担当している同社ブランディングチームマネージャーの山田聖裕氏、ブランディングチーム UB Journal編集長の筒井智子氏に、両メディアの制作にまつわるエピソードや今後の展望を聞いた。

筒井智子氏(右)。株式会社ユーザベース ブランディングチーム UB Journal編集長。新卒で金融業界向けITコンサルタントとして働く。2006年にリクルートエージェント(現リクルートキャリア)に転職し、キャリアアドバイザーとして様々な職種・業界を担当。2014年、WEB系企業へ転職し、BtoBマーケティングに従事。その後フリーランスのライターを経て、2019年に株式会社ユーザベースへ入社。カルチャーエディターとしてUB Journalの執筆編集やインナーコミュニケーションの活性化を担う。2020年1月より同メディア編集長に就任。
事業を伝えるサイトと、個人に焦点を当てたサイトを使い分ける

――ユーザベースの事業やプロジェクトごとにコンテンツが作られている記事型オウンドメディア「UB Journal」の他、「UB note」をスタートしました。それぞれどのような目的で情報発信をしているのでしょうか。
山田:2017年にブログとして始めて、2018年にオウンドメディア化したUB Journalは、事業の背景にある社員の葛藤やチャレンジ、ビジョンなどを伝えるメディアです。基本的にはチーム単位、あるいは誰かと誰かを掛け算にして取り上げています。採用のための情報発信を目的としており、人事担当部署が送るスカウトメールには、そのポジションに関連するUB Journalの記事リンクを貼って、メールでは伝えきれない内容を補足しています。
一方、UB noteは、事業やチームのことではなく、社員の人となりを紹介するため2020年8月に筒井が主導でスタートしました。UB noteはスカウトメールに貼り付けるのが主目的ではなく、noteというプラットフォームを通じて、より広い層に「こんな社員がいるんだ」と知ってほしいと考え、柔らかいコンテンツを中心に掲載しています。
筒井:UB Journalの記事は、事業のビジョンやチームのリーダーの考えは見えるけれど、求職者から見ると「自分がユーザベースに入社して、どんな仕事をするんだろう、同僚にはどういう人がいるんだろう」ということは見えにくいんですね。
UB noteでは個人にフォーカスを当て、トップの写真をポップなテイストにするなど、親しみを持ってもらうことを心掛けています。登場する人は各部署の採用担当者に推薦してもらっているのですが、より現場のことを知ってもらいたいので、最初のうちはなるべくリーダーや役員クラスを外すことを意識しています。とはいえ入社間もないメンバーだと仕事上のエピソードがまだ少ないので、なるべく社歴が2年以上あるメンバーに絞っています。
UB noteを立ち上げてよかったのはインナーにも効いたこと。特にコロナ禍で入社したメンバーは、まだリアルに会ったことがない人も多いんです。最近入社したメンバーから「こんな人がいるんだと知れてよかった」「同僚の●●さんがこんな思いを持っていたんだと驚いた」といった声が上がっており、インナーブランディングにも寄与できている手応えを感じています。
平均して2、3回は事前取材を重ね、記事のクオリティを上げる

――UB JournalとUB noteでは情報発信の役割を変えているわけですね。
筒井:そうですね。制作側の感覚としても全然違います。UB Journalはかなり気合を入れないと作れない。UB noteは外部のライターさんではなく私が書いているのですが、圧倒的に書きやすい。インタビュー中の雰囲気も全然違います。
山田:UB Journalで記事を作るときは、入念に事前取材するようにしています。リクルーターから「このポジションのこの記事がほしい」と言われたら、まずそのポジションの採用を進めている社員に話を聞き、その社員の周りや採用担当者にも話を聞きに行き、平均2、3回は事前インタビューして構成を組み立てています。
UB Journalをスタートした当時、「ブログ的ではない」クオリティを目指しました。オリジナルコンテンツが強い価値を持っているNewsPicksとSPEEDAの運営会社のオウンドメディアなので、並べても恥ずかしくないクオリティを目指したかった。そのためにNewsPicksのBrand Design(記事広告)編集者に実際に記事を作ってもらって、その様子を勉強させていただいたりもしました。結果としてわかったのは、記事は「問い」がすべてだということです。そのためには事前の情報収集はすごく大事です。また、NewsPicks の編集部はものすごい強度で取材をかけているので、僕たちも社内に対して誰よりも高い解像度を持つべきだと考えました。

――UB Journal、UB noteの運営はどのような体制で行っているのでしょうか。
山田:2019年は僕と筒井の2人体制でしたが、2020年から僕はほとんど編集にはタッチしていません。筒井が編集長として体制を整え、立ち上げ中のUB noteは筒井が自分で型を作っています。UB Journalについては、編集ガイドラインを整えて外部ライターさんを含めて5、6人のチームで運営しています。ただ、ユーザベースの事業を理解していただきつつ、社内にいる「人」への興味も併せ持つという方が少なく、外部ライターさんの採用には苦労しています。筒井はもともとキャリアカウンセラーで「人」にも興味があるし、事業会社でのコンテンツマーケティングやフリーランスのライター経験もあるので、ビジネスもわかるし記事も書ける。最初はうちに取材に来てもらったライターさんだったんですが、「この人しかいない!」と、最初は業務委託から入ってもらって、正式に社員として入社してもらうべく外堀から埋めていきましたね。
筒井:社内にNewsPicksをはじめ、尊敬するベテラン編集者がたくさんいるので、記事を公開するときは毎回ドキドキします。誤字脱字があったら光の速さで赤字が入るので、ありがたいですね(笑)。
スカウトメールに記事を貼ることで返信率が大幅アップ

――オウンドメディアの情報発信によって、求職者や社員にどのような効果がありましたか。
山田:定性的な反応で言うと、UB Journalに掲載した様々なチームの挑戦に共感して応募意欲が高まった人が多いようで、「UB Journalを見て面接に臨みました、入社を決めました」という声をいただくことがあります。UB noteはコンテンツの型を作っている段階なので効果測定はまだ行っていませんが、noteでの拡散と、どちらかというと入社意欲が高まった後に読みたくなるコンテンツなのかなという気がしています。
筒井:そうですね。UB noteのインタビュー対象は個人で、今はリーダーも外しているので、「この人と働きたい」という思いはUB Journalに比べると起きにくいのかなと認識しています。応募意図が固まった後で、どんな雰囲気か知りたいときに読んだり、リファラルに使ってもらったりするのがいいかなと思っています。

――オウンドメディアのKPIを数字で出すのは難しいという話をよく聞きます。そのため社内理解を得るのが大変だとみなさんおっしゃいますね。
筒井:UB Journalも、効果測定して結果を可視化するまでの1年ほどは、多忙なメンバーに取材を依頼する際、少し気後れしてしまう部分があったように思います。
山田:そうですね。UB Journalを立ち上げた当初「社員が紹介されてうれしいね」という反応はあったのですが、振り返りのタイミングで、当時チームの担当役員だった梅田(優祐・現 非常勤取締役)から「これいいと思うんだけど、なんのためにやっているんだっけ。単純に記事を出して楽しいということだったらボランティアと一緒だよね」という率直な指摘がありました。合わせて、「何に効くか考えると、僕だったら採用だと思う」というインプットがあったんですね。それで採用チームとタッグを組むことになりました。でも、「採用を支援します」というだけだとフワッとしてしまっていました。
その後、当時SPEEDA事業で採用が計画通りに進んでいなかったこともあり、稲垣(裕介・現 代表取締役Co-CEO)が、「SPEEDAで募集している全ポジションのコンテンツを作ろう」と言ってくれたんです。そこであらためてSPEEDA採用チームと一体になって、記事を作って、スカウトメールに貼って効果測定するという型ができました。その結果、業界平均の返信率が5%程度に対して、UB Journalの記事を貼ったもののなかには、返信率が20%以上に上がるものも出てきました。ユーザベースが大事にしている「渦中の友を助ける」というバリューを強く実感しましたね。
筒井:おかげで「UB Journalは採用に効く」という合意が社内で形成されたので、「一気に動きやすくなりました。最近では現場から「このポジションの記事を作ってほしい」とリクエストをもらうことも増えたので、それに応えるべく編集体制を整えているところです。
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採用活動だけでなく入社後の定着にも活かす

――採用に関する今後の展望について教えてください。
山田:まず一つは、いかに採用候補者へのリーチを増やすかですね。2020年12月に「Uzabase Connect Day 2020」というオンラインカンファレンスを開催させていただきました。これまでポジションに関する点と点の情報は伝えてきましたが、そもそもユーザベースにはなぜNewsPicksとSPEEDAという事業があるのか、NewsPicksは2020年10月にアプリリニューアルしたけど今後はどうなっていくのか、といった大きな話をする場がないと気付いたんです。今のところ事業も成長していることもあってスタートアップ業界内では注目していただいている感覚はありますが、それ以外の方にとってはまだまだニッチな企業だとつくづく感じています。今後はイベントを含めオムニチャネル化して、まだユーザベースを知らない人にも興味を持ってもらえるようなタッチポイントを開拓していきたいですね。
筒井:私は入社時からずっとHRマーケティングをやりたいと話しています。採用広報だけだとちょっと弱い。入社後にいかに活躍してもらうか、定着してもらうかといったところは、まだあまりノウハウ化されてないので、考えていきたいです。
ユーザベースではジョブディスクリプションに書いてある条件を満たしていても、カルチャーマッチしていないと採用しないと決めています。それくらいミッションやカルチャーを重視しており、採用プロセスも比較的長め。そこまでして入ってくれた方が早期に辞めてしまうのは、その方にとっても私たちにとっても損失なので、入社後の定着・活躍までを意識した施策をしっかり考えたいです。
――ニューノーマル下において、オウンドメディアリクルーティングに関し、新たに取り組んでいこうとしていることはありますか。
山田:さきほどの話とつながりますが、あらためて外向けの認知をどう広げていけるかでしょうか。まだまだユーザベースを知らないという方が多い。PVを追わないと決めたのでそうならざるを得なかったのですが、今後は認知を広げていきたいですね。ニューノーマルで言うとオンラインイベントや動画コンテンツが圧倒的に受け入れられやすくなった。この流れをうまく活かしていきたいと思います。
筒井:コンテンツの話で言うと、メンバーが得意な領域を社内向けに教えるセミナーを開催して、そのエッセンスを外にも発信するという、社内と社外のどちらにも効くような新しい企画を立てています。もう一つは、いままでは採用ポジションやチームを中心に伝えてきましたが、2021年はもっと直接的にカルチャーを紹介する記事を増やしたいと思っています。
社員インタビューをやっていて、本当に楽しいんですよ。「この人はこんな熱意を持って入社してくれたんだ」と直接話を聞いて、みんなに伝えることができるのは、社内編集者の特権だなと思います。

山田:筒井が楽しそうに働いてくれているだけで、採用した側としては幸せですね(笑)。ユーザベースは本人のwillを発揮できているかと、ハッピーに働けているかがすごく問われるカルチャーなので、まず僕たち自身がカルチャーを体現しているチームでありたいなと思っています。みんなが筒井みたいに生き生き働いていれば、会社としても強いですよね。僕たちのコンテンツの力でそういう人を増やしていきたいです。
筒井:社内のメンバーが協力的なのもすごく嬉しいですよね。他社のインハウスエディターから「なぜあんなに現場が協力してくれるの?」「現場をどうやって巻き込むの?」とよく聞かれます。私はそのことで悩んだことがないんですよ。
山田:SPEEDAの採用活動を通して、採用にmust haveなものを作ったからというのが大きいと思います。「この媒体に載りたい」と言ってもらえるようなオウンドメディアを作れたことと、なにより筒井さんに任せたらリアルな記事になるという信頼を作れたことが大きかったと思います。
Owned Media Recruiting AWARD 2020の授賞式での曽山さんからのコメントでも、サイトのトップからUB JournalやUB note、ジョブデスクリプションまでの細部の作り込みを評価いただきました。いずれも僕たちだけでは作り得なかったもので、グランプリは全社で受賞した賞だと本当に思っています。このたびは大変光栄な賞をいただきありがとうございました。
※ 所属部門・役職などは2021年2月当時のもので、現在と異なる場合がございます。
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