
ソフトバンクグループ企業の一つとして、ICT流通事業からメーカー事業、さらにサービス事業と拡大を続けるSB C&S株式会社。
社会のデジタル化のさらなる加速に対応するべく、同社は「誰よりも速く走れ」を採用メッセージとして打ち出している。圧倒的なスピード感を持った人材に刺さる発信はどのようになされているのか。
圧倒的なスピードで変化を続けるテクノロジー領域において、カルチャーマッチを最優先に一貫した発信を行う同社の情報戦略について、人材採用育成課 課長 村尾栄人氏に聞いた。

事業は幅広く、しかし人材へ求める要素はシンプルに

――SB C&S株式会社は、ソフトバンクグループ企業のIT流通事業を担う商社という位置付けになっています。事業領域が非常に幅広いですね。
村尾:1981年に株式会社日本ソフトバンクを設立して、最初に行ったのがソフトウエアの流通事業でした。ですので、SB C&Sはソフトバンクグループの原点とも言えるわけです。その後、2014年にソフトバンク コマース&サービス株式会社として分社・独立し、2019年に現社名へ変更されました。
現在は、販売パートナーを通じてIT関連製品やサービスを提供する法人向けICT流通事業と、ソフトバンクショップや大手家電量販店などを通じてソフトウエアやPC・モバイル周辺機器、IoT製品を提供するコンシューマ向け事業が主軸です。事業領域は、クラウドやセキュリティ、ドローン、ロボットなどにも広がっていて、40万点を超える多様な関連商品を扱っています。
また、メーカーとしての機能もあり、コンシューマ向けのモバイルアクセサリーの企画・製造も行っています。また、2019年からはSTEAM(※1)事業、2020年からはFinTech事業もスタートしています。
(※1)科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの観点を重要視し、ITベースの社会に適応したスキルを身につけるための教育理念
――多岐にわたる事業領域をカバーする人材に求められる要素も、幅広いものになるのでしょうか。
村尾:人材の採用は年間平均約100名で、中途採用が約60%、新卒採用が約40%です。中途採用は新規事業立ち上げのタイミングで募集することが多く、そのために必要な知識やノウハウを重視するジョブ型採用に近い形です。
とはいえ、求める要素としてのコアは共通していて、「チャレンジ精神」と「スピード感」を最も重視しています。これは新卒採用でも同様です。私たちの業界は特に変化のスピードが速く、新しい事業が次々と現れます。そのなかで成果を出し続けることが求められるので、変化へのチャレンジを楽しめるマインドが必要です。加えて、業務は常にマルチタスクで進むので、それに対応するスピード感も重要です。
――チャレンジとスピードを重視する姿勢は、採用サイトからも伺えます。以前から強く打ち出していたのですか。
村尾:現在の採用サイトは2020年11月にリニューアルしたものです。それまでのサイトは整理されているとはいえない状態で、求職者が知りたい情報にたどり着けないという問題がありました。中途採用に向けた情報もほとんどありませんでした。
当時の中途採用は基本的にエージェント経由で、大きな問題はありませんでした。しかし、事業の拡大に伴い中途採用が増えるにつれ、比較的早い段階で離職してしまう方も増えていきました。こうしたミスマッチが生じる原因は、やはり情報発信の不足ではないかと考え、採用サイトを全面的に刷新しました。

リニューアルに当たっては、事業内容やカルチャー、求める人材とポジションなどを、わかりやすく、率直に伝えることを強く意識しました。また、中途採用、新卒採用を区別せず、基本的には同じメッセージを伝えています。
別々の発信を行うと、コアとして受け取って欲しいニュアンスがブレてしまう可能性があります。当社をしっかりと理解してもらうため、情報やトーンの一貫性は特に注意をしています。
オウンドメディアリクルーティングの観点から見る、効果的な採用サイトや採用コンテンツの考え方についてはこちらもご覧ください
求める要素として高いレベルを求めながら、求職者の視点も考え抜く

――採用サイトでは率直な情報発信を意識されているということですが、どのページもあらゆる要素が非常に端的なワードで表現されています。どのように言語化されたのでしょうか。
村尾:人事の視点だけでは求職者の視点と乖離する危険性があるので、客観的な視点からの情報をもとに言葉や表現を選んでいます。ですので、共感したメッセージは何だったか、仕事を選択する際に必要とした情報は何かといったことを社員にヒアリングしました。その結果を踏まえつつ、現場で活躍している社員に共通する評価や特徴を加味して、メッセージにまとめ上げています。
また、「求める人物像」で掲載しているワードに関しては、社内評価の項目に加え、選考の際に適性検査として取り入れているSPIの評価項目も参考にしています。現在活躍している社員の結果を分析し、特徴的な要素を求職者の方々にわかりやすい言葉へ変換して発信しています。
――採用サイト全体がシンプルかつソリッドなメッセージでまとめられている一方で、「プロジェクトストーリー」や「社員インタビュー」「社員対談」は、社員の温度感が伝わって来ます。これらのコンテンツの制作意図を教えてください。
村尾:これらのコンテンツの目的は、「多岐にわたる当社の事業を理解してもらうこと」と「安心感を届けること」です。
プロジェクトストーリーでは、現在「mixpace」と「STELABO」の2つの事業を紹介しています。前者は主に製造業・建設業向けの「3D CAD/BIM・3DCGファイルのAR/MRみえる化ソリューション」のサービス、後者はSTEAM・ICT・プログラミングを教える小学生向けの教育スクール事業です。当社の事業のなかでも先進的な領域について具体的なイメージを持ってもらうためのコンテンツです。登場する社員のグレードやポジションも様々なので、事業に対する多様な視点も紹介できていると思っています。

また、社員インタビューや社員対談では、より人にフォーカスして仕事への想いを語ってもらうことで、求職者の共感を引き出せるものにしています。
実は、さきほど申し上げた社員アンケートのなかで、入社後に想像以上にスピードとマルチタスクを求められることにギャップを感じた人が一定数いることがわかりました。その要素は冒頭でもお伝えしたように求める要素として発信していたもので、それを踏まえて入社いただいたわけですが、それでもギャップがあった。
そのため、特にキャリア採用対談では、「入社当初、業務のあまりのスピード感に面食らった」などのリアルなエピソードにもふれてもらっています。今活躍している社員でも、最初から完全にフィットできていたわけではないことを届けられればと思っています。

企業の魅力を届けるべく、メディア活用と内部の地固めを進める

――2020年11月の採用サイトリニューアルから1年が経とうとしています。この間の情報発信の成果はいかがですか。
村尾:明確に成果として出ているのは早期退職数の低下です。もちろん、入社後の教育やフォローなども寄与していますが、採用サイトリニューアルから新規入社者の早期退職は、ありません。情報の充実と、一貫性のある発信で、ミスマッチが減った結果だと思います。企業と求職者の接点として、採用サイトの重要性をあらためて実感しました。
――採用サイトを含めて、これからのオウンドメディアのあり方、発信の方向性などについての考えをお聞かせください。
村尾:私たちのようなBtoB企業は消費者との直接的な接点が少なく、どんな会社なのか伝わりにくいという課題があります。ソフトバンクグループ自体の知名度は圧倒的ですが、SB C&Sは知らないというのが現状です。ですので、まずはSB C&Sをもっと知ってもらう必要があります。
そのためには、様々なチャネルの活用が重要で、採用サイトの充実やSNSの強化といったことを目下検討中です。中途採用に関しては、採用サイトでの発信に注力した結果、ほぼエージェント頼みだったところから、リファラル等を通じ、サイト経由での応募が30~40%を占めるようになり大きく様変わりしています。
今後は口コミを通じて、SB C&Sが働きがいのある会社だったり、働きやすい環境が整備されていたりすることなどを広め、求職者の人気を高めることを目指します。
――求職者の人気を高める具体的な対策には、どのようなものが考えられるのでしょうか。
村尾:対策というより指標になりますが、一つは年々増えているリファラル採用をより活発にしていきたいと思っています。社員が会社に魅力を感じているから入社を勧めるわけで、その件数の増加は会社の良さが社内に浸透していることになります。そこから自然と外部に漏れ出していくようになると良いと考えています。
また、一度退社した社員が戻ってくるケースもあります。理由は様々ですが、何かしらSB C&Sに魅力を感じてもらえていたことは確かです。そういう人から、SB C&Sの魅力を外に向かって発信してもらうことも考えられます。一度退社した方々に、SB C&Sを再発見してもらうためにも、「今こんなことに取り組んでいる」ということは常に発信し続ける必要があります。そのためにもオウンドメディアの活用は今後ますます重要になります。
今後、本当に自社の求める人材を採用していくためには、ターゲットを「今まさに仕事探しをしている人」に限定せず、あらゆるタイミングの方々の目にふれるよう、多角的な情報発信が不可欠です。そうした発信のベースとして、採用サイトを含めたオウンドメディアを充実させられればと思っています。