「メンター制度」は、おもに他部署の先輩社員がメンターとなり、定期的な面談を行いながら後輩社員をサポートする制度です。メンター制度の導入支援をしている、いでぐちコンサルティングオフィス代表出口晃司さんに導入するメリットや導入までのステップを伺いました。

メンター制度とは

メンター制度は、おもに先輩にあたる社員が定期的に面談を行いながら後輩社員の相談に乗り、サポートする制度です。相談する側の人を「メンティー」、相談に乗る人を「メンター」と言います。

メンタリング(面談)は社員教育の一環で、業務時間内に行われます。

◆企業がメンター制度を導入する背景

企業がメンター制度を導入する背景として、下記要因によるコミュニケーションの希薄化が挙げられます。

・1人当たりの仕事量の増加

決められた時間内に効率よく業務を終わらせる必要があるため、コミュニケーションの一環となる雑談の時間などが取りづらいことがあります。

・価値観の多様化

価値観の多様化に伴い、職場のコミュニケーションのあり方も多様化しています。たとえば、職場の飲み会を「仕事の一環」と位置付けるのか「仕事と飲み会は別」ととらえるのかは従業員によって異なります。こうした背景により、上司が部下とどうコミュニケーションを取ったらいいのかわからなくなるケースが生じています。

・インターネットの普及

オンラインの発達により、情報の共有は円滑になる反面、雑談などのコミュニケーションの機会が減少し、気持ちの共有がしにくくなるなどの課題があります。また、テキストコミュニケーションが増え、電話応対や対面のコミュニケーションに苦手意識を持つ人がいることが挙げられます。

テレワークの増加も要因の一つです。企業によっては、内定式や入社式もオンラインで実施するケースもあるなど、上司・先輩や同期との関係性を築きにくくなっていることが影響しています。こうした状況を改善するために、メンタリングが必要です。

上司、先輩との違いは?

上司や先輩とメンター制度の違いは、対象者と指導者の関係性です。

  • 上司や先輩…上下の関係(対象者と同じ部署)
  • メンター…ななめの関係(対象者と異なる部署)

メンターとメンティーの部署を異なるものにすることで仕事上の利害関係をなくし、メンティーが相談しやすい環境をつくることができます。

エルダー・チューター・ブラザーシスター制度との違い

メンター制度と似たものに、「OJT」「チューター」「エルダー制度」「ブラザーシスター制度」があります。それぞれの違いは下記の通りです。

OJTの対象は新入社員、
指導者は同じ部署の上司・先輩、
期間は新入社員1〜3カ月、
指導内容は仕事(技術)、
目的は新人の業務習得。

チューターの対象は新入社員、
指導者は同じ部署のベテラン社員、
期間は新入社員1〜3カ月、
指導内容は仕事(技術)、
目的は新人の業務習得。

エルダーの対象は新入社員、
指導者は同じ部署の若手先輩社員、
期間は新入社員1〜3カ月、
指導内容は仕事(技術)+仕事の相談、
目的は新人の育成。

ブラザーシスターの対象は新入社員、
指導者は同じ部署の若手先輩社員、
期間は新入社員1〜3カ月、
指導内容は仕事・プライベートの相談アドバイス、
目的は新人の育成・定着。

メンターの対象は目的に応じて、
指導者は他部署の先輩、
期間は半年〜数年、
指導内容は仕事・プライベートの相談アドバイス、
目的は企業により様々。

OJTとメンター制度は指導者や指導内容が異なるため、かけ合わせるとより効果を発揮しやすくなります。

◆メンター制度の実施期間

メンター制度の実施期間は半年〜数年と幅が広く、導入の目的に合わせて期間を設定します。

たとえば、新入社員の定着率を上げたい場合、メンタリングのプログラムは1年間を目安に行います。1年かけてメンターとメンティーに信頼関係を構築してもらい、プログラム終了後も関係性を継続させることが狙いです。

一方、新入社員が入社する度にマッチングが必要になるため、数年かけて研修を実施し、メンターを育成することで、定着率の向上につながります。

メンター制度のメリット、デメリット

◆メンター制度のメリット

・社員定着の促進につながる

業務以外のことを相談できる相手ができることで、離職率の低下につながりやすくなります。新入社員が対象となるケースが多いですが、中途社員や若手社員も該当します。

・女性活躍の推進につながる

結婚や出産を経験した女性社員が同じような状況の後輩社員のメンターになることで、メンティーが働きやすさを感じられたり、キャリアを描きやすくなったりします。

・リーダー・マネージャーを育成できる

メンター研修やメンタリングを通じ、メンターとなる先輩社員もコミュニケーションを学ぶことができ、後輩や部下の育成に役立てられます。

・組織の風通しの良さにつながる

メンターとメンティーのマッチングは、他部署の社員同士で行います。部署間のコミュニケーションが活性化され、会社の風通しが良くなります。

・採用時の強みとして打ち出しやすい

組織の風通しの良さは採用活動において1つの強みとなります。その結果、人が集まりやすくなります。

・メンタルヘルス対策

50名以上の労働者がいる事業所に1年に1回の実施が義務付けられている「ストレスチェック制度」があります。この項目の一つに、「個人的なことを相談できる人が組織にいるかどうか」があります。メンターに悩みを聞いてもらうことで、メンタルヘルスに関する課題の解消につながります。

・組織の理念・技術・ノウハウの伝承

メンタリングを通じてコミュニケーションを取る中で、先輩社員から後輩社員に組織の考え方や業務について伝えることができます。

・組織風土の醸成

メンター制度の導入は新入社員の定着を目的として行うケースが多いです。本来の目的を果たせると「なぜ新入社員が定着しなかったのか」と根本的な原因として組織のあり方が問われるようになります。ここから管理職のメンタリングに移行するなど、数年をかけて組織風土を醸成します。

◆メンター制度のデメリット

・従業員の業務時間を割かれる

メンターとメンティーは定期的にメンタリングをするため、通常の業務にあてる時間が減ってしまいます。組織全体が「社員教育のためで、これも業務の一環」と理解することで、業務を分担するなど協力体制が生まれやすくなります。

メンター制度の成功事例

メンター制度がうまくいったケースを紹介します。

メンター:60歳の社員(技術職)
メンティー:18歳の新入社員

メンターが積極的にコミュニケーションを学びたいと申し出たことからマッチングされました。メンタリングを通じて、メンティーがメンターにコミュニケーション方法を教える機会もあり、年齢差に関わらずいい関係性を構築できたそうです。

メンター自身もメンタリングを通じてコミュニケーションを学び、自身のOJTに生かすなどのメリットを得られました。

このように、年齢差があってもうまくいくケースがあります。画一的な情報にとらわれず、社員の性格や目的に合わせてマッチングすることが大切です。

また、メンター制度の導入や運用にはノウハウが欠かせません。我流で取り入れようとせず、専門家を活用するとうまくいきやすくなります。

メンター制度導入の流れと注意点

◆メンター制度導入のステップ

メンター制度導入の手順は、下記の8つです。1カ月〜3カ月かけて準備します。

1.課題抽出
「新入社員の定着率が悪い」「高齢化している」など、まずは組織が抱える課題を洗い出します。

2.目的の明確化・目標設定
1で抽出した課題を元に、目的を設定します。たとえば、「新入社員が辞めている」という課題の場合、「何年に何名が辞めているのか」「入社後何カ月で辞めているのか」など具体的な数字を把握し、精査することが大切です。

「10名入って3名辞めているから離職率30%」のように数値がわかれば、「離職率を10%まで下げる」など、目標を具体的に設定できます。

3.経営陣への説明・合意
トップや経営陣にメンター制度を理解してもらい、協力体制を得ることが大切です。

4.推進チーム編成
メンターとメンティーは、「月に1回、1時間」など、定期的にメンタリングをします。業務時間内に実施するため、社員一人が担当するのでなく、チームで推進する必要があります。人事部以外に他部署も巻き込んだチーム編成が望ましいです。

5.制度構築
面談の頻度やメンタリングを実施予定日と実施日の報告など、具体的な内容を決めます。会社の繁忙期なども考慮し、現実的な方法にすることが肝心です。

6.メンター候補者研修
メンター候補者を何名か選出します。マッチングの際に相性が合わない可能性を考慮し、メンティーよりも多めに選ぶことがポイントです。このときに、「コミュニケーションを学べる」などメンター自身のメリットも伝えると、協力してもらいやすくなります。

7.対象者の選出
人事がメンター候補者の中から対象者を選出し、メンティーとのマッチングをします。人事が入社時に把握している趣味や出身地を参考に、共通の話題が見つかりそうな社員同士を組み合わせるほか、メンティーのロールモデルとなるメンター候補社員、「入社5年目の社員」などで絞るケースもあります。

なお、導入時は、コミュニケーションが得意なメンター候補社員を選出するとうまくいきやすいです。

8.メンター養成研修
2時間程度の研修を年に数回実施し、メンタリングの課題抽出やメンターが多様性に関する知識や傾聴スキルを学ぶ機会を設けます。研修を行うことでペアの様子を確認でき、メンタリングがうまくいっているかどうかを推進チームが把握しやすくなります。

なお、場合によっては、別のペアとのグループワークを介してそれぞれのコミュニケーションを学ぶこともあります。

◆企業がメンター制度を導入する際のポイント・注意点

・メンタリング実施予定日と実施日の報告を徹底する

メンターやメンティーが多忙などを理由にメンタリングを実施していないケースがあります。対象者にメンタリング実施予定日と実施日を報告させることで、このような事態を防ぐことができます。

・メンタリングの内容を報告させない

企業によっては「成果を把握したいから」と対象者にメンタリングの内容を報告させるケースもあります。しかし、報告を前提とするとメンティーが自身の悩みを相談しづらくなるため、前述したメンタリング実施予定日と実施日の報告のみに留めましょう。

・相談窓口を設ける

メンタリングがうまくいっていないときなど、メンターやメンティーが困ったときに相談できる窓口を設けます。推進チームが相談窓口を兼ねるケースが多いです。

メンター制度は導入して終わりでなく、正しく運用することで効果を得られます。専門家に相談するなどしっかり準備をした上で導入し、課題改善に働きかけましょう。




※記事内で取り上げた法令は2022年12月時点のものです。

<取材先>
いでぐちコンサルティングオフィス 代表 出口晃司さん
大学卒業後、投資会社の勤務経験を経て、2015年7月人材育成のコンサルタントとして独立起業。新入社員研修や営業力、メンター制度導入支援など様々な分野の研修、アドバイスを行う。2020年から日本メンター協会と業務提携を結び、メンター制度の導入支援や研修など、プロフェッショナルなサポートを行う。

TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

マンガで解説 Indeedで求人をはじめよう!ダウンロードはこちら