時給は一方的には下げられない
日本では労働契約法の第3条で「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」と定められています。そのため、事業者が一方的に従業員の時給を下げることは従業員に対する不利益変更にあたり、違法となる可能性があります。
時給の引き下げや一時的に減給を行うことができるケースとは
ただし、時給を下げることが認められるケースもあります。合理的な理由があり、事業者と従業員の双方が時給の引き下げに合意した場合です。また、従業員の勤怠や業務態度に問題があり、懲戒処分として一時的に減給を行う場合があります。具体的な例を見てみましょう。
◆例1:従業員側と事業者の双方が時給の引き下げに合意した場合
とある飲食店では、新しくアルバイト従業員Aさんを採用しました。採用時の面接で過去に飲食店での勤務経験があったこと、その際は店長をしていたというAさんの言葉から、他のアルバイト従業員よりも時給を高く設定して採用しました。
しかし、実際の勤務が始まるとあまりにもミスが多く、モチベーションの感じられない勤務態度で、飲食店の店長をしていたとは到底思えませんでした。
そのため事業者側は、理由とともに他の従業員と同額の時給にすることをAさんに伝え、本人も承諾したため、Aさんの時給を引き下げることにしました。
◆例2:懲戒処分として一時的に減給を行う場合
とある飲食店で働く従業員Bさんは、業務時間内に何度も私的な用事で無断外出をしたり、業務に必要な手順を守らずミスを繰り返したりしていました。その度に上司から注意をするのですが、改善が見られません。
こういう場合、会社としては懲戒処分を検討することがあります。その際、問題の程度にもよりますが、いきなり「減給」のような重い懲戒処分を行うのではなく、軽い処分から徐々に重い処分へと進めることが多いです。
まずはBさんに「戒告」として口頭または文書で、具体的にBさんのどのような勤務態度を改めてほしいのかを明示した上で厳重注意を行います。それでも改善がみられない場合は、「けん責」としてBさんに始末書を提出してもらいます。その後も改善されない場合、懲戒処分としての「減給」を行うことになります。
懲戒処分として減給を行う場合の注意点
勤務態度などからやむなく減給処分を行う場合があることを想定し、就業規則には懲戒処分の根拠となる定めを入れておきましょう。
減給に関わる規定を就業規則に設ける際の注意点としては、「戒告、けん責、減給、解雇に処する」等、制裁の種類を明記すること、その上で「懲戒となる行為を繰り返す場合は、その懲戒を加重する」と加え、減給もしくは解雇の可能性があることを明示しておくことが重要です。
時給はどのタイミングで上げるべき?
では、時給の引き下げとは反対に昇給させる場合にはどのようにすべきでしょうか。従業員の昇給に関しては、下記を考慮した上で決定します。
- 従業員の会社への貢献度
- 従業員の勤続年数
- 従業員の知識、経験、技術向上の度合い
- 会社の業績
- 就業規則などによる取り決め
事業者側の視点としては、できるだけ安い賃金で労働力を確保したいと考えがちですが、労働者は反対に、自分の労働力をできるだけ高く評価してくれる職場を探すものです。低い賃金で雇用し続けていると、労働者が他の会社へ転職してしまい、労働力の確保ができなくなる可能性もあります。
その場合、時間と採用コストをかけて新しい人材を探すことになり、新人教育のコストもかかるでしょう。労働力の流出を防ぐ方法として、時給の見直しは有効な手段と考えられます。
どのように昇給の時期を設定するべきなのか
時給を上げる時期は会社によってさまざまですが、「新しい仕事を任せるとき、モチベーション向上のために時給アップする」ケースや、「最初は見習い時給、その後、勤続年数○年で何円アップする」という年功序列の形式をとるケースなどがあります。
また、ほかに能力給の制度を設ける場合もあります。短期間のパートタイマーであれば必要ないかもしれませんが、長期に渡って雇用し、会社の戦力となっている従業員がいる場合、重要な労働力を他へ流出させないために検討してみるのも良いでしょう。
昇給を行う上での注意点
自分の能力や勤続年数が評価され、昇給するのはうれしいものです。しかし、一方で「100万円の壁」「103万円の壁」「106万円の壁」「130万の壁」問題があります。定められた収入制限を超えると、配偶者の被扶養者として様々な控除を受けられなくなってしまうというものです。
具体的には、被保険者の1月1日~12月31日までの1年間の所得が100万円を超えた場合、住民税課税の対象となり、保育園や公営住宅の優先入所、医療費助成などの自治体サービスの一部が制限されることがあります。
103万円を超えると、所得税課税の対象となり、所得税の配偶者控除が受けられなくなります。
130万円(一定規模以上の会社 は106万円)を超えると、社会保険の対象となり、健康保険などが夫(妻)の被扶養者と認定されず、自身で社会保険料を支払うことになります。
昇給を喜ぶ人が多いのは事実ですが、従業員の中には所得制限を超えないように働いている人もいるため、昇給を検討する際に昇給を行っても問題ないかを本人に事前確認しておくのがおすすめです。
時給を変更する場合は、事前に確認をとってトラブル防止を
お金に関することはトラブルの要因になりやすいものです。しっかりと雇用条件や就業規則の内容を伝えた上で従業員を採用しましょう。アルバイトやパート従業員は、職場の重要な戦力です。良好な関係を築き、みんなにとって働きやすく良い職場にしたいですね!
監修:汐留社会保険労務士法人
TEXT:富山もえり
EDITING:Indeed Japan + 成瀬瑛理子 + ノオト