そもそも、請求書の電子化とは?
請求書の電子化とは、Web上で請求書を発行し、メールなどの電子サービスを通じて取引先などに送付することをいいます。
請求書の電子化には、次の方法があります。
- Web上で作成した請求書をPDFに変換してメールで添付する
- クラウドサービスを利用して請求書を作成し、取引先にダウンロードしてもらう など
請求書の電子化、法的な有効性は?
請求書の電子化は、「電子帳簿保存法」と「e-文書法」により認められています。
◆電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法(以下、電帳法)は、国税関係の帳簿書類の電子化を認めた法律で「e-文書法」の施行に合わせて2005年に一部改正されました。
国税関係帳簿書類の保存義務者(以下「保存義務者」といいます。)は、国税関係帳簿の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合には、一定の要件の下で、その電磁的記録の備付け及び保存をもってその帳簿の備付け及び保存に代えることができることとされています。
出典:国税庁 電子帳簿保存法の概要
原則として紙での保存が義務付けられている帳簿書類に対し、以下を定めたものです。
- 一定の要件を満たした上で電子データによる保存が可能
- 電子的に受け渡した取引情報の保存義務等を規定
2021年の改正では、電子的にやりとりした取引情報を電子データとして保存することが義務付けられる予定でした。しかし、要件に従って電子データを保存することが難しい企業への配慮から、2021年12月10日に発表された「税制改正大綱」で、2年間の宥恕(ゆうじょ)措置が設けられました。
この措置により、2023年12月31日までは電子請求書を紙に印刷して保存することが引き続き認められています。
◆e-文書法とは
e-文書法とは、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」を総称した法律です。
民間事業者に対し、法令で義務付けられた書面による保存などに代わり、電磁的記録による保存を認めたものです。
請求書の電子化のメリット
請求書を電子化するメリットは以下の通りです。
・テレワークに対応できる
請求書の承認や送付のために出社する必要がなくなるなど、企業がテレワークを推進しやすくなります。
・ペーパーレス化を推進できる
紙で発行する必要がなくなるため、ペーパーレス化の実現につながります。
・経費削減につながる
請求書を印刷する用紙やインク代、切手代などに加え、電子化でテレワークが進めばオフィスの賃料が抑えられるなど様々な点から経費を削減できます。
請求書の電子化を進める際のポイント
◆電帳法を見据えた導入がポイント
2023年10月から開始する「インボイス制度(※1)」に備えて「電子インボイス」を検討するなど、これから請求書の電子化を進めるのであれば、電帳法2021年度改正への対応を見据えた導入をすることが肝心です。
たとえば、以下の内容を行う必要があります。
- 請求書を一括で管理する
- 請求書を管理するフォルダに検索機能をつける(検索機能のあるクラウドサービスを利用する)
- 請求書を添付したメールごと保存する など
自社のフォルダなどを利用してクラウド上で管理してもいいですが、電帳法に対応したクラウドサービスを活用するのも方法の一つです。
また、一定の要件を満たし「優良な電子帳簿」と認められれば、過少申告をした際に罰金を軽減できる措置が適用される可能性があります。詳細は、国税庁の「〜優良な電子帳簿の要件チェックシート〜」に書かれています。
※1…正式名称を「適格請求書保存方式」といい、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式。適格請求書保存方式は、請求書や領収書などの書類を指す。仕入税額控除の要件として、「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が必要である。
◆クラウドサービスを選ぶ際のポイント
クラウドサービスを選ぶ際、以下のポイントを押さえておく必要があります。
・電帳法に対応したものかどうか
請求書の一括管理など、電帳法の対応を掲げたサービスを利用するとよいでしょう。
・信頼性のある会社のサービスかどうか
電子帳簿は利用中のクラウドサービスが途中で提供を終了してしまった場合、データの新たな保管先や移行などを検討する必要が生じます。そのため、信頼性のある会社が提供するサービスかどうかを見極めることが重要です。
◆請求書を電子化する際に発生する業務
請求書の電子化を導入する際には、様々な業務が発生します。
・ロードマップを作成する
導入までに発生する工程や請求書を電子化する目標などの全体像を見据えた上で、着手する必要があります。
・業務フロー全体の見直し
メールの保存方法や管理方法に加え、電子請求書にした場合、承認も電子で行うなど新たな業務フローが発生します。
・社内規定の見直し
現状の社内規定が紙の請求書のみに対応している場合、電子化に対応した規定を作成する必要があります。
・取引先への連絡
請求書の電子化に対応できるかどうかを取引先に確認します。
・社内調整
社内規定の見直しは法務、取引先への連絡は営業など、様々な部署との連携が必要です。
・システムの選定 など
請求書の管理方法やクラウドサービスを選定します。
監査を受けるような比較的規模の大きい企業の場合、内部統制監査への対応も必要となります。
請求書の電子化の注意点、落とし穴
◆請求書の電子化の注意点、落とし穴
電子化の導入には次のような懸念点があります。
・現場からの反発を招く恐れがある
電子化を運用する際、現場には様々な負担が生じます。たとえば営業担当者の場合、取引内容が書かれたメールをすべて経理に送るなど新たな業務が発生します。経理担当者は、請求書を取りまとめて一括で管理する必要があります。こうした業務フローの変更により、現場からの理解を得ることが難しいケースも生じます。
・電子化への費用対効果が見込めない場合がある
テレワークの導入が難しい業種は、電子化へのメリットを享受できない可能性があります。また、予算や人手が足りない企業の場合、電子化を導入するには大きな負担を伴います。
上記に加え、取引先から請求書を紙で発行することを求められている場合、仮に電子化しても一部の取引先のみ紙で請求書を発行するなど個別対応が必要になり、その分管理が煩雑になります。
◆請求書の送付で気をつけること
PDF化した請求書をメール添付する場合、誤送信など情報漏洩のリスクが生じる可能性があります。送信取消機能がついたツールや信頼できるクラウドサービスを利用すると、このようなリスクを回避できます。
デジタル化の時流に沿っているからとやみくもに請求書の電子化を進めるのではなく、自社に向いているか、メリットがあるのかなどを総合的に考えて判断することが重要です。
※記事内で取り上げた法令は2022年3月時点のものです。
<取材先>
大野静香公認会計士税理士事務所 代表 公認会計士 税理士 大野静香さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト