発生主義・実現主義とは
発生主義・実現主義は大まかな部分は同じであり、どちらも次のように定義されています。
すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない。
ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。
引用:企業会計原則 第二 損益計算書原則 一A
企業は、取引が発生した事実に基づき費用や収益を計上します。ただし、取引発生時に売上が確定していない「未実現収益」は損益計算に計上できません。そのため「未実現収益」が計上されないよう、収益については実現主義を採用します。
実現主義で収益を認識する際、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 財貨または役務の提供があった場合
- 現金または現金同等物を受領した場合
◆企業の会計処理の基準
企業の会計処理の基準は、その基準となる「企業会計原則」で、次のように定められています。
- 費用:複式簿記で「発生主義」を採用
- 収益:複式簿記で「実現主義」を採用
現金主義とは
現金主義とは、現金の入出金に基づき費用と収益を計上する方法です。
実現主義と現金主義の売上計上の違いは、以下の通りです。
例)2021年度の会計処理で、翌期に売上の入金がある場合
・実現主義の場合
入金が保証されているため、帳簿の「売掛金(※1)」と「売上」に金額を記載します。
・現金主義の場合
年度内に入金されないため、売上として計上されません。
現金主義は青色申告をしている個人事業主に認められるケースがありますが、原則として企業には認められていません。仮に現金主義を採用している場合、税務調査などで指摘を受けるリスクが生じます。
(※1)…掛取引(代金を後払い)で販売した分の売上金額を示している項目のこと。掛取引とは商品取引の支払い方法の一つで、商品の引渡し時には代金を支払わず決められた期日までに後日支払うこと
◆企業に現金主義が認められるケース
下記のように、例外として企業に現金主義が認められるケースがあります。
法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
引用:法人税基本通達2-2-14
上記は、「重要性の原則(※2)」に基づき、継続的に現金主義を採用している場合は税務上も認められることを意味します。この重要性の原則の内容は、企業によって様々です。たとえば、会社が扱う金額が少なく、会計処理を現金主義から発生主義に変更しても決算数値が大きく変わらない場合は、会計処理として手間のかからない現金主義をそのまま採用することがあります。
この場合、特別な届出は必要ありませんが、税務調査が来た際に重要性の原則について調査官が納得する説明ができるかどうかが肝心です。
(※2)…重要性の乏しいものに関しては、簡便な方法での処理が認められること
会計の3つの主義の関係
企業の基本的な会計処理の基準として、発生主義と実現主義があり、その対比として現金主義があります。企業が現金主義を採用することは原則としてありませんが、会計処理の基準の一つとして認識しておくとよいでしょう。
それぞれのメリット、デメリット
発生主義・実現主義、現金主義のメリット、デメリットは、次の通りです。
◆発生主義・実現主義のメリット
・適切な期間で損益を把握できる
実際に発生した期間に取引が計上されるため、適切な期間損益を把握できます。
・掛取引を把握できる
実際に現金のやりとりが発生しない場合でも、発生主義・実現主義では、取引の計上ができます。また、翌期以降に生じる入出金について、時期や金額を管理しやすくなります。
◆発生主義・実現主義のデメリット
・会計処理が煩雑になる
掛取引も含まれるため、計上する勘定が増えてしまいます。
・実際の現金の動きと帳簿上の数値にずれが生じる
帳簿上は利益が出ていて黒字なのに、手元の現金がなくなり倒産する「黒字倒産」になるケースもあります。このような事態を避けるために、企業は帳簿とは別にキャッシュフロー計算書や資金繰り表などを作成して現金を把握します。
◆現金主義のメリット
・会計処理が簡便になる
支払いや売上などの入出金をもとに売上や費用を計上するため、処理がわかりやすく、管理の手間が少ないです。
・実際の現金の動きと帳簿上の数値が連動している
実際のお金の出入りを把握でき、黒字倒産のような事態を避けられます。
◆現金主義のデメリット
・適切な期間損益を把握できない
現金の収支のみに基づき取引を計上するため、取引の発生と損益が結びつかず、経営判断に使用することが難しいです。
・掛取引を把握できない
実際の入出金をもとに取引を計上するため、現金のやりとりが発生しない取引は計上されません。
一般的な企業の会計処理に発生主義・実現主義が採用されている理由
企業の会計処理に発生主義・実現主義が採用されている理由は以下の通りです。
・企業会計原則で定められている
「発生主義・実現主義とは」で前述した通りです。
・法人税法上の規定がある
「法人税法第22条第4項」で、次のように定められています。
第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
引用:法人税法第22条第4項
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は、会計上の企業会計原則を指します。つまり、法人税法上の税金計算の基準も会計と同じ方法が用いられ、収益は実現主義、費用は発生主義ということになります。
◆2022年4月1日から適用される「収益認識に関する会計基準」
2018年3月30日に企業会計基準委員会より「収益認識に関する会計基準」が公表されました。収益を実現主義で計上する際の認識基準があいまいであることから、包括的な認識基準を設ける必要性が生じたことがその背景で、2021年4月1日以後開始する事業年度から強制適用されます。
なお、この基準が強制適用されるのは、会社法上の大会社や上場会社など、比較的規模の大きい企業です。
上場していない中小企業は引き続き実現主義のままで収益を計上できますが、将来的に上場を目指す企業などは、新しい基準の適用も可能です。
※記事内で取り上げた法令は2022年3月時点のものです。
<取材先>
大野静香公認会計士税理士事務所 代表 公認会計士 税理士 大野静香さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




