IPOとは?
IPO(Initial Public Offering)とは、「新規公開株」「新規上場式」とも呼ばれており、株式会社が初めて自社株を公開し、一般の投資家が株式を取得できる状態にすることを言います。企業がIPOを視野に入れる場合、まずは監査法人によるショートレビュー(予備調査、短期調査、クイック・レビュー等と呼ばれることもある)を受けなければなりません。これは主に、上場に向けて財務面の課題を抽出するためのものです。
また、近年ではそれと合わせて人事労務面の課題を抽出する、労務DD(労務デューデリジェンス)が重視されるようになりました。たとえば未払い賃金の有無や社会保険加入の徹底、あるいは有給休暇などがルールに沿って運用されていなければ、簿外債務(貸借対照表に計上されていない債務)として、財務体制にも少なからず影響を及ぼすこともあります。
IPOを目指す場合、適正な財務・労務体制の運用実績が必要であるため、こうした体制の見直しを3期前からスタートするのが一般的です。最初の1~2年で課題を洗い出して改善し、直前の1年で適正な財務・労務体制の運用をはかる、というフローとなります。
IPO前に起こりがちなトラブル
IPOへの準備段階では、財務・労務の両面から様々な問題が浮き彫りになります。以下、ありがちな具体事例をチェックしていきましょう。
◆勤怠管理の不徹底
A社ではこれまで、厳密な勤怠管理が適切に行なわれてこなかったため、年間どれほどの時間外労働が発生していたのか把握できていませんでした。しかしIPOを前に、この特定できない時間外労働分の残業代が、未払い賃金に相当することが判明します。A社は退職者も含めた当該社員に過去の労働状況をヒアリングするなどして、個々のみなし時間外労働時間を算出し、精算することになりました。
◆労働条件通知書の不備
B社では、労働条件通知書に固定時間外手当の詳細を明記せず、当該社員全員に対して一定の金額を支払っていました。会社側としては固定時間外手当に、時間外労働や深夜労働の割増賃金をすべて含めている認識でしたが、IPO準備中に退職者から「自分は名ばかり管理職で、適切な手当てを受け取っていない」と未払い残業代請求があり、訴訟トラブルに発展します。結果的にIPOを断念する事態に追い込まれてしまいました。
◆「労働時間」の認識の不一致
C社の就業時間は10時から19時までのため19時以降は、時間単位で残業手当が発生します。ところが、19時から20時の間は誰しも夕食をとるものと会社側が勝手に判断し、19時以降も就業していた全従業員に対して、自動的に1時間を労働時間から控除していました。しかし、IPOを控えた時期に、社員から「夕食を取らずに働いていました」と申告があり、これが未払い賃金になると大問題となります。結果的に退職者も含めて、過去2年分の未払い残業代を精算することになりました。
IPOに失敗する企業の傾向とは
IPOは企業の夢ですが、すべての企業がそれを叶えられるわけではありません。そして、IPOに失敗する企業には、一定の共通点が見て取れます。それは総じてコンプライアンス意識が低い傾向にあることです。
労働契約は適切に交わされているか。違法な懲戒や異動はないか。雇用確保措置を講じているか。企業を取り巻く法令は非常に多岐にわたり、なおかつ次々に改正されています。だからこそ、常に最新情報をキャッチアップすることが、適切な財務管理、労務管理への第一歩と言えるでしょう。
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 寺島有紀さん
TEXT:友清 哲
EDITING:Indeed Japan + ミノシマタカコ + ノオト
