社員による不適切なSNS投稿がはらむ企業リスク
”バイトテロ”と呼ばれるいたずら目的のものから、差別的な発言、企業名を挙げた批判まで、従業員によるSNSトラブルはさまざまです。従業員の不適切な投稿で企業が負うリスクには、以下があります。
◆事業への影響
従業員の不適切な投稿で店舗が閉鎖するなど事業にもダメージを与える可能性があります。
◆企業イメージの低下
顧客情報の漏洩などにより、企業イメージを損なう恐れや顧客とのトラブルに発展する可能性があります。
◆採用への影響
SNSに限らず、インターネットで従業員が企業を批判するような投稿をした結果、企業の労務管理が問われ、求人が集まらなくなる恐れがあります。
社員にSNS利用を禁止することは法律上できるのか
企業はあくまでも従業員と雇用契約を締結しているだけであり、業務に関連する範囲内でしか指揮権を持っていません。そのため、従業員の私的領域に属するSNS利用について、会社のコントロールは及びません。
仮に企業が合理性を欠く、厳しいルールを設けて違反者に懲戒処分を含む何らかの処分を下したとしても、その条項そのものが無効になるため、ルールに基づいて従業員を処分したり、業務命令を下したりすることはできません。
ただし、業務に関わる内容に関しては、従業員のSNSの投稿内容を制限するないしは、投稿内容について注意指導や処分を行うことができる場合があります。
◆企業が従業員のSNSを管理・禁止できること
- 取引情報や顧客情報などの漏洩
- 業務時間内(休憩時間を除く)に業務と関係ない投稿をする
企業がどの範囲まで管理できるかをルール化して企業側が把握しておく必要があり、従業員にも周知する必要があります。
社員のSNSトラブルを未然に防ぐためにできること
企業として、従業員のSNSトラブルを未然に防ぐために次の対策をする必要があります。
◆入社時に誓約書を書かせる
「企業の情報や取引情報、顧客情報をSNSやブログなどに投稿しない」「企業の名誉や信用を損なうような投稿をしない」などの内容を誓約書に記載し、従業員に署名させます。
◆就業規則に記載してルール化する
誓約書と同様の内容を記載するとともに、次の項目も明記しておくことが重要です。
- 禁止事項に該当する投稿が懲戒事由に当たること
- 企業から貸与されたパソコンやスマホを企業がモニタリングすること
ただし、モニタリングの方法や範囲は、相当な範囲に限定し、従業員の個人情報に配慮する必要があります。
◆SNS利用に関するガイドラインの作成
「禁止事項」と禁止はできないけど啓蒙したい「推奨事項」を記載したガイドラインを作成し、従業員に配布します。
従業員に啓蒙したい事項として、次の内容を記載します。
例)
- 自分の投稿が差別的な発言でないか、留意して投稿する
- SNSで所属を明らかにしている場合は「※発言は個人のものです」などの注意書きを入れる
- 誤解を招くような発言や差別的な発言をして炎上したときは、速やかに謝罪する。必要に応じて公開範囲の制限を行うなど対処する
- 匿名で投稿しても身元が明らかになる可能性がある
- 企業の商標やロゴは使用しない
◆SNS研修の実施
研修を通じて、SNSに不適切な投稿をして炎上した場合に従業員に生じる以下のような責任を周知します。これは正社員、アルバイトなど雇用形態に関係なく行うことが大切です。
- 企業が就業規則に則って、従業員に懲戒処分を下す可能性がある
- 場合によっては名誉毀損や業務妨害などで刑事告訴をする可能性がある
- 企業が損害を被る場合は、その従業員に損害賠償請求をするケースもある
説明の際は実例を交えると、より効果的です。このような研修を行うことは従業員の身を守ることでもあると伝えて、不適切なSNS利用に注意を促します。SNSのツールや仕様が変われば、注意すべき内容も変わるため、定期的に研修を行いブラッシュアップしましょう。
従業員の不適切投稿で損害を被った場合にはどのような対処が取れるのか
従業員の不適切な投稿で企業が損害を被った場合に取れる対処について、ケース別に紹介します。なお、懲戒処分を行う場合には、就業規則上に根拠が必要です。
・企業の名誉を傷つけるような具体的事実の投稿
投稿内容が企業の社会的評価を下げる具体的事実の摘示があれば名誉毀損に該当する可能性があるため、企業が従業員を刑事告訴する、懲戒処分行う、損害賠償請求を行うという対応が考えられます。
・機密情報の漏洩
漏洩した情報の内容や情報管理体制の精査などを行なった上で、従業員に対し、注意指導、懲戒処分や損害賠償請求を行うなどの対応が考えられます。
・従業員の差別的な投稿で企業のイメージダウンにつながった場合
従業員に対して、注意指導や懲戒処分をすることが考えられます。
また、業務時間内に業務に関係ない投稿をした従業員には「職務専念義務に違反する」として、注意指導や懲戒処分を行うケースもあります。
◆投稿者がわからない場合
- 企業が貸与したパソコンやスマホから投稿された場合は、モニタリングでログを確認して投稿者を特定する
- 投稿者がわからなくても投稿が消えればいい場合は、プロバイダーに任意で削除請求をし、任意で削除してもらう
- 投稿内容が名誉毀損に該当し、かつ、任意の削除請求で投稿が消されない場合は、裁判手続きを利用して削除請求をする
- 投稿内容が名誉毀損に該当する場合は、裁判手続で発信者の情報開示を行い、個人を特定し、損害賠償請求をする
ただし、削除請求や発信者の情報開示は認められないことも多く、企業が望む結果にならない可能性もあります。企業はそのようなリスクも考慮した上で対処する必要があります。
◆弁護士に相談する際のポイント
・証拠をとっておく
投稿が消される可能性があるので、スクリーンショットを取る、プリントするなどの方法で残しておきます。投稿された日時やプロフィール画面も必要です。この証拠を見て、弁護士は投稿内容が名誉毀損や懲戒処分の対象となる行為等に当たるかどうかを判断します。
このときに、SNSを閲覧するブラウザやアプリによっては日本時間で表示されないものもあります。当事者への事実確認が十分にできない可能性があるので、日本時間に紐づいているかを確認することが重要です。
・投稿した従業員にヒアリングをする
弁護士に相談した後でもいいので、投稿した従業員に事実確認をします。
従業員のSNSトラブルは、どの企業でも起こる可能性があります。事前に対策していれば、万が一トラブルが発生したときに、企業は十分な対応をしていたと対外的に示すことができ、企業や従業員を守ることにもつながります。
※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
<取材先>
杜若経営法律事務所 弁護士 井山貴裕さん 友永隆太さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト